軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第13話 面会

ミスリルインゴットを手に入れたことでかなり安堵したアレンだったが、それでもネラとしてのダンジョン探索は続けていた。

ライラックのダンジョンを攻略していけばネラの価値は上がり続ける。その上、ミスリルインゴット以上の物が見つかる可能性もあるのだ。ここでやめてしまって万が一のことがあったら、そう考えると探索をやめる道をアレンは選ぶことができなかった。

(あー、本当に罠がうざったいな)

活気のある通りをとぼとぼと歩きながら、ネラの姿をしたアレンがため息を吐く。

たまたますれ違った行商人風の男がぎょっとした顔でアレンを見つめ、既に慣れたものの地元の住民たちはその反応に笑みを浮かべていた。

格好こそ異様ではあるものの、街を救った恩人であり、特に危害を加えられるわけではないと皆が理解しているのだ。

ギルドへの道を歩きながらアレンは思考を続けていた。

アレンの六十一階層の探索はうまくいっていない。作製している地図の範囲は順調に広がっているため無駄ではないのだが、それは遅々としか進んでいないのだ。

ただ単純に罠が多い、それだけの理由なのだが、新規の階層を一人で探索するアレンにとっては非常に厄介極まりない場所だった。

それに加えてアレンには悩みごとがあった。それはもちろん、ネラとゾマルをどうやって会わせるかということだ。

アレンとしてはすぐにでも顔合わせをしたいところではあったが、今はアレンが面会も指名依頼も拒否してしまった形だ。いまさらこちらから会いたいといったところで印象は最悪だろう。

ギルドがもうちょっと融通を利かせてくれれば、という思いがないわけではなかったがギルドは指示通りに対応してくれただけだ。

ドワーフの中では神のように崇拝されているゾマルだが、その名は一般人にまで広まっているわけではない。実際、冒険者という鍛冶師と接する機会の多い職業のアレンでさえ、ドルバンに聞くまでは知らなかったのだから。

(カミアノールが手配してくれていれば……あー、エルフの間ではゾマルの名は有名なのかもな)

そこまで考え、アレンは再びため息を吐く。カミアノールはゾマルの名が出ればギルドが便宜を図るだろうと考えていた可能性に思い至ったのだ。

もしかしたらギルド長あたりであればゾマルのことを知っているかもしれない。しかし依頼を受ける受付嬢はゾマルのことなど知るはずがない。

だからこそ受付嬢はネラの要望どおりにし、ゾマルからの依頼を断ったことは幾多の依頼と同様に処理されてしまったのだろう。当然それが上にまでまわることなどない。

その結果が今の状況というわけだ。

(うーん、なにかきっかけがあればいいんだが)

ギルドの扉を開け、アレンはいつもどおり窓口に向かおうとする。しかしそれよりも先に近づいてくる人物がいた。

それは普段ならこのホールにいるはずのない人物、ライラックのギルド長であるオルランドだった。

「ネラ、悪いが話がある。ついてきてくれ」

有無を言わせぬその口調に驚きつつも、アレンは内心、もしかしてと考え期待しながらオルランドの後をついていく。

でっぷりとした腹を揺らしながら階段をオルランドは登っていき、そのままギルド長室に向かうかと思ったのだが、その手前の部屋の前でオルランドが立ち止まった。

首を傾げるアレンをよそに、オルランドが扉をノックして声をかけ、中からの声に従って静かに扉を開ける。

ギルド長室よりもはるかに内装に金がかかっていることがわかるその部屋は、冒険者ギルドにやって来た貴賓に対応するための応接室だ。

アレンもあることは知っていたが実際に入るのは初めてであり、それとなく視線をめぐらせて豪華さに少し驚いていた。そしてその視線がソファーの前に立つ人物に向かい、それが誰かを理解して即座に片膝をつく。

「ネラよ。そのように畏まる必要はない。今日はただの男としてここにやってきたのだ」

その割には先に入ったオルランドは姿勢を崩してないんだが、などと思いつつ、アレンは指示に従って立ち上がり目の前の男を見る。

以前面会した時の領主として威厳のある姿ではなく、まるで文官のように地味な服装をしたナヴィーン・エル・ライラックを。

ナヴィーンの後ろにはひょろっとした背の高い男が立っており、ネラの姿を面白そうに眺めている。ちらりとアレンはそちらに視線を返し、ナヴィーンに促されるままに対面のソファーに腰を下ろした。

オルランドが部屋から出て行き扉が閉まると、ソファーに腰を下ろしたナヴィーンが切り出す。

「急に呼び出して悪かった。今日はネラに頼みがあってきたのだ。ネラはゾマルというドワーフの鍛冶師を知っているか?」

『ドワーフの中でも腕利きの鍛冶師だと聞いている』

「おおっ、それなら話が早い!」

ナヴィーンが安堵したように頬を緩めながら事情を説明していく。

ゾマルが現在この街にいること。ゾマルの目的はネラのダンジョン探索の助けをすること。そしてゾマルがこの街に来たことにより、周辺のドワーフが集まり始めており、それが大きな問題になりそうなことを。

(確かにあの集まりようは不味いよな。しかし領主様がじきじきにやってくるほどのことか? いや、渡りに船ではあるんだが)

そんな疑問を抱きつつ、まあ都合がいいから別にいいかとアレンは事情を聞き終える。

一気に話して喉が渇いたのか、ナヴィーンはテーブルの上の紅茶で喉をうるおすと、アレンをじっと見つめた。

「面倒かもしれないが一度ゾマルと会ってほしい。ゾマルの目的が達せられればこちらも対応できるかもしれないのだ」

『承知した』

「恩に着る。そうだ、ゾマルへの手土産として用意したものがあるのだ。後でギルドに届けさせるから自由に使ってくれ」

そう言ってナヴィーンが笑みを浮かべる。

正直に言って、ナヴィーンはこの交渉は難しいだろうと考えていた。それでも状況を良くしていくためになんとかしなければと意気込んできたのだ。

なにせネラは今まで一人で問題なく探索をしてきた。例外はイセリアだけであり、他の冒険者とパーティを組んだこともない。

未踏の深階層を一人で探索するなどありえないことだ。しかしネラはそれを成し遂げている。人知の外にいる存在と言っても過言ではない。

そんな人物に、いかにゾマルが高名とはいえ、お前の探索を手伝うためにやって来たのだから会ってくれと言っても取り合ってもらえないだろうと心のどこかでナヴィーンは思っていたのだ。

それがふたを開けてみれば拒否する素振りすらなくあっさりと了承されたのだから、ほっとするのも当たり前だろう。

これで問題が解決したわけではないが、それでも前進できたとナヴィーンは安堵したのだ。

自然な笑みを浮かべるナヴィーンを眺め、アレンが少し迷いを見せる。

ゾマルに会う口実ができ、さらには手土産まで用意された今の状況はアレンにとって非常に喜ばしい。その上、領主のナヴィーンはそのことに恩を感じているように見える。

後ろにいる男のことが多少気にかかるが、ここに連れて来ていることからして側近なのだろうと予想はつく。

ならばいっそのこと自分の正体を明かしてこちらからもレックスの件について交渉してみてはどうだろうか。そんな考えが浮かんだのだ。

成功する可能性は高いだろうと考えつつも、アレンは小さく首を振ってそれをやめる。とりあえずはゾマルの問題を解決してから考えようと思い直したのだ。

「それでは、後はよろしく頼む。手土産は今日中には届けさせる」

ナヴィーンが差し出した手をアレンが握り返し、満足そうに笑ってナヴィーンが立ち上がる。その時、ナヴィーンの後ろにいた男が突然口を開いた。

「ネラ様は爵位などに興味はございませんか?」

「サイモン!」

「恩に報いる方法の一つに爵位を与えるのは領主にとって自然なことです。もちろん希望されないのであれば構わないのですが」

ナヴィーンの叱責に構わず、サイモンがアレンに問いかける。

唐突な話に驚きつつも、アレンは頭を巡らせる。なにもなければ紐付きになる側面のある爵位など即答で断るところだったが、レックスのことを考えるとその方が良いのかとも思えた。

しばしアレンは沈黙し、そしてさらさらと紙に文字を書く。

『考えさせてくれ』

その文字にナヴィーンは少し驚きを見せ、サイモンはどこか懐かしそうな瞳でアレンを見つめたのだった。