軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第11話 ゾマルとドルバン

アレンがゆっくりと扉を閉めて元の部屋に戻る。ゾマルを囲んでいたドワーフの中にドルバンの姿もあり、アレンが危惧したような大事にはなっていないと確認できたからだ。

(師匠は特に問題なさそうだし、ゾマルを見つけられたのは幸運だったが……どういうことだ?)

いぶかしげに首をひねりながらアレンは部屋の片づけを始める。

ライラックに住むドワーフはもちろんドルバンだけではない。四つのダンジョンに囲まれたこの街は冒険者などの顧客も多く、ダンジョン産の多様な素材も手に入れやすい。職人同士の競争は激しいが、鍛冶をする環境としては良い条件がそろっているのだ。

しかしアレンが先ほど見たような何十人というドワーフはいなかったはずだった。

「とりあえずあと二、三時間もすればゾマルの鍛冶も終わるはずだし、そこまで待ってみるか。しかし汚えなー」

アレンの見立てではゾマルの鍛冶の工程は既に終盤に差し掛かっている。状況はよくわからないが、一段落して戻ってきたゾマルかドルバンに事情を聞けばいいだろうとアレンは考えた。

それまでの時間つぶしを兼ねて、ぶつくさと文句を言いつつアレンは片づけを続けていったのだった。

アレンの見立てのとおり二時間を少し過ぎたあたりで鍛冶場へ続く扉が開き、騒がしい声と共にドワーフたちが部屋になだれ込んできた。

皆一様に興奮した様子でゾマルの鍛冶について議論を続けており、部屋が綺麗になっていることや、そこにアレンがいることを気にした様子はない。

ドワーフたちは勝手知ったる自分の家かのように食料や酒を保管庫から取り出すと酒盛りを始める。そこまで広くない部屋はドワーフでぎゅうぎゅうに詰まっており、白熱した議論の勢いを示すように部屋の温度も上昇していった。

次々と空になっていく酒瓶、消えていく食べ物。これが先ほどの荒れ果てた部屋の元凶であることは疑いようもない。

アレンはしばらくドワーフたちの様子を呆れたように眺め、その中にゾマルとドルバンがいないことに気づいた。

ドワーフたちの間を縫うようにアレンは部屋をすり抜け、扉を開けてアレンが鍛冶場に足を踏み入れる。

「来るなって……なんだ、坊主か」

「師匠、久しぶり。ゾマルも先日ぶりだな」

「うむ」

鍛冶場に入ってきたアレンに向け怒鳴り声をあげたドルバンが、アレンの姿を認めて気を落ち着ける。

二人に近づきながら挨拶をしたアレンに、完成した槍を検品していたゾマルがちらりと視線をやり、返事をした。

「ゾマル師だ!」

「いや、ライラックまでの護衛の時もゾマルって呼んでいたし、いまさらそう呼ぶのも変だろ」

「だが……」

「別にゾマルで構わん」

アレンのゾマルに対する呼び方に反応したドルバンがすかさず訂正するように気色ばむが、当のゾマルは気にした風もなくそう告げると、ゆっくりと持っていた槍を机の上に置いた。

ゾマルの細い目がアレンを捉え、ほんのわずかにその口角が上がる。

「歓待の誘いか?」

「いや、師匠に会いに来ただけだな。ついでにゾマルがどこにいるか聞けたらとも思っていたが」

マジックバッグから取り出した酒瓶を軽く掲げながらアレンが笑う。不思議そうに二人の会話を聞くドルバンにアレンはその酒瓶を渡すと、机の上に置いてあった槍を手に取った。

一見なんの変哲もない鋼鉄の槍なのだが、持ってみると非常にバランスがよい。磨き上げられた鋭い刃は鏡のようにアレンの姿を映し、その刃先には寸分の歪みさえなかった。

「いい槍だな」

「及第点だ」

「これを及第点と言われちゃあ、他のドワーフは合格のごの字にも届かなくなりますぜ」

アレンの感想にぼそりと返したゾマルの言葉に、ドルバンが苦笑する。そしてアレンから槍を受け取ると、それを丁寧に机に戻した。

まるで芸術品を扱うような繊細な仕草にドルバンのゾマルへの尊敬の念を改めて思い知らされながら、話題に出たので丁度良いとアレンは口を開いた。

「そういやあのドワーフたちは誰だ? 師匠の知り合いなのか?」

「この街の知り合いのドワーフもいるが大半は知らん奴らだ」

「どういうことだよ?」

いまいち理解の追いつかなかったアレンに苦々しい顔をしながらドルバンがことの経緯を説明していく。

ライラックの職人街でアレンと別れたゾマルが目指したのはドルバンの工房だった。特に頼るあてもなかったため、アレンの話に出てきた見所のありそうなドワーフに話を聞きながら、今後の身の振り方を考えようとしたのだ。

尊敬するゾマルの突然の来訪に驚きつつもドルバンはその相談に乗り、自分の工房を使えばいいと提案した。その裏にはもちろんゾマルの一流の技術を間近で見て少しでも自らの鍛冶の腕を上げたいという強い思いがあり、ゾマルもそれを承知で提案を承諾した。

ここで終われば波風は立たなかったのだが、その翌日にはライラックの街に住むドワーフたちがドルバンの家に入り浸るようになり、そしてその後も次々と他の町からドワーフたちがやってくるようになったのだ。

ゾマルの教えを受けること、ただそれだけの目的のために。

むろんドルバンも黙ってそれを許したわけではない。あくまでここはドルバンの工房であり、それを侵す権利など他のドワーフにあるわけがないからだ。

しかしドルバンは彼らに強く出ることが出来なかった。ドルバン自身、彼らの気持ちが痛いほどわかったからだ。

そして妥協した結果、自分たちの面倒は自分たちでみること。そしてゾマルやドルバンの鍛冶の邪魔をしないことという二つのルールが設けられ、現状に至ったというわけだ。

「すごい人気だな」

「そりゃあゾマル師は全ドワーフの憧れ、生きる伝説だからな。ここ数十年はどこにいるかもわからなくて、やきもきしていた奴も多いくらいだ」

自分のことでもないのになぜか自慢げに答えるドルバンの姿にアレンは苦笑し、そして視線をゾマルに移す。ゾマルはわずかに首を横に振ってみせ、アレンはそれに目線だけで承知したと示した。

(エルフのところにいたってのは内緒ってことね)

色々しがらみでもあるのかねぇ、とアレンは考え、現状を思い出しておおよその事情を理解した。

特に喧伝しているわけでもないのにゾマルがそこにいると知られただけでこれだけのドワーフが集まってきたのだ。今はまだ近隣に住んでいたドワーフだけだが、これからもっと多くのドワーフが集まってくるのは疑いようもない。

エルフの里はゾマルが身を隠すための場所の一つなのだろう。

(しかし教えを請いに来たってのはわかるが、こんなに集まってきちまって大丈夫なのか?)

ここにいるドワーフは鍛冶師だ。ゾマルに教わりたいというくらいだから向上心もあり、それなりの腕の者たちだろう。

中には流れの鍛冶師もいるかもしれないが、設備が重要となる鍛冶において自らの工房を持っていないとは考えられない。その主が今ここにいて大丈夫なのか他人事ながら不安になったのだ。

「しかし師匠……」

「坊主、ゾマル師を呼び捨てにするなら俺もそうしてくれ」

「了解、ししょ……じゃなくってドルバン。で、これからどうするつもりなんだ?」

アレンの問いかけに難しい顔をしながらドルバンが腕を組む。

「ゾマル師はネラのダンジョン攻略を手助けするためにライラックに来たそうだ」

「そうだな。俺もそう聞いている」

「しかしまだネラとコンタクトが取れないのだ。一応冒険者ギルドに面会申請と指名依頼を出したのだが拒否されてな」

苛立ちを滲ませるドルバンを前に、いつもどおりの顔を取り繕いながらアレンは内心首をひねっていた。つい昨日ギルドに行ったばかりなのに、そんな依頼が入っている話など聞いたことがなかったからだ。

(伝達漏れってわけじゃないよな。拒否されたってことは返事をしているはずなんだが記憶にない……あっ!)

一瞬アレンの顔が引きつる。ゾマルからの話が来なかった原因がわかったからだ。

ネラとしてライラックのダンジョンを本格的に攻略すると決めてから、アレンは冒険者ギルドに緊急の用件以外の面会や指名依頼を断るように伝えていた。

そもそもネラに対するそれまでの指名依頼は、ネラとコネクションを作るための建前のようなものや、一目見たいなどというくだらないものばかりだった。

それでもその中には重要なものもあるかもしれないとアレンは確認していたのだが、その結果一度として指名依頼を受けたことはなかった。

そんな指名依頼に嫌気がさしていたアレンは、攻略に専念するとギルドに伝えて基本的には面会申請や指名依頼を受けないことにしたのだ。本当に攻略に集中したかったし、最初から断るようにすればそういうことも減っていくだろうという目算もあった。

それはある意味成功したといえるのだが……

(しまったな。ネラの印象、最悪じゃねえか?)

目論見と大きくずれた現状に、アレンはこっそりとため息を吐いたのだった。