作品タイトル不明
第15話 ゴーレムの殲滅
階段から飛び出したアレンは次々にやってくる人型のゴーレムをステッキで打ち倒していく。地面に崩れ落ちる仲間を平然と踏み越えて襲ってくるゴーレムたちに顔をしかめながら。
(くそっ、どんだけ来るんだよ。相変わらず数が多すぎる)
この廃都市にアレンが初めて来たときに味わった苦行を思い出しながら、アレンはステッキでゴーレムたちを突き、払い、吹き飛ばしていく。
その一撃だけでほとんどのゴーレムは半壊するのだが、それ以上のゴーレムたちが集まってくる現状では状況は悪化するばかりだった。
ふっ! と気合の入った息を吐き、アレンがステッキを大振りする。前面に出ていた複数体のゴーレムたちが後続を巻き込みながら吹き飛び、ぽっかりと空間が空く。そうしてできた僅かな間隙、アレンは階段に向けてチラリと視線を向けた。
そこには真剣な表情でアレンとゴーレムの戦いを観察するゾマルと、それを護衛するかのように周囲を警戒するドルバンの姿があった。
アレンはすぐに視線を戻し、ため息を吐く。
ゾマルの意図は全くわからない。しかし冗談や興味本位ではなく、なにかの目的のためにこんなことをしているというのは少し見ただけでも十分に理解できた。
(仕方ねえな。気合入れていくか!)
そう考え、アレンが意識を切り替える。二人の安全のためにも絶対に抜かせない。その思いを強く秘めながら。
「これが、ネラか」
目の前で広がる現実感のない光景にドルバンが呆然とした様子で呟く。
ライラックのダンジョンの中でも攻略の最前線といっても過言ではない廃都市は、ドルバンにとって分不相応な場所だった。
もちろんドルバン自身も冒険者として活動する中で、自分の実力がそこらの冒険者よりも高いという自負があった。しかしこの光景を見てしまえば自分が凡人であることを自覚しないわけにはいかなかった。
先ほどまでの戦いでさえドルバンにとっては信じられなかったのだ。ネラがステッキを一振りすれば全身金属製のゴーレムの体が簡単に折れ曲がり、一突きすればその体は紙でできているかのように穴が開く。
どれだけのレベルを高めればこんなことができるようになるのか、皆目見当がつかなかった。
しかし今、視線の先で戦うネラを見てドルバンが抱くのは、同じ人なのか? という疑問だった。
既にネラの動きはドルバンにはしっかりとは捉えきれず、バラバラに吹き飛んでいくゴーレムの存在によってネラの攻撃の残滓を確認することしかできない。
生き物としての格が違う。その思いにドルバンの体は細かく震えた。
ダンジョンに入ってレベルを上げることに注力し、それに伴って自分の鍛冶の実力が上がることを確信したドルバンは自信を持ち始めていた。
ゾマルが来て、はるか高みにある鍛冶技術を目にするようになっても、他のドワーフのようにただ単に憧れるようなことはなくなった。
はるか先を行く先達に対する尊敬はもちろんある。しかしそこはいつか自分もたどり着けるかもしれない場所なのだという想いを抱いていたからだ。
ドルバンがチラリとゾマルを眺める。ゾマルの細い目はじっとネラとゴーレムの戦いを見据えている。その顔に自分のような動揺は見て取れない。
ドルバンはしばし天を見上げ、そして大きく息を吐くと周囲を警戒しつつネラの戦いを注視し始めた。
ネラの立つあの場所もいつかの自分がゾマルに対して抱いていたように、到達できないようで実はたどり着ける、そんな場所なのかもしれないと僅かながらの希望を胸に抱きながら。
およそ一時間程度だろうか。やってくるゴーレムもいなくなり、ばらばらになったゴーレムの残骸が山積みになった通りの中心でアレンは立ちつくしていた。
最後の方はゴーレムも散発的にやってくるくらいになっていたため、肩で息をするようなことにはなっていないが、気分的にはもう帰りたいというのがアレンの正直な思いだった。
(といってもまだ目的の階層にさえたどり着いていないんだけどな)
こっそりと嘆息しながらアレンが歩き出す。その先ではゾマルとドルバンがゴーレムの残骸を次々にゾマルのマジックバッグに詰めていた。結構な速さで二人はゴーレムの残骸を回収しているが、もし全部回収するつもりならばこのままではまだまだ時間がかかる。
『全て回収するつもりか?』
紙に書いて確認したアレンに、ゾマルはコクリと首を縦に振って答える。呆れを多分に含んだ視線をアレンは向けたが、ゾマルは気にもせずに回収に戻っていった。
はぁ、とため息を吐き、アレンもゴーレムの回収を始める。だらだらしていてはまた同じようなことが起こりかねないのだ。さすがにそれはもうこりごりだと、アレンは片っ端からゴーレムを自分のマジックバッグに詰め込んでいった。
ゴーレムの回収を終え、三人はついに六十一階層にたどり着いた。相変わらずに罠ばかりの階層を二時間ほど探索し、六十一階層の入り口の階段まで三人が戻る。
「こりゃ骨が折れる。ネラが苦労しているのも当然だわい」
寝床の用意をしつつ、ドルバンが呆れたような声を漏らす。食事の用意を始めていたアレンはそれに苦笑しながら小さく頷いて返した。
ゾマルはそんな二人の会話に耳を傾けつつ、マジックバッグから出したゴーレムの残骸を調べている。一応三人とも周囲の警戒をしていないわけではないが、普通の階層よりはいくぶんかリラックスしていた。
この六十一階層は呆れるほど罠が多い。さらに罠を増やしてくるトラッパーと呼ばれるモンスターも潜んでいる。
しかしトラッパーは直接襲ってくるようなことはないため、罠のない場所の把握さえできていればこの六十一階層は休むに非常に適した階層でもあるのだ。ただ例外がないわけではないと誰もが知っているので完全に油断するようなことはなかったが。
三人は順番に食事を終え、一応見張りを置いて休むかということになった。ドルバン、アレン、ゾマルの順と決め、アレンとゾマルが寝床に向かう。
「そういえばネラ。一人で探索する場合、睡眠はどうするのだ。さすがに不眠不休というわけにはいかないじゃろう?」
『基本は簡易な防壁を魔法で作っている。見てみるか?』
「頼む」
アレンがいつもどおり魔法で土の壁を出して通路をふさぐ。魔力を余分に注ぎ、十メートル近くにまで厚くなった土壁によってふさがれた通路を眺めドルバンが苦笑する。
『これまでの経験上、三時間はもつ』
「このぐらいできんと一人での探索は無理か」
『安全そうな場所を探すこともある。そういえば廃都市にある鍛冶場も比較的安全そうではあったぞ』
「ふむ。廃都市には鍛冶場があるのか。それは是非とも帰りに寄りたいものだ」
和やかにダンジョンの夜営について話す二人の様子を、寝床に入りながら聞いていたゾマルが、鍛冶場という言葉にピクリと目を開く。むくりと体を起こしかけ、そして小さく首を振ってゾマルは毛布をかぶり眠ったのだった。
翌日、ドルバンの希望に従い三人は廃都市にある鍛冶場に向かった。廃墟の階段を降りたそこには、外とは比べ物にならないほど整った状態の鍛冶場があり、ドルバンがほぅ、と息を吐く。
「なかなかの場所じゃな。使ってみないことには断言できんが、一通りの設備は整っておる」
以前アレンが回収した鍛冶の道具なども元通りに戻っている鍛冶場をドルバンが見回る。とはいえそこまで広くもない場所であるため、数分もすれば全て見終わってしまう。
ダンジョン内の鍛冶場という珍しい場所を見学できたことに満足し、ドルバンが帰ろうとアレンに伝えようとしたところで、同じように鍛冶場を見て回っていたゾマルが声を発した。
「儂はここに残る」