軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第16話 ゾマルの決断、ドルバンの覚悟

唐突なゾマルの言葉にアレンが目を見開いて驚く。そしてダンジョン内の危険さをわかっていないのかと一瞬考え、ゾマルが冒険者としても一流であることを思い出して眉根を寄せる。

アレンにはその行動の意味がわからなかった。罠の解除の専門家というわけでもないゾマルの場合、攻略の手助けをするのにダンジョンに留まる必要などないからだ。

アレンは首をひねりながら自分と同じような反応をしているであろうドルバンに視線をやる。それに気づいたドルバンが振り向き、目をあわせたアレンは、その表情が納得した様子であることにさらに疑問を深める。

「さすがのネラにもわからんか。ゾマル師の思いが」

ただ単にダンジョンに鍛冶場があるのは珍しいからやってみたいってことじゃねえよな、と浮かんできた馬鹿馬鹿しい考えに苦笑を浮かべながらアレンは首を縦に振って肯定する。

ドルバンは鍛冶場の確認を続けるゾマルに視線を送り、同情するかのように少しうつむきながら小さく息を吐いた。

「鍛冶師のドワーフにとって、自らの腕を磨くことは生きがいだ。より良い物を造りたいという欲が、ドワーフという種族の性なのかもしれんな。儂もゾマル師も同じだ」

ドルバンと共に過ごした日々で十分に理解している内容に、アレンはうなずいて返す。

「皆が腕を磨きたい。その近道はもちろん自分より腕の良い者に指導を受けるなり、技術を盗むことだ。ライラックの状況をお前も見ただろう? 皆がゾマル師の教えを受けにやってきた」

そこまで言われればアレンでもなぜゾマルがここに留まろうとしているのかが理解できた。

現状、ゾマルは他のドワーフたちを教えることに時間を取られすぎている。ダンジョンに留まれば、なに気兼ねなく自らの鍛冶に打ち込むことができるというわけだ。

しかし、とアレンは考え、さらさらと紙に文字を書いていく。

『教えないと断ればいいんじゃないか?』

別にゾマルが教えるから集まれと言ったわけではない。勝手にドワーフたちがゾマルの教えを請いに集まってきただけなのだ。

教える、教えない、の選択権はゾマルにある。断ったとしても、多少の不満は出るかもしれないが大多数の者は納得するはずだとアレンには思えた。

そんなアレンの考えをゾマルは苦笑いしながら首を横に振って否定した。

「ゾマル師は高みを目指す者に教えを請われれば断らんのだ。それもゾマル師が崇められている理由の一つではある」

ドルバンの言葉を聞きながらアレンもゾマルを眺める。二人の話が聞こえているはずなのにゾマルは口を挟まない。

それはドルバンの言葉が正しいと暗に示しているようにアレンには感じた。そしてどうして自分が損するようなことをしているのかを聞いたとしても、ゾマルは黙して語らないだろう。そう考えたアレンは少し矛先を変えた。

『ライラックにいる奴らはいいのか?』

「儂が言ってやるわい。ゾマル師はライラックのダンジョンの廃都市におる。そこまで行く覚悟がなければすぐに帰れ、とな」

『ドルバンはライラックに戻るのか? てっきりゾマルと一緒に残ると言うのかと思ったが』

「残りたい気持ちはある。だが儂はまだまだ未熟だ。せめてここまで自分で来られるくらいにならねば」

受けた依頼も残っているしな、と付け加えるドルバンの表情には名残惜しさが見え隠れしている。しかしその力強い言葉は意思の固さを感じさせた。

ステータスによる鍛冶への恩恵をドルバンは既に認識している。自らの道を進むのであれば、まずはゾマルと同じ高みに昇らなくては意味がないと考えたのだ。

ドルバンの目標はあくまで鍛冶を極めることであり、それは、いつかはゾマルを抜くということと同義なのだから。

(こういうところは不器用だよな)

ドルバンを優しい目でアレンが見つめる。

職人気質で、頑固で、気難しくて、気高い。そして相手を思いやれる優しさがドルバンにはあることをアレンは知っている。その優しさにアレンは救われ、だからこそずっと師匠と呼び続けていたのだから。

どこかしんみりとした空気が漂う中、鍛冶場の確認を終えたゾマルが二人のもとにやってくる。

「時々ライラックには戻る」

ぼそりと告げたその言葉に、ドルバンがハッと顔を上げる。ゾマルはその細い目を緩やかに曲げながらドルバンの肩に手を置いた。

「その時はまた世話になる」

「……喜んで!」

がっちりと握手を交わす二人を眺め、いいところに落ち着いたなと思いつつもアレンは考えていた。

たしかにマジックバッグに食料などはある程度あるにせよ、ずっとダンジョンにこもりきりでいられるはずがない。ゾマルはライラックに戻る時にドルバンに鍛冶技術を教え込むつもりなのだろう。

(しかしそうなるとドワーフたちの問題が残っちまうんだよな)

ナヴィーンから事情を聞いているアレンとしては、ライラックに残っているドワーフたちを帰してしまいたかった。その方がゾマルやドルバンにかかる負担は減るだろうし、ネラとしてそれを成せばナヴィーンに恩を売ることもできるからだ。

もちろん基本的にゾマルがダンジョンにいると知れば、ある程度のドワーフたちは帰るかもしれない。しかし絶対に残る者は出るだろうとアレンは予想していた。

(ゾマルも別に教えるのが嫌ってわけじゃないんだよな。むしろ自分が鍛冶に打ち込む時間さえとれれば積極的に教えようとするみたいだし。ってことは、教える時期を限定してやれば……いや、それだと人数が集まりすぎて結局長期間になるか)

まだゾマルがライラックに来てからそこまで時間は経っていない。それなのにあれほどのドワーフが集まっているのだ。

この時期にならゾマルの教えが必ず受けられるとなれば、どれだけのドワーフが集まってくるかわかったものではない。その全てに鍛冶を教えるとなれば膨大な時間となるのは明らかだった。

なかなか良い案が浮かばず、アレンがぽりぽりと頭をかく。

(いっそのこと殴りあいして、勝った奴にだけ教えるとかならわかりやすいんだけどな)

荒っぽい冒険者らしい解決方法が頭に浮かび、アレンは苦笑する。掲示板に貼られた依頼の中でより良いものを取ろうとして、時には殴られたりしながら揉まれた記憶がアレンの脳裏によみがえっていた。

(たしかに今の状況は似てるよな。 依頼(ゾマル) に 冒険者(ドワーフ) がむらがってるし)

そんなことを考えていたアレンの頭にふと考えが浮かぶ。

(誰でも受けられる依頼だから冒険者たちはむらがるんだ。なら指名依頼にしてやって、それを他の奴らが納得できるような方法を考えればいい。問題はどうやってゾマルの教えを受けられる奴を選ぶかってところだ。挑戦する機会さえ与えられないのではドワーフたちは納得しないだろうし)

少しずつアレンの考えがまとまっていく。そして数分の間、腕を組んで思考にふけっていたアレンが顔を上げる。そしていつの間にかじっと自分を見つめていたゾマルとドルバンに向けて不敵な笑みを浮かべ、さらさらと文字を書く。

『ドワーフたちの腕を競う大会を開いてみないか?』