軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第14話 レベルアップの秘密

「大地って偉大だよね。アレン兄さん、僕は新たな真理を見つけてしまった気がするよ」

「あー、そうだな。とりあえず門が開いたから行くぞ」

ジーンを背負って走ること二日。人目になるべくつかないように夜に移動し、昼は休憩するという旅をアレンはこなし、無事にライラックにたどり着いた。

その間のほとんどの時間、ジーンは気を失っているか眠っており、本人からしたらいつの間にか着いていたというのが本音だった。ただその途中で味わった恐怖は心にこびりついていたが。

ただ歩いているだけなのに幸せそうな顔をしているジーンの姿に、さすがにちょっと刺激が強すぎたかと反省しつつ、アレンは屋敷に向けて歩を進めていく。

そしてたどり着いた屋敷を見上げ、ジーンはぽかーんと口を開けていた。

「アレン兄さんって、今ここに住んでるの?」

「冒険者の仕事でギデオンと知り合ってな。頼まれごとをされたときにこの屋敷の権利なんかも分けてもらったんだ。まあ半分は管理人みたいなもんだ」

「へー」

驚きを隠せない様子のジーンを案内するために門を開けようとしたアレンの目の前に、いつの間にかコルネリアが現れる。

「お帰りなさいませ、ご主人様。お連れ様は以前お話されていた弟 君(ぎみ) でしょうか?」

「よくわかったな。俺の弟で学術都市国家キュリオで研究者をしているジーンだ。で、ジーン。こっちはこの屋敷の管理や俺たちの世話をしてくれているメイドのコルネリアだ」

「コルネリアと申します。ご主人様方にはいつもよくしていただいております」

「えっとジーンです。兄がお世話になっています」

戸惑いながらもしっかりと挨拶をするジーンに、うんうんとうなずいていたアレンの腰に飛び出してきたなにかが思いっきりタックルをかます。

しかしアレンは軽く揺れた程度であり、反対にそのぶつかってきた本人が痛みに瞳を潤ませていた。

「レン兄おかえりー。大好きな妹の抱擁だよー。あいたたた」

「レベッカは結果がわかっているのに、なんでそういうことをしようとするんだ?」

「えー、だってレン兄が……げっ、ジー兄いたの!」

抱きついたまま俺の隣を見たレベッカが、ジーンの姿を認めて俺の背中に隠れるように身を隠す。

ジーンはじとっとした目をしながらひとつため息を吐くと、こんこんと説教を始めた。

「レベッカ。君は相変わらずアレン兄さんにちょっかいをかけているのかい? 君にとってそれは愛情表現かもしれないけれど、相手にとってはただの迷惑かもしれないと考えたことはないのかい?」

「レン兄はちゃんと受け止めてくれるもん」

「それはアレン兄さんの優しさに甘えているだけだよ。レベッカもいい年なんだから、そろそろそういう行為はやめたほうがいいと思う」

「むっかー、ジー兄だって、レン兄に甘えてばっかりだったでしょ! 本代とか色々、一番お金をかけてもらったのはジー兄じゃない。その点、私は早くに商人見習いとして働きに出たからお金かかってないもん」

まるで子どものように言い合いを始めた二人をにこにこと眺めているアレンのそばに、すすすっとコルネリアが近づいてくる。

「あの、お二人は仲が悪いのでしょうか。レベッカさんもいつになく張り合っていますし」

コルネリアの疑問に首をかしげたアレンが二人を眺める。そして小さく笑うと

「性格が反対だから言い合いは多いけど、仲はいいぞ」

「「よくない!!」」

「なっ」

アレンの言葉に反応して、同時に反論をしてきた二人の姿をコルネリアに見せつけ、アレンはにやりと笑ったのだった。

ジーンとレベッカをなんとか落ち着かせ、屋敷に入ったアレンはジーンを引き連れてマチルダに会いにいった。

結婚や出産のお祝いをそつなくこなすジーンの姿に、思わずアレンの瞳が潤んだのは言うまでもない。そしてその部屋にはアレンの愛すべき二人の子どももいたのだが……

「アレン兄さん。レックスをキュリオに連れていけないかな? この子の才能なら、歴史に名を残す研究者になれるかもしれない」

「あ、あのジーンおじさん?」

「なんだい、レックス。ああ、そこはちょっと難しいかな。この屋敷に以前住んでいたギデオン師が提唱した理論なんだけど、薬草に限らず他の物質についても……」

「はい、そこまで。ジー兄の悪い癖が出てるよ。レックス君がかわいそうじゃない」

ジーンが持ってきた本を半ば強制的に読まされていたレックスを、レベッカが奪うようにして抱きあげる。

冒険者としてそれなりのレベルを上げたレベッカにとって、もうすぐ三歳で、まだまだ小さいレックスを持ち上げることなど造作もないことだった。

レベッカにぎゅっと抱きしめられ、頬を赤くするレックスを見ながらジーンがため息を吐く。

「レベッカはわかってない。レックスは天才だよ。それを埋もれさせておくのは人類の損失だ」

「才能があるからってそれに応える義理はないでしょ。レックスが幸せな人生を送れるかどうかが一番大切なんだし」

しばらくレベッカとジーンはにらみ合っていたが、ほぼ同時にマチルダと並んで歓談しているアレンに視線を向ける。

自分がなにを求められているか察したアレンは、少しの間考えをめぐらせ、ほどなく口を開いた。

「ジーンの考えもわかるが、俺としてはレベッカの意見に賛成だな」

「やった!」

「でも、アレン兄さん。せっかくのレックスの才能を伸ばしてあげたいと思わない?」

「レックスは色々な才能があるからな。どうせなら好きな道に進ませてやりたいんだ。もし学者を目指すってなったら、そのときはジーンを頼るよ」

アレンの言葉に不承不承ではあるがジーンも納得を見せた。しかし最後のあがき、とでもいわんばかりにさらさらと紙に文字を書くとそれを抱き上げられたままのレックスに手渡す。

「もし学者を目指したくなったらここに連絡して。絶対に力になるから」

「う、うん。ありがとう、ジーンおじさん」

いつもはどこか大人びているレックスが、戸惑いを隠せずに自分たちに目をやる様子をアレンとマチルダは微笑ましく見守ったのだった。

そういったドタバタがありつつも普段は会えないジーンと交流する日々を過ごしたアレンの家族だったが、一週間後ついにライオネルたちがライラックに戻ってきたことで、そんな日々が終わった。

冒険者ギルドに帰還の報告をしたその足でアレンの住む屋敷にやってきた『ライオネル』の面々に促され、アレンはジーンを伴って街を出た。

その行く先は、言うまでもなく冒険者に不人気のスライムダンジョンだった。

初めて入るスライムダンジョンに、『ライオネル』やジーンがきょろきょろと辺りを見回す中、アレンは迷うことなく人気のないダンジョンを進み最深部にたどり着く。

そしてボス部屋に鎮座していたヒュージスライムをすっぱりと切って倒すと、入り口近くの扉の隅の壁に手をついた。

「隠し通路だと?」

驚くライオネルを引きつれアレンは少しニヤリとしながら進んでいく。そしてたどり着いたなにもない小部屋を見て、期待はずれといわんばかりにため息を吐く『ライオネル』たちの姿に小さく笑った。

「てっきりアレンの秘密がここにあると思ったんだが、違うのか?」

「いや、ここでいいんだ。ライ、ちょっとここに立ってくれ」

「ああ」

アレンに指示され部屋の中央にライオネルが足を踏み入れると、床に魔法陣が現れ光を放つ。他の誰にも聞こえないが、頭の中に響いた音にライオネルは小さく「ステータス」と呟き自身のステータスを確認した。

「このダンジョンにもレベルダウンの罠があるのか。そうか、このダンジョンにはレベルアップの罠もある。これを組み合わせれば自分に都合のいいステータスを簡単に得られる。アレンがいきなり強くなったのはそういうわけか」

「おー、さすがライ。半分正解だ」

「半分?」

首を傾げるライオネルを連れて、アレンがレベルアップの罠に向かって歩いていく。

すでに発見から数年が経過し、当初は予約がとれないほどだったレベルアップの罠も、今は月に数度予約が入るかどうかくらいにまで需要が落ちていた。

マチルダが務めていた専門の窓口もなくなるほどだが、予約制度自体は生きていたのでアレンは半年という長期間それを借り切っていた。弟のジーンが研究の一環として使うと理由をつけて。

レベルアップの罠を使う者がいなければ、スライムダンジョンを訪れるような物好きはいない。ある意味貸しきり状態であるため、アレンが探しているものはすぐ見つかった。

地面をもぞもぞと動く液体状のモンスター、最弱の名をほしいままにするスライムだ。

「よし、普通に歩く感じでそのままスライムを踏み潰してくれ」

「ああ、別にいいが。これに意味があるのか?」

「試してみればわかるって」

首をひねりながらもライオネルはアレンの指示通りにスライムを踏み潰し、そして頭に響いたレベルアップの音に従いステータスの確認を始める。

最初は普通にしていたライオネルだったが、その表情が徐々に変わっていく。

「おい、アレン。これはどういうことだ?」

「どうした、ライオネル。俺たちにもわかるように説明してくれ」

アレンに掴みかからんばかりに迫るライオネルをナジームが止める。そして理由を尋ねると、一度大きく息を吐いてからライオネルが話しはじめた。

「レベルダウンで下がったレベルが、スライムを踏んだら上がったんだ」

「まあそうだよな」

「ああ、だがなぜか全てのステータスが6上がっているんだ。全くのばらつきなく均等に。こんな現象見たことがない」

「ちなみにそれ、1から10の間でランダムで上がる数値が決まるんだ。面白いだろ」

アレンのセリフに『ライオネル』全員が目を見開く。そして同時にアレンがどうやって強くなったのかを理解した。

「確かにこれは危険ですね」

「犯罪者に知られたら悲惨なことになるぞ、おい」

「国に知られるのも危険だな。戦争の引き金になりかねない」

「いやー、これはアレンが隠すはずだ」

ライオネルが顔を見合わせ話し合う様子をしばらく眺め、アレンはじっとライオネルを見つめて考えにふけるジーンに向き直る。

「一律に1から10のランダムで上がるステータス。どっかで聞いた話だよな」

「うん。補助数値が影響しているのかもしれない。でもどういう原理なんだろう」

腕を組みながら考え始めたジーンに苦笑したアレンは、話し合いを続ける『ライオネル』たちに声をかける。

「さて、皆にはこの方法でレベルアップしてもらう。とはいえ魔王がいつ出てくるかわからないからある程度は妥協してもらうけどな。で、レベルを上げきった奴は俺とダンジョンを攻略して体を慣らしてもらう。これらを魔王が現れるまでに全部済ましたいから、昼夜問わずレベル上げをすることになる。きついかもしれないがいいか?」

アレンのその言葉に、ライオネルたちは迷うことなく同意したのだった。