軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第18話 明かすべきは

冒険者ギルドをあとにし、スラムで変装を解いて屋敷に戻ったアレンは、ドワーフたちの問題解決方法の提案がなんとかなりそうなこと、そしてネラの正体を明かすことをマチルダに伝えた。

寝室のソファーに座るマチルダは何も言わずにアレンの話を聞き続け、そして微笑んだ。

「ありがとう、アレン。本当にお疲れ様」

「まだまだこれからが本番だけどな。あー、素で領主様に会うなんて考えただけで胃が痛い」

「ふふっ、そういうところがアレンらしいわよね。ライラックに対するネラの功績は大きいんだからもっとどーんと構えればいいのに」

マチルダの茶化すような言葉に、アレンは背中をソファーに預けながら苦笑いする。

アレンだってネラの功績が大きいことは承知している。しかしその功績はひょんなことからレベルダウンとレベルアップを利用して得た桁違いのステータスがあってのことなのだ。

自らモンスターを倒し、苦労してレベルアップしてきた経験のあるアレンには、手放しでその功績を誇っていいのかという気持ちが拭えなかった。

そんな気持ちをマチルダも理解している。だからこそ冗談めかして言うに留め、すぐに話題を転換した。

「でも領主様に話すということは……」

「ああ。他にも信頼できる奴には伝えるつもりだ。その方がなにかと都合がいいだろうしな」

マチルダの言葉を途中で察し、アレンがそう宣言する。

今まではネラの正体を隠すべくアレンは行動してきた。その正体をはっきりと知るのは、マチルダ、イセリア、レベッカの三人だけである。弟のエリックは察してはいるだろうが、アレンとして伝えたわけではなかった。

少人数の本当に信頼の置ける者にしか明かさなかったおかげで今までは秘密を保てた。しかし領主であるナヴィーンに伝えれば、どこかしらで漏れ、ネラの正体は広がっていくだろうとアレンは予想していた。

もちろん正体を知ってアレンの味方をしてくれる者もいるかもしれない。しかしそうでない者もいるはずだ。

ならばせめて確実に自分の味方になってくれるであろう者にあらかじめ正体を伝えて、いざという時の協力を頼んでおきたいと考えたのだ。

「とりあえずはエリックだな。あとはドルバンに、ゾマルもか。ニックは……あいつ口が軽いんだよなぁ」

伝えるべき人物を口に出していったアレンが、親友のニックの名前を挙げて眉を寄せる。

幼いころから共に育ったニックはアレンにとって大切な存在だし、その性格の良さも十分に知っている。

しかしあっさりとレベッカに工房外に秘密だった建築情報を抜かれたりするように、少々うかつな部分があるのは事実だった。

「ニックさんは自分の身を自分で守れないのが悩みどころね。でもアレン、大切な人が抜けているんじゃない?」

「大切? うーん、家を守ってくれるルトリシアとコルネリアにも伝えておくってことか?」

「そっちは折をみて話しましょ。そうじゃなくて大事なお友達のことよ。今はライラックにいない、 あの人(・・・) 」

からかうように笑うマチルダの様子に、アレンはすぐに該当の人物の姿が思い浮かんだ。

体のいたるところに傷跡を残しつつも、その優男風の容姿からはどこか育ちの良さを感じさせる冒険者、昔アレンとパーティを組み、すれ違いからかなりの期間ぎくしゃくした関係性だった、その男の名はライオネルだ。

金級冒険者であるライオネルであれば身を守るすべは十分にもっているし、その性格も十分にわかっている。わだかまりも解けている今、たしかに適任といわれればそうなのだが、アレンの表情は渋い。

「ライオネルに伝えるかどうかは、あいつらが帰ってきてから考えればいいだろ」

「そう?」

「そうそう。それを伝えるだけのために直接会いにいくには遠すぎるしな」

そうやって問題を先送りしようとするアレンの態度を、マチルダは微笑ましく見守ったのだった。

翌日、アレンはネラとしてさっそくライラックのダンジョンに戻っていった。予定より早く用事が片付いたため、もう少し家族の団らんを楽しみたいという気持ちはあった。しかし集まってくるドワーフたちの問題を一刻も早く片付けるために断念したのだ。

一人での探索に問題など起こるはずもなく、無事に廃都市にたどり着いたアレンはゾマルたちの待つ鍛冶場に向かう。

半ば崩れた建物の中を進み、地下に続く階段までたどり着いたアレンが首を傾げる。

「扉ができてる。ゾマルか?」

厚みのある金属製の扉を開け、アレンが階段を降りていく。そして鍛冶場への出入り口に設置してあった新しい金属製の扉を開けようとしたのだが、ガンッ、と何かに当たるような音がしただけでその扉が開くことはなかった。

「ネラか?」

扉の奥からドルバンの声が聞こえ、扉の下部にあった穴からのぞく瞳とアレンの視線が重なる。するとすぐに扉の向こうからごろごろと何かを動かすような音が響き、ゆっくりとその扉が開いていった。

中に入り、前に来たときよりもはるかに使用感のある鍛冶場の内部をアレンがぐるりと見回しているその背後で、ドルバンが扉の前に金属のインゴットを積んだ台車を扉の前に戻す。

「早かったな。もっと時間がかかると思ったわい」

ちらりと視線だけ寄越して挨拶するゾマルに苦笑していたアレンに、ドルバンが声をかける。

それに対して、アレンは仮面の下でにやりと笑いながら振り返った。

「ああ、領主様とすんなり会えてな。とんとん拍子に話が進んだんだ」

「……」

目を見開かんばかりに広げ、驚きを見せるドルバンの目の前でアレンがネラのマスクを脱ぐ。その顔を見たドルバンは口をパクパクさせながら声にならない声をあげていた。

「どうした、師匠。魚の真似か?」

「違うわい! なんで坊主がネラなんじゃ。本当のネラはどこに行った!?」

「いや、だから俺がネラだって」

「そんな訳あるわけが……いや、ネラほどのステータスがあったからこそ鍛冶をすぐに覚えたと考えると……しかし坊主の実力は……そういえばあの折れた剣も……」

否定しようとしつつも、思い当たる節がいくつもドルバンの頭の中を駆け巡っていく。それでもなお納得できないドルバンはぶつぶつと独り言を呟きながら考え込んでしまう。

珍しいドルバンの姿に微笑んでいたアレンに、背後から声がかかる。

「ネラの正体はアレンだったか」

「ゾマルは驚かないんだな」

「ドゥラレでお主の実力の一端は見た」

そういえばカードを試すときに一緒にダンジョンに行って探索したな、と思いつつアレンが後ろで悩み続けているドルバンを指差す。

「ドルバンともダンジョン探索には何回か行っているぞ」

「昔の印象が強いせいだろう」

「知り合いだからこそってやつか」

小さくうなずいて肯定を返してきたゾマルに、肩をすくめてアレンも返す。

そしてこれからはアレンとして行動する時には、もっと注意を払わないと駄目だなと考えたりしながらドルバンが正気に戻るのを待った。

ドルバンの復帰にはしばらく時間がかかった。なにせ昔からの知り合いで、半ば弟子のような扱いをしていたアレンが、ライラック領の英雄であるネラだったのだ。信じられないという気持ちはすぐに消えるはずもない。

しかしなんとかドルバンは気持ちを切り替え、そしてアレンは二人に交渉の結果を伝えていった。

「って感じで概ねこちらの思い通りの展開になったと思う。ゾマルもこれでいいんだよな」

「うむ。いちいち隠れるのも面倒だしな」

「あっ、やっぱりエルフの里にいたのはかくまってもらってもらうためだったのか。なんとなくそんな気はしていたんだが」

あっさりとしたゾマルの答えにアレンが笑う。

今回の話がうまくいけば、一定の期間他のドワーフの面倒を見る必要はあるものの、それ以外の時間は自分の鍛冶の腕を磨くことに費やすことができるようになる。

それは今回のようなことが起きないように放浪し、時に隠れてきたゾマルにとって好ましい話だった。

「それよりネラは、というかアレンはなぜ儂らに正体を明かしたんじゃ?」

話が一段落するまで我慢していた言葉をドルバンが告げる。アレンは少し複雑そうに顔を歪めながら返した。

「生まれた子どものことでちょっと事情があって、領主様に正体を明かすことにしたんだ。だから信頼できる人にも伝えておこうと思ってな」

「保険か?」

「まっ、そうだな。いざという時に少しでも気にかけてくれる奴を増やしておこうってところだ。悪いな、俺の事情ばっかりで巻き込んじまって」

そう言って頭を下げたアレンの両肩にがっしりとした手が置かれる。顔を上げたアレンの目に入ってきたのは、いい顔で笑う二人のドワーフの姿だった。

「弟子の家族の面倒くらいみてやるわい」

「受けた恩は返す。それが儂の生き方だ」

「ありがとう」

力強い二人の言葉に少し瞳を潤ませながら、アレンは改めて頭を下げたのだった。