作品タイトル不明
第12話 共闘
翌朝、『ライオネル』と一緒にアレンはキュリオのダンジョンへ潜っていた。といってもアレンはあえて戦わず、『ライオネル』が先導するあとについていっただけだったが。
これはただ単にさぼっているわけではない。長年同じメンバーで戦い続けている『ライオネル』はパーティとしての完成度が高く、アレンという余計な異分子が入ってしまうと逆に危険かもしれないと判断したからだ。
もちろんこれが『ライオネル』が初めて探索するダンジョンであればアレンもやりようはあったのだが、このキュリオのダンジョンはライオネルがここ最近の本拠地として戦ってきた場所だ。万が一のことなど起こりようがなかった。
(やっぱいいパーティだよな)
後ろから『ライオネル』たちが戦う姿を眺め、アレンがしみじみと考える。
『ライオネル』は全員が金級であるため、当然個人としての実力も高い。しかし個々の力を考えるとそれより上の者は少なからずいた。
だがパーティとして考えると『ライオネル』はその実力を大きく伸ばす。ライオネルを中心に互いにフォローしあい、非常に安定した戦いを可能にするのだ。
その力は、だれか突出した実力の者に頼ったミスリル級のパーティをしのぐほどだった。
すいすいと『ライオネル』はダンジョンを探索していき、半日程度で十八階層までたどり着き、アレンが作った昼食を食べて数時間後には目的の二十二階層に降り立った。
数年ぶりにアレンが見た二十二階層は特に目新しい変化などなく、以前と同じようにたどり着いたレベルダウンの罠のある部屋には誰もいなかった。
「人はいないんだな」
「うん。ひととおりの検証が終わったということで依頼が完了したからね。依頼を受けていた他の冒険者たちは旅立ったよ」
「俺たちは罠を利用するために残ったけどな」
ピートの言葉にナジームが補足を入れる。
たしかにこの階層まで探索できる冒険者たちであれば、依頼がなければ他のダンジョンに向かうだろう。金を稼ぐと言う意味ではこのキュリオのダンジョンは特別にうまいわけではないのだから。
それでもアレンは万が一を考えて周囲の気配を探る。一番後ろを歩いて、追跡者がいないことを確かめてはきたのだが、ここで待たれている可能性がないわけでもないからだ。
真剣な顔をしたアレンの姿に、何をしているのかを察したライオネルたちは黙ってそのまま待ち、息を吐いたアレンにライオネルが問いかける。
「それで、なにを教えてくれるっていうんだ?」
「あー、うん。とりあえずなにから説明したもんだかって感じなんだが、お前ら近々魔王が襲ってくるって言ったら信じるか?」
「魔王とは、あの魔王のことか?」
「パーシーが言うあの魔王が、物語とかに出てくる魔王って意味ならそうだな。詳しくは俺も知らねえけど」
アレンのとんでも発言に、『ライオネル』の面々は懐疑的だった。昔から良く知るアレンだからこそ聞いているが、もし酒場でそんな話をしている者がいたら軽く笑って流していただろう。
もちろんそれはアレンもわかっている。実の妹であるレベッカが泣きながらもたらした情報でなければアレンも信じなかっただろうと思うからだ。
想定どおりの流れにうなずきながら、アレンは神官のトリンへと視線を向ける。
「なあ、トリン。俺の妹のエミリーがシスターの修行をしているって話、覚えているか?」
「ええ、一度お話もさせていただきましたし。信心深く、優しさにあふれた女の子でした。それがなにか?」
「そのエミリーがな、聖女に選ばれたんだ」
穏やかな顔のままトリンが固まる。しばらくそのまま微動だにしなかったトリンだったが、ゆっくりと胸の位置に手を添えると祈り始める。その顔はこの上なく幸せそうだった。
祈りが終わり、トリンがほぅ、と小さく息を吐く。そしてアレンに向けてこれぞ聖職者といわんばかりの穏やかな笑顔を向けた。
「未来の聖女様をわずかばかりでも指導できたことは、この私の一生の栄誉となるでしょう。感謝します、アレンさん。そしておめでとうございます」
「あー、うん。ありがとな。とはいえこれが本題じゃなくてな、その聖女様から教えてもらったんだよ。魔王が襲ってくるって」
アレンの発言に、自然と皆の視線がトリンに集まる。
レベルも高く、神官としてそれなりの地位にあるトリンなら教会の実情についてもある程度は知っているため、その情報が嘘か本当かの判断がつくだろうと皆が考えたのだ。
皆の視線の意味を察したトリンは、少し難しい顔をしながら口を開く。
「教会からは公式にそのような通知は来ていません。ただ聖女様がそのような虚言を放つことは考えづらい。教会は混乱を最小限に抑えるために、秘匿しながら準備していると考えるのが筋でしょうね。魔王が活動を開始する時期について神託があったのかもしれません」
「アレンが嘘をついている可能性は?」
「地上に出て教会に行けば新しく聖女になった人の名前くらいはすぐにわかりますし、そんなわかりやすい嘘をつく理由がありませんから」
トリンの説明に、今度はライオネルたちが難しい顔をし始める。
魔王というのは、はっきり言っておとぎ話の中の登場人物の一人というのが一般的な認識なのだ。そんな魔王が存在して、しかもこれから襲ってくると言われてもなかなか納得しづらいだろう。
皆が黙り込む中、ライオネルがアレンに視線を向ける。
「どちらにせよ魔王なんて現れれば上位の冒険者には緊急依頼が発せられるはずだ。その時に一緒に戦おうという勧誘か?」
「半分はそうだな」
「半分?」
「ああ、半分だ。もう半分はお前らにもっとレベルを上げて強くなって欲しいってことなんだ」
なに当然のことを言っているんだ、といわんばかりの皆の態度に苦笑しながら、アレンは手を前に掲げる。
「『ファイヤーボール』」
アレンの目の前に人の体など軽く飲み込んでしまうほどの巨大な火球が現れる。そして放たれたそれは、ほぼ傷つかないはずのダンジョンの壁を簡単に溶かしていった。
地面まで揺れるほどの威力だと? と驚きを隠せないライオネルだったが、ほどなくして揺れているのは地面ではなく、自分の体が震えていることに気づく。
「馬鹿な……」
魔法使いのパーシーが唖然としながら消えた火球によって残された跡を眺める。
本職であるがゆえ、アレンが放った魔法の威力の異常さに納得できないのだ。なにせアレンが放ったのは『ファイヤーボール』。魔法の中でも初級に数えられる基礎的なもので、その威力もたいしたことないはずだからだ。
パーシー以外の皆にもそれは伝わった。明らかに以前のアレンとはなにもかも違うと。
「アレン、その力は?」
「ああ、ちょっとした幸運で得ることができたんだ。ちなみに正体を隠してこの力を使って活動していた時の名前がネラだ」
「はぁ!? ネラがアレンだと?」
「ごめん、アレン。ちょっと情報が多すぎるよ」
アレンの告白に、『ライオネル』の面々は混乱しきりだった。
なにせ一つ一つの情報の衝撃が大きすぎるのに、それが次から次へとやってくるのだ。なにを考えればいいのかわからなくなっても仕方がない。
そんな中、ただ一人ライオネルだけがじっとアレンの姿を見つめていた。
「アレン。お前は勇者になるつもりか?」
その発言に、ライオネルが正しく考えを理解していることを確信したアレンは、嬉しく思いながら首を横に振る。
「そんな面倒なもんになりたくはないんだけどな。でも家族を守るために必要ならなんでもするって俺は決めたんだ」
「その一つが俺たちを巻き込むことだと?」
「そうだ。俺の強くなる方法は誰でも簡単に力を手に入れられるんだ。時間はそれなりにかかっちまうけどな。それがむやみに広がれば、下手したら魔王どころの騒ぎじゃなくなるのは想像がつくだろ? だから絶対に秘密を守れる仲間が必要なんだ。それが誰かって考えたときに思い浮かんだのがお前らだったってわけだ」
一人一人を見回しながらアレンが真剣な表情で語りかける。
アレンの視線を受けても誰も目を逸らさず、最後にアレンの視線が向かった先へ、皆の視線が集まる。
ライオネルは皆の視線を受けながら、ニヤリと笑みを浮かべた。
「どっちにしろ魔王が現れたら戦いに行くんだ。活躍の場が増えることに反対の奴はいるか?」
ライオネルがパーティーメンバーに視線を向けていく。ナジームが、ピートが、トリンが、パーシーがそれに対して否と示す。
その反応に満足げにうなずき、ライオネルは再びアレンに向き直った。
「わかった。『ライオネル』はアレンと協力し、またその際の秘密を漏らさないことをここに誓う」
「ああ、頼りにしてるぜ」
アレンとライオネルは、がっしりと握手を交わす。
はるか昔、パーティを組んでいた二人が今、再びその手を取り合ったのだった。