軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第6話 備えるためのレベル上げ

ゾマルとドルバンに会った数日後、アレンはレベッカとコルネリアを連れてダンジョンに向かった。

そして途中からアレンの背負う籠に揺られてレベッカたちがたどり着いたのは……

「『サンダーランス』『サンダーランス!』。ちょっとレン兄、なにこの階層!」

「おっ、まだ無駄口叩く余裕があるのか。もうちょっと援護を減らしても大丈夫そうだな」

「『サンダーランス!』 こんなの何分もも、あぁ、もう!! 『サンダーランス』」

五十一階層の暗闇の階層に入り、アレンが唱えたライトサークルの灯りに群がってきたエレメントバットの群れに向けてレベッカが必死の形相でサンダーランスを放っていく。

通り抜けた閃光に貫かれたエレメントバットたちがぼたぼたと地面に落ちていくが、その一部は何事もなかったかのようにアレンたちに向かって襲い掛かってくる。

「シッ!」

先頭に立つコルネリアが、エレメントバットの胴体を貫き、あるときはなぎ払って防衛線を築こうとしていたが、圧倒的な物量を前にその息は早々に荒くなり始めていた。

エレメントバットは五十階層という深い階層に出現するモンスターである割には、非常に弱いモンスターである。

特定の魔法が効かなかったり、圧倒的な物量で襲い掛かってくることを考えなければ、百レベルもあれば十分に対処可能だ。

とはいえそれはあくまで一対一で、明るい場所で戦った場合の話ではあるのだが。

アレンは二人の様子に十分に気をかけながら、レベッカの魔法を食らって地面に落ちたエレメントバットに止めを刺していく。

レベッカが使用している魔法のサンダーランスは速度が速く、貫通性も高い便利な魔法ではある。受けた相手を痺れさせ動けなくする効果があるため汎用性も高いのだが、殺傷力という点を見るとそこまでではなかった。

そのためアレンがこつこつと剣と魔法で止めを刺しているのだが、それも長くは続かなかった。

「レベッカ!」

対応しきれず一体のエレメントバットを後ろに逃してしまったコルネリアが警戒の声をあげる。

「わかった!」

それに応じて短槍を構えて迎撃しようとしたレベッカだったが、これまで連続で魔法が放たれていたからこそ対応できていたコルネリアに無数のエレメントバットが向かう姿を見て自分の失策を悟る。

「『サンダーランス!』」

慌てて放った魔法でコルネリアに向かうエレメントバットの一部を撃ち落としたレベッカは、短槍を大きく振ってなんとか自分に襲い掛かろうとしているエレメントバットを遠ざけようとした。

しかしそいつはするりと短槍をかいくぐると、速度を落とさぬままレベッカに襲い掛かろうとし、遠方から飛んできた小石に貫かれて地面に落下した。

突如として地面に落下したエレメントバットから視線を外し、顔を上げたレベッカの目にコルネリアを助けるように剣を振るうアレンの姿が映る。

ほっと胸をなでおろし再び魔法を放とうとしたレベッカに向けて、アレンは一旦退却することを指示したのだった。

五十階層のエルフたちの小屋の近くに張っておいたキャンプに戻ったレベッカとコルネリアが疲労困憊といった様子で地面に腰をおろす。

そんな二人を少し離れたところから心配そうに見つめる見張りのエルフに気にしないでくれ、と軽く手を振って応じながらアレンは二人にコップに入れた水を手渡した。

感謝を伝え、静かに飲んでいくコルネリアと対照的に、無言で奪い取るようにしてゴクゴク喉を鳴らして水を飲んでいたレベッカが空になったコップを荒々しく地面に置く。

「なんなの、あの階層!」

「いや、事前に説明しただろ。わらわら敵が寄ってくるから魔法を連発しろよって」

「限度があるでしょ!」

自分のマジックバッグから取り出した手のひら大の少し赤みの入ったクッキーをコルネリアに手渡し、レベッカ自身もやけくそ気味にクッキーをかじる。

アレンには手渡されなかった手元のクッキーをみつめ困惑する様子のコルネリアに、アレンは苦笑しながら食べるように促す。遠慮がちに一口食べたコルネリアは、その瞬間驚きに目を見開いた。

「レベッカ、これ!?」

「ふふっ、ちょっとびっくりするでしょ。最初はピリッとした辛さがくるんだけど、後からほんのり甘さがやってくるんだよね。今、王都で人気なんだよ」

「へー、面白いですね。ちょっと癖になるかもしれません」

「レン兄にはあげないからね。そんなもの欲しそうな顔しても駄目だからね。まあどうしてもって言うならあげなくはないけど」

明らかにからかってやる気満々の笑顔でそんなことを言い始めたレベッカに呆れながら、アレンがコルネリアに視線を向ける。

「コルネリア、少しだけ味見したいから端っこをくれるか?」

「あっ、はい」

「えっ、あー!! ずるいレン兄、それはなくない?」

「ずるくない。コルネリアは心の広い清らかな女性だからな、どこかの誰かとは違って。おっ、これはなかなかだな」

コルネリアからもらったクッキーの欠片を口の中に放り込み、アレンが余裕たっぷりの笑みを浮かべながら素直な感想をもらす。

少し顔に赤みを帯びさせて照れるコルネリアの手をレベッカはがしっと掴んで、うるうるとした瞳でその顔を真っ直ぐに見つめる。

「ごめんね、こんな非情なご主人様で。メイドのコルネには断れないよね。私の配慮が足らなかったよ」

「いえ、クッキーを少し分けるくらいは当然……」

「油断しちゃ駄目。こういう小さい要望からどんどん要求が大きくなって、ずるずると断れなくなってしまったコルネは、最終的に若くて綺麗なその体を……あいたっ!」

「人聞きの悪いことをいうな」

妙な方向に話を進めようとしたレベッカの頭がアレンによってはたかれる。頭を押さえて苦悶の表情を浮かべながら、レベッカは本当に涙の流れた瞳でアレンを見上げた。

「だってメイドと言えばそういう展開が定番じゃん。ねっ、コルネ?」

「いや、定番ってどこの話だよ。変なもん読んでんじゃねえよ、なぁ、コルネリア?」

二人に尋ねられたコルネリアが気まずそうにしながらアレンから視線を逸らす。思わぬ反応に驚くアレンをよそに、レベッカは当然と言わんばかりのしたり顔でうんうんと首を縦に振っていた。

「ええっと、私自身は経験がありませんがルトリシアからはそういうことがあるとは聞いています。そこまで珍しい話ではないそうです」

「えっ、マジで? それって問題にならないのか?」

「わかってないなぁ。なにかあっても貴族ならそのくらいもみ消すのは簡単だし、メイドを雇うくらいの金持ちなら金で解決するって」

手で丸い硬貨の形を作って下種な笑顔を浮かべるレベッカの姿をアレンが嫌そうに見つめる。そんな二人の様子を微笑みながら眺めていたコルネリアが言葉を続ける。

「むしろ自分から手を出されるように誘惑するメイドもいるらしいです。主人のお気に入りになればなにかと便利ですし、子どもを孕めば側室に格上げされることもありますから」

「「……」」

アレンとレベッカが顔を見合わせ、気まずい空気があたりにたちこめる。そっくりな仕草で顔を向けてくる二人に、コルネリアは口の端を上げてルトリシアそっくりな静かな笑みを浮かべた。

休憩を挟みつつ何度かの五十一階層でのレベル上げを続けた三人だったが、そろそろ良い時間ということで夕食と仮眠の長い休憩を取ることに決める。

夕食を作って食べ終えたアレンはエルフの小屋に向かうと、挨拶のついでに持ってきたポーションを十本手渡しておいた。いざというときには助け合おうという暗黙の了解を確かにするために。

もちろんネラとして小屋を拠点として攻略しているアレンは、エルフたちがいい人であることを知っている。

しかし今のアレンたちは拠点を持つエルフたちの近くにキャンプを張って安全性を増そうとしている冒険者に過ぎない。同じように扱ってくれるかはわからないのだ。

こういった礼儀が後で重要になってくることを知っているアレンとしては、ポーション十本程度で多少でも心証が良くなるのであれば儲けものだと考えたのだ。

そういった冒険者同士の軽いやりとりを終え、アレンがテントのところまで戻ってくるとレベッカとコルネリアが仲良く夕食の片づけをしていた。

警戒範囲に二人まで含んでくれていたエルフの見張りの男に右手を上げてアレンが感謝を伝えると、そのエルフは柔らかく微笑んで警戒に戻っていった。

「二人とも休んでいいんだぞ。今日は戦い続けて疲れただろ?」

「いえ、ご主人様に食事の準備をしていただきましたし、せめて片付けだけでもいたしませんと」

「さすがコルネ、メイドの鑑だね」

「メイドはこんなとこには来ないんじゃないか?」

「連れてきた本人がなに言ってんの」

そばに立ったアレンのわき腹にレベッカが肘を入れる。苦笑いを浮かべるアレンの目の前でコルネリアが洗い物を終え、それを確認したレベッカが浮かべていた水の玉を遠くに飛ばした。

「あと二日はこんな感じで二人のレベル上げをするつもりだから、体を清めてそろそろ休め。さすがに今日は疲れただろ」

「見張りなら、まず私が……」

「はいはーい。コルネはこっちねー」

レベッカに強引に腕を引かれてテントに連れて行かれるコルネリアに、アレンが笑いながら手を振って返す。

コルネリアのなんともいえない表情に、メイドとして主人より先に休むわけには、とか考えているんだろうなと推測しながらアレンが警戒に入ろうとしたところで、テントの中から出た手がちょいちょいとアレンを呼ぶ。

またレベッカの変ないたずらじゃねえよな、と警戒しながらアレンは近づき外から声をかけた。

「なんだ?」

「ちょっとレン兄、首だけ突っ込んでくれる?」

「嫌な予感しかしないんだが……」

「いいから」

声こそ小さいものの有無を言わさぬその返答に、さすがにコルネリアもいることだし変なことはしないだろうと諦めたアレンがテントに首だけを入れる。

そこには先ほどと同じ服装のレベッカとコルネリアが座っており、真剣な表情でアレンを見つめていた。

レベッカが本当に小さな声でアレンに尋ねる。

「ねえ、レン兄。こんな苦労してレベルを上げる必要あるの?」

「いや、だって例のやつが襲ってくるかもしれないんだろ。レベルを上げたほうが身を守れるし、必要だろ」

「そうじゃなくて、レン兄と同じ方法でレベル上げした方が効率いいんじゃない?」

核心を突くその質問に、一瞬だけアレンは渋い顔をつくったが、すぐに首を横に振ってそれを否定した。

その仕草だけでアレンの考えを察したのか、レベッカは顔をうつむかせながら歪める。そして顔を上げたときにはいつもの表情に戻っていた。

「うん、わかった。大人しくここでレベル上げする。手伝ってくれてありがとう、レン兄」

「ああ。ゆっくり休め」

「ありがとう。それとレン兄……」

「んっ?」

呼び止められたアレンが不思議そうに視線を戻す。そこには服を胸の下の辺りにまでまくりあげ、意地悪そうな笑みを浮かべているレベッカの姿があった。

次にレベッカがとるであろう行動を察したアレンは、即座に逃げようとしたが、レベッカが大声を張り上げる方がわずかに先だった。

「キャー、妹の着替えを覗こうとするなんて、レン兄の変態!」

「馬鹿やろう、人聞きの悪いこと叫んでんじゃねえ!」

「はっ、もしやコルネが目当てなの。心配しないで、コルネ。私が盾になってあなたの貞操は守ってみせるから!」

「えっ、えっ?」

「レベッカ、後で覚えてろよ!」

ウインクしてくるレベッカに半ば本気の言葉をぶつけながらアレンがテントをあとにする。状況がよくわかっていなさそうなコルネリアにはきっとレベッカがフォローを入れるだろうと考えていたが、胃の痛い状況になったことに変わりはない。

少し離れたところから感じる絶対零度の視線にため息を吐き、アレンはどうやってエルフたちに広がるであろう誤解を解くべきか、見張りの間ずっと頭を悩ませるのだった。