軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第2話 家族会議

一晩中考え抜いたアレンは、翌朝さっそく行動を開始した。

やや疲れの抜け切れていない様子のレベッカがやってきて始まった朝食を終え、皿などの片づけとお茶の配膳をコルネリアが済ませたところで、アレンは皆の前で立ち上がった。

「えっと、まだ確定ではないんだが、魔王が現れるらしい。そのことについて皆で話し合いたい」

「ちょっ、レン兄!」

突然のアレンの言葉を理解の出来ないマチルダやコルネリアたちが首を傾げる中、唯一その言葉の意味を正しく理解しているレベッカが驚きの声をあげる。

そして素早く視線をコルネリアたちに一瞬だけ送ったレベッカが言外になにを指しているか正しく理解したアレンは、レベッカを安心させるように微笑んだ。

「コルネリアもルトリシアも信頼できるから安心しろ。俺がネラってことも知っているしな」

「えっ、レン兄、ばらしちゃったの?」

「色々協力してもらいたかったからな」

「へー、まだ雇ってそこまで時間が経っていないのに、ずいぶん信頼したもんだね」

若干不機嫌そうな空気をにじませながら、レベッカがコルネリアたちに冷めた視線を向ける。どこか挑発的なその態度にコルネリアの尻尾がピンと伸び、一瞬ピリッとした空気がその場に広がった。

「レベッカちゃん。自分が教えてもらえなかったからって、そういう態度をとるのはよくないと思うわよ。あの時とは状況も違うんだし」

「マチ姉さん……」

微笑みながらたしなめるマチルダの言葉に複雑そうに顔を歪ませたレベッカは、一度大きく息を吐くと二人に向けて頭を下げた。

「ごめんなさい。昨日親切にしてもらったし、コルネリアさんがいい人っていうのはわかってたのに、こんな態度をとっちゃって。本当にすみませんでした」

「そんな、頭を上げてください。私はメイドですし、お客様のお世話をするのは当然のことですから」

あまり謝られることに慣れていないコルネリアがおろおろとする様子を少しの間微笑ましそうに眺めていたルトリシアだったが、まっすぐにレベッカのほうに向き直ると柔らかく微笑んだ。

「レベッカ様は、アレン様が大好きなのですね」

「えっ、いや。大好きって言うか、レン兄くらい優しくて包容力がある男の人ってなかなかいないし。私のわがままとかいたずらも、なんだかんだで受け止めてくれるし」

ルトリシアの全てを見透かしているような瞳に見つめられ、レベッカが視線をキョロキョロとさまよわせながら言い訳を始める。その頬は明らかに赤くなっており、その慌てっぷりに先ほどまで漂っていた空気が霧散した。

その空気を作り出した原因の一人であるコルネリアは表面上にこやかに笑みを浮かべてレベッカを見ていたが、すすっと近寄ってきたルトリシアにでん部をつねられているためその瞳はうっすらと潤んでいた。

よくわからない状況に苦笑していたアレンだったが、状況を整えるために一度パンっと手を叩く。

暴走ぎみの言い訳が止まり、今の自分の発言を認識してもっと顔を赤くしたレベッカがうつむく様子を眺めながら、アレンは再び口を開いた。

「で、話を戻すんだが、どうも俺の妹のエミリーが聖女として選ばれたらしくて、魔王が現れるってのはそこからの情報だから確度は高いと思う。まだ一般には公表されていないから口外はできないけどな。で、俺たちがこれからとる方針だが……」

しっかりと皆がうなずいたことを確認し、アレンが真剣な表情でうなずき返す。

「当面はライラックを拠点に活動する。一応南に逃げろという忠告はもらっているから将来的にはそっちへの移住も検討するが、アマンダはまだ小さい。長旅は負担がかかるからな」

「つまりいつもどおりでよい、ということでしょうか?」

「いや、本当に魔王が現れるのであればモンスターと対峙する機会も増えるはずだ。だから悪いがコルネリアとレベッカに関しては俺と一緒にレベル上げしてもらう」

「とうさま、ぼくも……」

「レックスは駄目だ」

「でもぼくは、まほうがつかえます。きっと力に……」

「それでも駄目だ」

有無を言わせぬアレンの態度に、ぎゅっと握りこぶしを作ってレックスがうつむく。レックスの気持ちは十分すぎるほどアレンに伝わっていた。

戦える力があるのに、この力があれば大切な人を守れるかもしれないのに、なぜ? そんな思いがうずまいているであろうレックスにアレンは近づいて膝をつくと、その小さな肩に手を置いて優しく語り掛ける。

「レックス。お前はまだ三歳にもなっていないんだ。どれだけ戦う力があったとしても、そんな子どもを生き死にの世界に俺は連れて行けない」

「でも、もしものときがきたら?」

「そんな時がこないように、父さまは考えているのよ」

「そうだぞ。俺はそんなに頼りないか?」

マチルダとアレンに問われ、レックスはぶんぶんと首を横に振ってそれを否定する。そして少し強張った顔をしながらも「わかりました」と返事をした。

納得できたわけじゃないんだろうな、と思いながら立ち上がり話を進めようとしたアレンに、レベッカが少し不安げに声をかける。

「レン兄、エミ姉のことは?」

「もちろん考えているから心配するな」

レベッカを安心させるように力強く答えたアレンは、皆の顔を見回す。そして最後に視線のあったマチルダは少し寂しそうにしながらアレンの言葉を静かに待った。

「まず大前提として、俺は魔王と戦うエミリーの手助けをしに行こうと考えている。もちろん皆を安全な場所に避難させた上でだ。まあ本当に魔王が現れたら、安全な場所なんかないかもしれないけどな」

「さきほどの南に行くという話ですね。しかしライラック以上に安全な場所ですか?」

そんな場所ありませんよね、とコルネリアが疑問をあげる。

確かにライラックはこのエリアルド王国の南に位置する国有数の都市であり、その防備はかなりのものだ。ドラゴンダンジョンにある程度対応可能な騎士や兵士がそろっているのだからその精強さは明らかである。

一応南にはコーニッシュ辺境伯領があるが、都市の防衛力という観点から考えればこの国の南部で最も安全なのはライラックで間違いないし、アレンもそれを承知している。

それでもアレンは首を縦に振ってコルネリアの発言を肯定してみせた。

「ちょっと伝手があって、うまくいけばもっと安全な場所に避難できるかもしれないんだ。まっ、成功するかどうかはわからないからその辺はおいおいな」

「エミ姉を助けてくれるのは嬉しいけど、マチ姉さんはいいの?」

眉を下げたレベッカが伺うようにアレンを見つめる。

昨日は必死で気づいていなかったが、アレンがエミリーを助けに行くということは、マチルダやレックス、そしてアマンダと離れ離れになることを意味している。

家族を救うために、家族と別れる。そんな選択をアレンにさせてしまった後悔がレベッカの背に重くのしかかった。

「気にする必要はないわ。どうせアレンは戦いにいくことになっていただろうし」

その言葉にレベッカが顔を上げる。そこにはアマンダを抱きながら優しく微笑むマチルダの姿があった。

その瞳は、寂しさをたたえながらもしっかりとした覚悟を感じられる力強いものだった。

「ネラはミスリル級、いえ実力的にはオリハルコン級の冒険者に匹敵する存在よ。魔王が現れたとしたら、真っ先に魔王打倒の助力という指名依頼が入るでしょうね。アレンにしても金級の冒険者だし、調薬ができるとなれば前線には送られる可能性が高いわ」

「そのとおりだ。どっちにしろ俺は家族と離れ離れになっちまうんだ。できる限りの準備ができる今の状況の方がマシなんだよ。だから泣くな」

「泣いてない、泣いてないもん!」

ぐしぐしと頬を伝う涙をぬぐいレベッカが強がる。しかしその瞳はまだまだ潤んでおり、溜まった涙を簡単に止められはしなかった。

アレンとマチルダが視線を合わせ、無言の内に言葉を交わす。

すまない。

わかっているわ。

その程度しか伝わらない短い時間であったが、二人にとってはそれで十分だった。

アレンが改めて皆を見渡し、そして複雑な表情のまま見上げてくるレックスの頭をぐちゃぐちゃっと撫でる。

「他にも色々と手は打つつもりだ。この際手段は選んでいられないから、なりふりかまわずになるけどな。レベッカにも協力してもらうつもりだから覚悟しておけ」

「うん!」

「じゃあ出来ることから始めるか。俺はこれからギルドに行っていくつか用事を済ませてくる。その間にレベッカとコルネリアは手合わせをしてみてくれ。実力的には同じくらいのはずだ。レックスはその見学な。マチルダとルトリシアはアマンダを頼む」

それぞれに指示を出し、皆の反応を確認したアレンがパンと手を叩く。

「じゃあ始めるぞ。俺たちを、仲間を、家族を守る、俺たちなりの戦いを」

声に応える皆の返事を聞き、アレンは自信ありげに笑みを浮かべると先頭を切って部屋を出て行ったのだった。