作品タイトル不明
第17話 解決手段
思いついたことをゾマルとドルバンに説明して了承を得たアレンは、二人を廃都市の鍛冶場に残して急いでライラックに向かった。
二人だけを残していくことに不安がなかったわけではないが、もともとゾマルは一人でも残るつもりであり、人型のゴーレムであれば問題なく対応できるというゾマルの言葉をアレンは信じたのだ。
残った二人は鍛冶場の使い心地を確認するつもりであるため、待たせても気にしないことはわかっていたが、それでもアレンは急いでいた。
ライラックのダンジョンを1日で走破し、翌日にライラックの街に戻ったアレンは冒険者ギルドに直行した。そしてギルド長であるオルランドに面会し、報告があるので領主に面会希望をだして欲しいと伝えた。
直接訪問しても面会はしてもらえるかもしれないのだが、アレンはわざわざ冒険者ギルドを通した。それは依頼を受けたのがここというのもあるが、その理由の大半は一人で領主の館に行くのが嫌という個人的な感情だった。
別にアレンはナヴィーンに対して悪い感情を持っているわけではない。これまでライラックに暮らしてきて領主一族が他の領主に比べて善き領主であることは承知しているのでむしろ感謝しているくらいだった。
しかし領主の館の雰囲気が好きかといわれると首を横に振らざるをえなかった。ドラゴンダンジョンのスタンピードを止めた褒賞を受けるために訪問した時、騎士や周囲の者たちから終始、警戒の視線を向けられたのだから当然だ。
(まあはっきりいって怪しすぎるから仕方ねえんだけどな。むしろ領主様があんまり警戒していないようにみえるのが不思議なんだが)
そんな疑問を抱きつつアレンは冒険者ギルドから出て、これからゾマルがダンジョンにこもるために必要そうな物を買いあさると、スラムでアレンの姿に着替え、家族の待つ屋敷に向かったのだった。
翌日、家族団らんの時間を十分に楽しんだアレンは昼食を終えるとスラムに向かい、ネラに変装して冒険者ギルドに向かった。
昨日ギルド長に領主への面会を依頼した時に、返事が来るまでは毎日昼過ぎに冒険者ギルドを訪れると伝えておいたためだ。
(いちいちギルドに確認しに行くのは面倒だが、他に連絡方法がないんだよな)
ネラとしての拠点でもあれば、と一瞬考えたアレンだったがどちらにせよそこまで行って確認しないといけないことに変わりはない。
領主様に正体を明かせばその辺りは解決するだろう。そんなことをふわふわと考えつつ散歩がてら冒険者ギルドに入ったアレンは、フロアの片隅で入り口をじっと見つめるオルランドの姿に頬を引きつらせる。
つかつかと迷いなくアレンの方にやってくるオルランドの表情は険しい。周辺にいたギルド職員たちがほっとした表情をしていることから考えても、かなりイライラしていたことは明らかだった。
アレンの目の前で歩くたびに揺れていたオルランドの贅肉が完全に止まる。
「君の昼過ぎの定義を聞いてから帰すべきだったな」
そう皮肉げに言うと、オルランドがついてくるようアレンに促す。アレンは黙ったままその後ろにつき従い、二階に上がっていくオルランドの後姿を眺めながらこっそりため息を吐いた。
(いや、翌日に直接本人が来るとか思わないだろ)
そう思いつつも、アレンは自分が悪いことも自覚していた。
たしかにオルランドの言うとおり、今は昼過ぎというには少し遅い時間だった。ゆっくりとアレンは昼食を楽しみ、軽くレックスと遊んでから半ば散歩の気分でやってきたためだ。
アレンもナヴィーンが再びギルドに来るだろうと考えていた。依頼時にそうしたのだからネラとして面会希望を出せば、ナヴィーン本人が来る可能性が高いと予想はつく。
しかしナヴィーンは国の中でも有数の大都市であるライラックの領主である。面会希望を出したからといってスケジュールは既に決まっているはずであり、調整するにしても数日はかかるだろうと思っていたのだ。
そう油断した結果が現在の状況だ。オルランドの態度からしてナヴィーンがやってきてから時間が経っているのは明白だ。領主を待たせてしまったこと、それに加えて即日に面会に来るような事態であることを改めて認識し、アレンの体が軽く震える。
オルランドに続いて部屋に入ったアレンを待っていたのは、予想通りナヴィーンとサイモンだった。その表情はオルランドとは違って穏やかだったが、心の奥ではどう思っているのか戦々恐々としながらアレンはナヴィーンの対面に座る。
『待たせてしまったようで申し訳なかった』
ここに来るまでオルランドの後ろについていきながら、改めて書いておいた謝罪の言葉をすかさずアレンが見せる。
それを見たナヴィーンは少し苦笑いを浮かべると、オルランドに出て行くように指示する。ほっとした顔で出て行くオルランドを見送ったナヴィーンが、再びネラに向き合った。
「時間のことは気にする必要はない。急に来た我々も悪かったのだから」
『感謝する』
形式上は許されたが、借り一つだな、とアレンが少しだけ顔をしかめる。しかしこれから話すことで取り返せるだろうとすぐに気持ちを切り替えた。
「それで話があると聞いたが……」
『これを見て欲しい』
そう示して、テーブルの上にアレンが用意しておいた資料を並べる。サイモンも来るだろうと思っていたのでちゃんと二部用意された資料に二人が目を通していく。
二人は黙ったままそれを読み進め、ときおり見つめ合ってうなずいたり、首を横に振ったりしている。
意思疎通ができていることはわかるが、良いのか悪いのか判断がつかず、やきもきしながらアレンが待っていると、最後まで読み終えた二人が再び視線を交わし、同時にアレンの方に視線を向けた。
「斬新なアイディアだな。鍛冶師の品評会を開催し、その優勝者に一定期間ゾマルの弟子となる権利を与えるとは」
「この方法であれば、集まる時期も事前にわかりますし、優勝できなかった者は勝手に帰っていくでしょう。いくつかの問題は残りますが、それはライラック伯爵家として対応可能な範囲かと思われます」
『書いておいたがゾマルは了承済みだ。あと世話をかける礼として、出来の良い剣を寄贈すると言っていた。それを売って品評会にかかる経費の足しにしてくれとのことだ』
「出来の良いゾマルの剣か。下手な貴族であれば家宝になりかねないな」
ゾマルの申し出を聞いたナヴィーンが苦笑いを浮かべる。しかしその表情はどこかすっきりとしてみえた。
穏やかな空気が流れる中、ナヴィーンが言葉を続ける。
「それで現在集まっているドワーフたちにはこちらから伝えればいいのか?」
『開催するのに都合の良い時期を教えてもらえれば、ゾマルが自ら伝えるそうだ。その方が説得は容易だろう』
「たしかに。ではこちらはこの話を周囲に広めることに注力させてもらおう。知らずにやって来る者もいるだろうが、そちらの対応もしておこう」
『感謝する』
「いや、感謝をするのはこちらの方だ。想像よりはるかに早く問題が解決できそうだよ」
ナヴィーンが差し出した手をアレンが握り返す。
本格的に動き出せばまた問題が起こるかもしれないが、当面の問題は回避できた。領主が即日対応するほどの問題だったのだ。かなりの恩が売れたことに間違いはない。
アレンは握手する一秒と少しの間、思考を巡らせていた。
心の中ではまだまだ恩を売ってからでいいんじゃないか、という考えがちらついたが、それじゃあいつまでたっても同じことを繰り返すだけだと踏ん切りをつける。
握手を終え、帰る雰囲気を出していた二人をアレンは制し、さらさらと紙に文字を書いていく。
『またの機会に重要な相談をしたい。その結果しだいで私の正体を明かすし、爵位という首輪をつけてもらっても構わない』
その文字を読んだ二人が驚きに目を見開く。真意を問う二人の視線に、アレンはゆっくりと首を縦に振って応えた。
しばらくしてナヴィーンが大きく息を吐く。そして自分を鼓舞するように小さくうなずくとゆっくりと口を開いた。
「わかった。重要な相談というのが怖くもあるが、できる限りのことはすると約束しよう。都合の良い日時をまた連絡してくれ」
『承知した。無理を言ってすまない』
「お気になさらず。こちらとしてはネラ様を取り込める絶好の機会ですので」
「サイモン!」
ナヴィーンにたしなめられながらも、悪びれもしないサイモンの姿にアレンが笑う。アレンだって馬鹿ではない。たとえ言葉にしなくてもネラを取り込むことに価値があるとはわかっていた。
サイモンがそれをあからさまに口にするのは、きっとアレンがその方を好むとわかっているからだろう。
(俺をつけていた奴らとか、他にも色々な場所から情報が行っているのかもな)
このまま放置していればいくらスラムを利用したところで、いつかは正体にたどり着かれていたかもしれない。そんなことをちらりと考えながら、アレンは去っていくナヴィーンとサイモンを見送ったのだった。