軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第19話 契約

二人に自分の正体を明かして胸のつかえが取れたアレンは、晴れ晴れとした気持ちでライラックに戻る。

そしてゾマルとドルバンの説明と説得により、多少の悶着はあったもののドワーフたちは皆自分の工房のある場所へと戻っていった。

もちろん開催する日程がまだ決まっていないため渋る者もいたのだが、決まり次第手紙で知らせるというのではどうかと伝えたところほとんどのドワーフがあっさりと承知したのだ。

アレンとしてはもっと揉めると思っていたのでこのあっさりとした結末に拍子抜けしたのだが、集まりすぎて見ることさえ困難な現状にドワーフたちも嫌気がさしていたらしい。

それでも誰も帰らないのは頑固なドワーフらしいといえばらしいのだが。

帰るにあたって綺麗に片付けられ、置き土産の酒や素材が山積みにされた部屋に残された三人は顔を見合わせて苦笑いを浮かべる。

「やっと元に戻ったわい」

「儂も隠れんですむ。助かった」

「まだまだ知らずに来る奴もいるだろうし、完全に終わったわけじゃないが、一段落した感じだな」

置き土産の酒をごく自然に開けて飲み始めるドルバンとゾマルの様子を笑って眺めながら、アレンは自分のマジックバッグをごそごそと探る。そして目当ての物を見つけるとそれを取り出して二人の目の前に置いた。

「おい、こりゃあ……」

驚きに目を見開きながらドルバンが白銀に輝くインゴットに触れる。ゾマルも明らかな驚きこそ顔には出さなかったが細い目をさらに細めてそれを見ると、うかがうようにアレンを見上げた。

「ああ。ミスリルのインゴットだ。この前ライラックのダンジョンで見つけてな。このインゴットでゾマルに剣を作ってもらいたいんだが頼めるか? もちろん相応の対価は払わせてもらう」

「なぜだ?」

お前は使わないだろう、と暗に示してくるゾマルをアレンはマスクを取って真剣な眼差しで見返す。

「領主に正体を明かす時の手土産にしたい」

「お飾りの剣を作るつもりはない」

にべもなく断るゾマルの態度に、アレンは食い下がるために口を開こうとする。

ミスリルのインゴットだけでも十分すぎるほどの価値があるとはアレンにもわかっている。しかしそれが鍛冶師の中で頂点ともいえる腕を持つゾマルによって剣になればその価値はさらに跳ね上がるのだ。

レックスを救う可能性が高まるならなんでもするつもりのアレンが、次の言葉を発しようとしたところで、ゾマルはその顔を柔らかく変えた。

「ミスリルは貸せ。ドルバンに指導する時に使う」

「えっ?」

「できたものはアレンの好きにすればいい」

グピリと喉を鳴らして酒を飲み干すゾマルに、アレンは心からの感謝を伝えたのだった。

ドルバンの指導という体で行われたミスリルの剣の鍛造は鍛冶を多少なりともかじったことのあるアレンにとっても刺激的なものだった。

アレンの鍛冶は一流の鍛冶師であるドルバンから学んだものであり、他のドワーフたちと比べてもなかなかに良い腕なのだが、ゾマルのそれは桁違いだったのだ。

相づちをするドルバンがおもわずうなってしまうほどの技量で出来上がった剣は、芸術品のように美しく、一振りしたアレンが感嘆してしまうほど手に馴染んだ。

「ゾマルが剣を打つのは初めて見たが、流石の腕だな」

「そうじゃろう」

なぜか自慢げなドルバンの態度に苦笑しながら、アレンが曇りひとつないミスリルの剣を見つめる。光を反射する剣身は穏やかな水面のように澄んでおり、まるで吸い込まれるような魅力があった。

剣身に映る自分の顔を見て、アレンが笑みを増す。

「ゾマルもドルバンもありがとう」

そう伝えたアレンに、二人のドワーフは笑顔で返したのだった。

その数日後、アレンはネラの格好をして領主の館の中を執事に案内されながら歩いていた。その前後には騎士が二人ずつついてきており、平静を装いつつもその表情には若干のこわばりが見て取れる。

しばらく歩き、扉の前で二名の騎士が待機する部屋の前で執事が止まる。いよいよか、と覚悟をきめるアレンの目の前で、中と応答していた執事がその扉を開けた。

「やあネラ、よく来た」

手を広げて出迎えるナヴィーンの姿に硬直したアレンだったが、すぐに部屋の中に歩を進める。

茶で統一された落ち着いた雰囲気の室内の最奥にある広い机には書類が積まれており、中央に置かれた書面には花をかたどったしおりが挟まれていた。

先ほどまで仕事していたことをうかがわせる様子に、やっぱり領主の仕事は大変そうだな、などと考えながらアレンは促されるままにナヴィーンの対面のソファーに座る。

「紅茶を三人分用意してくれ。その後は合図するまでここに近づかないように」

ナヴィーンの指示に従い、部屋にいたメイドが手早くお茶を用意すると一礼して部屋を出て行く。その後に護衛の騎士たちも続き、閉められたドアの鍵をサイモンがかけた。

そしてサイモンが扉の横の壁を撫でると、部屋を一瞬だけ緑の光が満たした。視線を向けたアレンにサイモンは笑みを浮かべながら返す。

「この部屋の魔道具を起動しただけです。これで声がもれる心配はありません」

そう伝え、サイモンがナヴィーンの隣に腰を下ろす。二人の視線が集まるのを感じ、アレンは一度息を吐くと覚悟を決めて口を開いた。

「前に言った重要な相談は勇者の卵に関することだ。基本的に勇者の卵は王都に集められるが、領主はそうさせずに勇者の卵を囲うことができるという話を聞いた。それは本当か?」

「よく知っているな。たしかに領主にはその権限が与えられている。ちなみにライラックでは五人までは可能だ」

ナヴィーンの答えに、アレンは心の中で喜びに震える。可能性は高いと思っていたが、そのことに関して本当かどうか確信はなかったからだ。

今まで一度として声を発しなかったネラが突然話しはじめたことに、その重要性を見抜いたサイモンが補足をする。

「現在ライラックに所属する勇者の卵は一名です。先ほどまで部屋にいた騎士のうちの一人がそうです」

「そうか。その残った四人の枠の一つをもらいたい。可能だろうか?」

「その対価に君は正体を明かし、私の下につく、と。それほどに大事な者が勇者の卵なんだね」

うなずいたアレンを見つめ、そしてナヴィーンとサイモンが無言のまま相談を行う。

ほんの数秒だったがアレンにとってそれはとても長く感じられ、こうなれば最後の一押しとアレンがミスリルの剣を取り出そうとしたところで二人は同時にアレンに向き直った。

「いいだろう。ライラックで庇護する勇者の卵の一人に君の大切な者を加えると約束する」

「そんなにあっさりと決めてしまっていいのか?」

「むしろネラ様の要望がその程度でいいのか、と私は思いますけれどね」

虎の子のミスリルの剣の姿を見せもせずに要望が通ってしまったアレンが唖然とする中、サイモンが説明をはじめた。

実際、領主が勇者の卵を囲うメリットはほとんどない。そもそもレベル五百まで上げること自体が非常に困難であり、レベル上限が高いという勇者の卵の強みを生かすことができないのだ。

そもそもこの制度自体も、家臣の跡取りなどが勇者の卵であった場合などに対応できるように作られたという成り立ちを聞き、アレンは大きく息を吐いた。

「勇者の卵は滅多に生まれないし、それが跡取りである可能性はさらに低い。枠が埋まる可能性は限りなく低いから、その一枠を与えても問題ないということか」

「ですね。要望を追加されますか?」

「いや、いい」

にこやかに聞いてくるサイモンにアレンは首を振って態度でも示した。拍子抜けしたというのが正直なところだが、一番大切なものがなにかをアレンが間違えることはない。

サイモンが用意した契約書にナヴィーンとネラの名前が記される。完成した契約書を受け取ったアレンは大事にそれをマジックバッグに入れると、契約のとおりマスクを外して顔をさらした。

「契約していただき感謝いたします。ネラの正体は……」

「アレン、でしたね。たしか」

唐突にサイモンから告げられた自分の名前に、アレンは嫌な汗がにじむのを感じていた。