軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第7話 ドゥラレへの旅立ち

それから約一か月。様々な準備と共に優先的に進められたレベッカとコルネリアのレベル上げは順調で、二人のレベルはすでに二百五十を超えていた。

普通なら考えられないほどの早さだが、金に糸目をつけずマジックポーションなどをふんだんに使用し、二人のレベルではありえないほど深い階層で戦い続けた結果、これだけの成果を出すことができていた。

もちろんこんな無茶ができたのは、アレンがいつでもフォローできるようにしていたからであり、通常であればもっと安全性に配慮しなければならないためこうはならなかったであろう。

レベルとしてはやはり魔法の使えるレベッカの方が高いのだが、魔法と短槍両方で戦ったレベッカは昔のアレンのようなどっちつかずのステータスになっており、短槍のみで戦ってレベルを上げたコルネリアより近接系のステータスは劣っている。

とはいえ鉄級としては破格の強さであることに変わりはなく、純粋に戦闘のみに関していえば二人とも金級程度の実力にまでたどり着いていた。

五十一階層のエレメントバットとの戦闘についても、ほとんど二人で対応することができるようになってきている。

これについては慣れとどの程度までであれば安全に退避できるかを把握できたという点が大きいが、アレンがフォローに入る回数はどんどんと少なくなっていった。

最近では倒したエレメントバットから属性付きの魔石を抜くのがアレンの主な役割になっているくらいだ。

(そろそろ大丈夫か?)

前を歩くレベッカとコルネリアの姿を眺めながらアレンがそんなことを考える。

レベル上げを終え今はダンジョンの帰途であるのだが、先行しているのは二人だけではない。その隣にはエルフの男女二人の姿があった。

四人はまるで同じパーティであるかのように親しげに言葉を交わしながら進んでおり、戦闘に関してもレベッカとコルネリアが前衛を務め、エルフたちが後方から魔法で支援するという形で非常にバランスがよかった。

初めて五十一階層でレベル上げをした翌日、覗き疑惑の件でレベッカとアレンはエルフたちの誤解を解くために謝りに行った。

それについてはカミアノールにもらったギルド証入れを見せたところ、あっさりと信用されたので問題はなかったのだが、それ以降もレベッカはちょくちょくとコルネリアを連れてエルフたちの小屋に遊びに行っていたのだ。

アレンとしては、レベッカが迷惑をかけなきゃいいんだが、まあコルネリアもいるし大丈夫かなどと考えて放置していたのだが、いつの間にか一緒に帰るぐらいの仲になっていたのだ。

少なからず排他的なところのあるエルフに対して、短期間でここまで距離を詰めたレベッカのコミュニケーション能力にアレンは苦笑いすることしかできない。

ライラックの冒険者ギルドに戻り、エルフたちと一緒に属性付きの魔石を納品しながらちゃっかりと次にダンジョンに行く時の約束まで取り付けたレベッカの抜け目のなさにアレンが呆れているとその背中にドスンと衝撃を受ける。

「アレンの兄貴。ただいま!」

「おっ、イーディスか。道中問題なかったか?」

「うん。ドゥル山脈でちょくちょくモンスターとは出会ったけど楽勝だったよ。はい、これ預かってきた手紙」

差し出された四通の手紙を受け取り、イーディスの依頼書に完了のサインをアレンがさらさらと記入する。

その様子を口の端を上げて見守っていたイーディスは、アレンが書き終えたのを確認するとそれを奪い取るようにして窓口に向かっていった。

「あっ、おい!」

「ありがとねー。じゃあちょっと預けたお金を引き出してくるから」

良い笑顔で去っていくイーディスにかける言葉が見つからずアレンはため息を吐く。どうしてこうも学習しないのかとは思うが、それも一つの生き方かと諦めたのだ。

アレンは思考を切り替え、渡された四通の手紙に目をやる。アレンが送った手紙に対して返してきたその四名は、カミアノール、ギデオン、ジーンそしてライオネルだった。

その日の夜。屋敷で家族そろっての夕食を取り終え、少しまったりとした雰囲気が漂う中、アレンは皆を見回すと口を開く。

「今日イーディスが送った手紙の返事を持って帰って来た。反応はまあ、色々だったんだがとりあえず全員と面会はできそうだから、明日ドゥラレとキュリオに向かおうと思う」

「私もついていこうか? ドゥラレにはお店もあるし」

そう確認してきたレベッカにアレンは首を横に振り、笑って見せた。

「エルフたちとダンジョンに行く約束をしていただろ。五十一階層でのレベル上げならもう俺の手はいらないだろうし、そっちを優先してくれ。油断はするなよ」

「もう、レン兄は心配性だなー。大丈夫だって」

「コルネリア、悪いけどレベッカをくれぐれも頼む」

「承知しました」

「いや、おかしくない? レン兄もそうだけど、コルネもなんで当然のように受け入れてるの? レベル的には私のほうが高いんだよ!」

視線を二人にやりながら不満そうに頬を膨らませるレベッカの姿に、顔を見合わせたアレンとコルネリアが苦笑する。

そしてアレンはそれをまるっと無視してマチルダとレックスに向き直った。

「マチルダ、レックス。なかなか家にいることができなくてすまん。本当はもっと一緒に居たいんだが……」

「いいのよ。アレンが私たちのためを考えて動いてくれていることは私もレックスも理解しているから」

「かあさまとアマンダは、ぼくがまもるから」

表情を歪めるアレンに柔らかい表情でマチルダが声をかけ、レックスは胸を張って力強くうなずいてみせた。

そんな二人の優しさにアレンは少しだけ瞳を潤ませながら、マチルダに抱かれたアマンダを眺める。そして決意したように顔を上げると、一度大きく息を吐いた。

「少なくとも一か月後のレックスの祝福の儀式までには終わらせて帰るつもりだ。いちおう司祭の手配などは終わっているから大丈夫だと思うが、なにかあったら調整を頼む」

「かしこまりました」

アレンの言葉に、落ち着いた様子でルトリシアが応える。その頼もしい姿にアレンは少し笑顔を浮かべ、そして皆に「ありがとう」と感謝を伝えたのだった。

翌早朝、ライラックのダンジョンに向かう冒険者にまぎれるようにして開門と同時に街を出たアレンは街道を進むことなく南西に外れると、人気がなくなったところで南に向かって走り始めた。

常人の目にはとまらぬほどの速さでアレンは駆け続け、なんとか日が暮れる前にドゥラレの町にたどりつく。

通常であれば馬車で一週間程度かかる距離を走りきったアレンだったが、さほど疲れた様子もなくその足で冒険者ギルドに向かった。

木の匂いがまだ感じられるのではないかと思うくらいに綺麗なドゥラレの冒険者ギルドに入ったアレンはフロアをぐるりと見回す。

すでに夜に近い時間であるため、仕事を終えた冒険者たちで併設された酒場は盛り上がっていた。

「若いな」

まだ十代と思われる冒険者たちが楽しげに語らいながら酒を飲む姿にアレンが頬を緩める。

酒場にいるのはまだ冒険者になったばかりの者たちばかりだ。ライラックならよく見かける鉄級冒険者の姿はほとんど見えない。

それはドゥラレのダンジョンの階層が原因だった。

ドゥラレのダンジョンはゴブリン系のダンジョンだ。ゴブリン系の素材は人気があまりなく、ただモンスターを倒しているだけでは儲からない。そのうえゴブリンは知恵がまわるため、普通のモンスターに比べて難易度は高めになってしまうのだ。

ライラックの鬼人のダンジョンが人気のない理由がそのままここにも当てはまるというわけだ。

一方、低い階層には果樹が生えておりその実を採取して売れば危険をあまり冒さずにある程度のお金を稼ぐことができた。

そうやってお金を貯めた新人冒険者たちは装備を整え、四つのダンジョンを有するライラックに旅立っていく。そんな流れができているため、ギルドの酒場は夢や希望に溢れた若者たちばかりがいるという状況になっているのだ。

彼らから視線を外したアレンは、酒場の一角に向かって歩いていく。隅であるため人目にあまりつきにくいそこからは、酒場全体を見渡すことができた。

二人がけの小さなテーブルにアレンは腰をおろし、対面に座って静かにワインを飲んでいるエルフの顔を見つめる。

「久しぶりだな、カミアノールギルド長」

そう声をかけたアレンに、カミアノールは余裕のある笑みを浮かべながらワインを掲げたのだった。