軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第14話 ゾマルとの初対面

ナヴィーンと面会した翌日、ゾマルに会う大義名分に加え、お土産まで手に入れたアレンは意気揚々とドルバンの工房に向かっていた。

とはいえ印象は最悪だろう。それはアレンもわかっているため、半分は空元気ではあるのだが。

ネラとして職人街を歩くのは初めてである。そもそもネラの装備は全てダンジョンの宝箱から出たものであり、それで今までは十分に対応できているため職人の世話になるようなことがなかったためだ。

たまたま出会った職人がぎょっとした顔で驚くのを横目で眺めながらアレンは進んでいたのだが……

(なんだ、あれ?)

ドルバンの工房の前にできた人だかりにアレンが目を見開く。

その背の低さからすぐにドワーフだとアレンは気づいたが、ドワーフたちは近づいてくるアレンのことなど全く気にした様子はなく、剣呑な空気を放ちながら工房の扉をじっと見つめていた。

非常に入りづらい雰囲気ではあったが、ここで引くのはないと決意してアレンはドワーフたちを無視してドルバンの工房の扉に手をかける。

数十の瞳がギョロリと向けられるのを感じながら、アレンは扉を開けて中に入ろうとした。

「入ってくんじゃねえ! 約束も守れねえのか!?」

そんな怒声と共にこぶし大の鉄球が飛んでくる。股間目掛けて飛んできた鉄球を、内心ひやっとしながらアレンは手のひらで受け止め、それを投げた人物に視線を向けた。

そこにいたのはアレンには見覚えのないドワーフの男であり、アレンと視線の合ったそのドワーフが顔を青くする。

「ネラ、なんでここに」

ぼうぜんとした口調で漏らしたその言葉が、周囲のドワーフにも伝わっていく。食事や酒の匂いが漂う、先ほどまで騒々しかったであろう部屋は、しん、と静まり返った。

荒れ果てた部屋をアレンは見回し、あまりの惨状に内心呆れながらゾマルもドルバンもいないことを確認するとゴミを蹴飛ばしながら鍛冶場に向かう。そんなアレンを止めるドワーフは一人もいなかった。

扉を開き、アレンが鍛冶場に入る。まだ温かく、鍛冶をした名残を感じるそこにはアレンとして訪ねた時と同じようにゾマルとドルバンがいた。

二人の視線はアレンに向かう。前回と同様に怒鳴られるかと思っていたアレンだったが、二人の反応はアレンの予想とは違い、ただため息を吐いて見つめてくるだけだった。

疲れを感じさせる二人の様子にアレンは首を傾げる。

(ゾマルはともかく師匠、じゃなくってドルバンは怒ってくると思ったんだがな)

そんな疑問を抱いたままアレンは二人に近づき、そして用意しておいた紙を差し出す。

『依頼が来ていることを知らなかった。私の手落ちだ。すまない』

「どういうことだ?」

少し怒りを滲ませながらも怒鳴ることはしないドルバンの反応に、いよいよおかしいな、と考えながらアレンが書いておいた説明の紙を二人に示す。

それを読み終えたドルバンは呆れたような顔をしていたが、ゾマルは納得がいったのかわずかに笑みを浮かべていた。

「そういう事情なら仕方あるまい」

「よいのですか?」

「儂も同じことをしている。例外はいるがな」

少し皮肉の混じったその言葉に、アレンは苦笑して返した。

実際、ゾマルもアレンと同様に面会依頼や指名依頼を拒否するようにギルドに伝えていた。工房の外にまで集まったドワーフの姿を思い出せばその理由は簡単に察せられるだろう。

思ったよりもすんなりと和解できたことに安堵しながら、アレンはナヴィーンが用意した手土産を二人に手渡す。

さすが伯爵というべきか、アレンの知っている高級酒はもとより、名前だけは聞いたことのある幻の酒など、これだけでも一財産になる酒類がそこには並んでいた。

さすがにドルバンもこれには驚いたのか目を見開き、すぐに嬉しそうに頬をほころばせる。ゾマルも細い目のままではあるものの機嫌は悪くなさそうだった。

このまま酒を飲みそうな勢いの二人だったが、それにアレンが待ったをかける。

『探索に協力してくれると聞いた』

「そうだ。カールからの直々の依頼でな」

『なにができる?』

「あぁ!? ゾマル師になに言ってやがんだ、てめえ!」

瞬間的に沸騰したドルバンを左手で制しつつ、アレンが器用に右手で文字を書いていく。まるで乱れのないその文字に感心の吐息をもらしながらゾマルはそれを読んでいた。

『俺の装備はダンジョン産のもので手入れなどは必要ない。そして現状のダンジョン攻略において装備が不足しているとも思っていない』

「ふむ」

『現状困っていることといえば、罠の多い階層のせいで攻略速度が遅くなってしまっていることだが、これは鍛冶で解決できる問題なのか?』

そこまで書いたアレンがゾマルを見つめる。ゾマルはしばらくの間腕を組んで思案していた。

いくらゾマルの鍛冶の腕がすさまじかろうとも、さすがにこれは無理だろうとアレンは考えていた。なにせ現地で罠が解除できるかどうかはアレン次第なのだ。

いくら優れた道具があろうともアレンの腕が足りなければ解除できないし、さらに言えば罠の数が多すぎるというのはどうしようもないことだ。だからこそゾマルも無理だと判断すると考え、そう言われたら代替案を提示しようと思っていたのだが……

「わかった。一度連れて行け」

『どこにだ?』

「その階層だ。儂もミスリル級の冒険者、自分の身は自分で守れる」

顔を上げたゾマルのその言葉に、頬を引きつらせながらアレンはなんとかやめるよう説得しようとしたのだが、結局はドワーフの頑固さには勝てずにゾマルをダンジョンに連れて行くことになったのだった。

その翌日、ネラの格好をしたアレンはゾマルと、どうしてもついていくと言って聞かなかったドルバンを連れてライラックのダンジョンの探索を始めていた。

ネラとして一人で探索する時にはかなりの速さで深層を目指すアレンだったが、ゾマルとドルバンを連れている手前その速度をそれなりにまで落としていた。とはいえ普通の冒険者たちに比べれば格段に速くはあるのだが。

道中、ネラとしての戦い方をゾマルに見せたり、ついでなのでドルバンのレベルアップを図ったりしながら一行は進み、三日目になってようやく廃都市の階層までたどり着いた。

「ここは金属製のゴーレムが出るんじゃったな」

ドルバンの問いかけにアレンはうなずき、ゆっくりと右前方を指差す。かなり遠くの方に、豆粒ほどの大きさの何かが浮かんでいることをかろうじて視認したドルバンが苦笑いを浮かべる。

「さすがにあれではわからん」

「儂もだ」

『見つかると面倒なことになる。身を低くし、音は最小限に』

事前に伝えておいた注意をもう一度促し、アレンが廃墟に身を隠しながら先に進んでいく。それにドルバンとゾマルも続いた。

ドワーフの二人は金属製の装備を身につけているが、そこから音はほとんど出ていない。

そもそも不用意に音を立てる装備などダンジョン探索にはもってのほかだし、二人が装備しているのは自らが鍛えた自慢の一品だ。一流の鍛冶師としての片鱗がそこからはうかがえた。

既にアレンは何度も廃都市を通っている。モンスターに見つかりにくい最短ルートも構築されており、それに習って進んだ結果、三人は一度もモンスターに出会うことなく五十八階層から次の階層へ続く階段までたどり着くことができた。

しかし運が良かったのはそこまでだった。

「こりゃ拙いんじゃないか?」

「うむ」

周囲を見てドルバンとゾマルが声を漏らす。アレンは声に出しはしなかったが苦々しい顔で戦闘態勢をとった。

五十九階層に降り立った三人の目の前にはプロペラで空を飛ぶフライングゴーレム五体が三方に分かれて存在しており、そして目の前に広がる通りの奥のほうには人型のゴーレムの集団の背中が見て取れた。

さすがにゾマルやドルバンを守りながらこれに対処するのは危険すぎるとアレンは身をひるがえそうとしたが、その腕をゾマルがつかんで止める。

「少しあやつらの動きを見たい」

その言葉に問い返す時間などなく、フライングゴーレムの赤い体が膨らみ、耳に響く警戒音が発せられる。

アレンは即座に落ちていた瓦礫を投げつけフライングゴーレムを黙らせたが、その視界にはこちらに向かってくる人型のゴーレムの集団が映っていた。