作品タイトル不明
第11話 懐かしい仲間たち
ジーンとの夕食と片づけを終えたアレンは、「せっかくだし泊まっていったらどう?」というジーンの誘いを断り宿に帰って休んだ。
アレン自身、一瞬はそれもいいかと考えたのだが、リビングだけでもこれだけぼろぼろと漏れがあるのだ。奥の部屋に何があるかわかったものではないと断ったのだ。
夕食の時間がいつもより遅めだったこともあって既に周囲は暗闇に包まれている。
ところどころにある魔道具の街灯によって照らされているため歩けないほどではないが、ほとんどの店が既に閉めていることもあり、人通りはほとんどなかった。
キュリオは基本的に研究者の国だ。とはいえダンジョンがある場所がら冒険者も少なからずはおり、そういった者たちの需要を満たす夜の施設がないわけではなかった。
店内から漏れる明かりと楽し気な声が響く門付近の通りをアレンがぷらぷらと歩いていく。
傍から見れば冒険者がよさげな店を探して歩いているように見えただろうが、アレンが探しているのは人だった。
そして一軒の落ち着いた雰囲気の酒場に目をつけると静かにその中に入っていく。席に案内するために動こうとした女給に笑みを浮かべながら手でそれを制し、アレンは店の奥でゆったりと酒を飲み交わしている五人に向けて歩み寄る。
「よお、久しぶり。頑張っているみたいだな」
そう馴れ馴れしく声をかけたアレンに飲んでいた五人が振り向く。それは『ライオネル』の面々だった。
「おおっ、アレン。元気だったか?」
一番近くにいた禿げ頭に鍛えられた体をした剣士のナジームが立ち上がり、近くのテーブルから椅子を引き寄せると肩を組むようにしながらアレンをそこに座らせる。
「アレンはエールだったっけ?」
「いや、せっかく目の前に高い酒があるんだ。それを飲まないと損だろ」
気安い様子でアレンに声をかけ、女給を呼ぼうとした弓士のピートにアレンが軽口で返す。そしてアレンは目の前に滑ってきたグラスを危なげなく掴んだ。
「土地がら珍しい酒も多い。アレンも試してみるといい」
グラスを滑らせた魔法使いのパーシーの言葉に、アレンが苦笑いながらクラスに注がれた緑色の液体に視線をやる。実際にパーシーの目の前のグラスにも注がれているのだから味は問題ないはずなのだが、その毒々しい色は飲むのに少し勇気を必要とした。
「そういえばアレンさん。二人目の子供が生まれたそうですね。おめでとうございます。私も祝福にうかがいたかったのですが、なにぶんこちらが忙しくて」
「気にするなって。回復役が抜けたら大変だろ」
申し訳なさそうな顔をする神官のトリンに、アレンがにこやかに笑いながら返す。
そのまま今日の出会いとアレンの子供たちのために祈り始めたトリンに皆が苦笑する中、アレンは自分の対面に座り一人だけ酒を飲まずに食事を食べているライオネルに視線を向けた。
アレンとライオネル。二人がじっと視線を交わす。そして同時にふっと笑顔を浮かべた。
「元気そうだな、ライ」
「アレンもな」
お茶の入ったカップと酒が入ったグラスを合わせて鳴らし、二人は笑いながらそれに口をつける。そしてあまりの酒精の強さにせき込んだアレンを見て『ライオネル』の面々は笑ったのだった。
アレンと『ライオネル』の面々は飲み交わしながら和やかに話していた。
キュリオで別れて既に三年以上が経過しており、彼らの話が早々に尽きることはない。以前対立していたことが嘘であるかのように自然に溶け込むアレンに、ライオネルは時々複雑そうに視線を向けていたが。
「へー、じゃあ結局全員レベルを上げなおしたんだな。だからこんなに時間がかかったのか」
「安全第一で一人ずつ順番にしたからね。アレンの弟はすごいよ。レベルはけっこう下がったのに、ステータスを狙って上げられたからほとんど支障がないんだ」
「もっと早くに知れていればって思ったりしたけどな! なんにせよジーンのおかげだ」
ピートとナジームに褒められアレンは満面の笑みを浮かべる。
ジーンの理論の検証をすることになった『ライオネル』の面々は、キュリオのダンジョンにあるレベルダウンの罠を利用してレベルを一まで落としていた。そこからジーンの検証をしながら地道にレベルを上げなおしたのだ。
もともと『ライオネル』のレベルは平均して二百四十くらいだったのだが、現在は百八十程度にまで落ちていた。それでも皆の顔に不満や不安は全く感じ取れず、それどころかその結果に自信さえ感じられた。
「アレンさんの噂も聞きましたよ。ドゥラレにできたダンジョンを攻略したと」
「まあ俺は知り合いのミスリル級の冒険者についていっただけのようなもんだけどな」
「ダンジョン踏破者の金級冒険者、『不惑』のアレンだったか。『地図屋』というのも聞いたが」
「大層な名前だよな。こっちは戸惑ってばっかだってのに」
そう言ってアレンはトリンとパーシーの言葉を笑い飛ばしたが、『ライオネル』の面々はじっとそんなアレンの顔を見つめていた。
アレンも『ライオネル』の面々も同じ金級冒険者だ。しかし二つ名持ちの冒険者というのは特別な存在である。ある意味冒険者の頂点とも言うべきミスリル級の冒険者であっても、全ての者が二つ名をもっているわけではないことからもそれはうかがえる。
生半可な実力で得られるものではないのだ。
以前からアレンと付き合いのあったライオネルたちは、かなり正確にアレンの実力を把握していた。それはどう高く見積もっても鉄級の上位でしかなく、そんなアレンの現状に皆が違和感を覚えていたのだ。
皆の視線を受け、それがどういった意味を含んでいるかを察したアレンが周囲を見回す。
長い時間話し込んだせいか周囲の客も少なくなってきており、暇なのかあくびをかみ殺した女給がアレンに見られて頬を赤く染めていた。
「ちょっと長く話しすぎたな。そろそろ宿に帰るとするか」
「アレン」
ライオネルはただ名前を呼んだだけだ。しかしその奥に隠された問いを、アレンは正しく理解していた。
アレンはしばし、真剣な眼差しでライオネルを見つめ、それをふっと崩すと立ち上がり右手を挙げながら背を向けた。
「明日ダンジョンに連れてってくれよ。お前らと一緒なら入れるだろ。久しぶりに一緒に探索しようぜ」
そういってひらひらと手を振ってアレンが去っていく。五人はその背中が扉の向こうに消えるまで眺め続け、顔を見合わせると小さく笑った。
「明日教えてくれるみたいだな」
「アレンさんは、変わりませんね」
「まっ、それでこそアレンって気もするけどな」
「確かに!」
そんなことを言い合い笑った四人の視線が自然にライオネルに集まる。
ライオネルは真剣な表情でゆっくりとうなずくと、すぐに表情を崩した。
「あいつ、おごってやったのに礼も言わずに去りやがった。普通は入れないダンジョンに連れて行ってやるんだし、明日の探索費用はアレンに請求ってことでいいよな」
ライオネルの冗談に、四人が笑う。
そして五人は立ち上がり酒場を後にした。明日の探索に様々な想いを胸に秘めながら。