軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第8話 カードの有用性

アレンとゾマルがダンジョンからドゥラレの町に帰ってきたのは翌朝のことだった。本来であれば夜になる前に検証を終えて帰るつもりだったのだが、次々と浮かんでくる疑問点を検証しているうちに楽しくなってきてしまい、気づけば閉門の時間を過ぎてしまっていたのだ。

そしてせっかくなら、ということで朝まで検証を続けた結果、二人はカードの性質についておおよそ把握することができていた。

ゾマルが期間限定で借りている鍛冶場に戻った二人は椅子に座り、帰りがけに買った丸パンに野菜や肉を挟んだ朝食をぱくつきながら議論する。

「だいたい想定どおりだったな。うまくいきすぎって感じもするが」

「うむ」

食事をしながらも、ゾマルの手はカードの確認を続けている。一見してアレンの話を全く聞いていないように見えながらも、その耳はしっかりアレンの話を聞き理解している。

まだまだ出会って三日であるが、そのことを十分に理解していたアレンは気にした風も無く話を続ける。

「ミスリルだけあって耐久性は抜群だが、これはホブゴブリンやゴブリンマジシャンぐらいまでしか検証してないから追加検証が必要だな。本当に必要かは疑問が残るが」

「うむ」

カードのチェックを終え、ゾマルが顔を上げる。アレンが言葉にしたようにカードに刻まれた魔法陣は歪んだりしておらず、修理の必要はなさそうだと判断したのだ。

「面白い武器ではある」

「たしかに相手の魔力で効果を発動させるってのは新しいかもな。矢とかに刻めれば実用的なんだが……厳しいよな?」

「うむ。バリスタなどであれば可能だ」

「となると個人としての活用はなかなか難しいな」

顔を見合わせて苦笑した二人の考えは概ね合致していた。

通常、魔道具といえばモンスターから得られる魔石を動力にして動くものである。しかしアレンはあえて回路だけを刻み、自身の魔力と発動句で効果を発揮させる魔法の補助道具を作った。

そして酒によって二人が悪乗りし、その魔法の補助道具を発展させて攻撃した相手の魔力で効果を発揮する魔道具の武器があれば強いんじゃないかという思いつきのもと作られたのがカードだった。

確かに二人の作ったカードは想定どおりの効果を発揮した。それだけを見れば成功といえたが、実際には課題が多く見つかっていた。

モンスターの種類によっては魔力が足らずに発動しないことがある。しっかりと体に突き刺さり、しかも一秒弱経たないと効果を発揮しないなど数えればきりがない。

その中でも最大の欠点はミスリルでなければ、うまく魔力を吸収できず発動できなかったことだった。

二人は鉄や銅でもカードを作っていた。しかしそれらで何度検証してもカードの効果が発揮されることはなかった。

魔力伝導性が高いミスリルだからこそ相手の魔力を吸収できるのだろうと推察したアレンはその時点でこのカードを実戦で使用するのは難しいだろうと結論づけた。

ミスリルの希少性は言うまでもない。そして実戦においてカードは使い捨ての武器だ。つまり希少なミスリルを使い捨てるということになる。

仮にそれが絶大な効果を生むような武器であれば、誰かが使う可能性もあっただろう。しかし実際は相手のモンスター相応の効果しか発揮できない。しかも発動させるための条件を満たすだけでも苦労するのだ。

はっきり言ってしまえば、普通の武器で戦った方がよほど簡単だし楽だった。

「実用は無理そうだな。そもそも買うやつがいないだろ」

「売れはするな。使いこなせるかどうかは別として」

「本気か?」

「コレクターはどこにでもいる」

そう言ってゾマルは肩をすくめてみせた。その仕草で本気だと気づいたアレンが内心驚愕していると、ゾマルは持っていたカードをドンッ、とアレンの前に置いた。

「記念にやる」

「記念って……これだけでも結構な財産だろ?」

アレンの目の前に置かれたカードの束は50枚近くあり、鋳潰せば短剣を作れそうなほどの量があった。

「面白い着想を得られた礼だ」

「それでも……いや、ありがたくもらっておく。俺なりに有効活用する方法を考えておくよ」

「うむ」

さすがに断ろうと考えたアレンだったが、その言葉を途中で止める。そして素直に受け取ったアレンの姿をゾマルは満足そうに見つめたのだった。

そして二人はそのままドゥラレの町からライラックに向けて旅立った。

徹夜明けではあるがドワーフにとって数日鍛冶をし続けるなど珍しいことではないため、平然と今からライラックに向かうと決めたゾマルの意向にアレンが従ったのだ。

マジックバッグの中には旅の準備がほとんど整っていたこともあり、生鮮品を軽く補充しただけで二人は旅立つ。

徒歩によるライラックへの旅だったが、その旅路は平穏そのものだった。そもそも街道周辺にモンスターが出ること自体がまれであるし、ミスリル級と金級の冒険者を相手にできる者など滅多にいるはずがない。

そんな気楽な旅路の中で、アレンは面白い話をゾマルから聞いた。

「あの変な建物がオークション会場?」

「そうだ」

「そうだったのか。俺も一度くらい見に行けばよかったな」

ドゥラレの冒険者ギルドの横に新たに建てられていた奇妙な建物がオークション会場である事を聞いたアレンが少し残念そうにする。

そのオークション会場では、ドゥラレのダンジョンの宝箱から得られた武器や防具、アイテムなどが連日競売にかけられているというのだ。ゾマルいわく、大した物は出ていなかったとのことだったが、その雰囲気だけでも味わえばよかったとアレンは後悔していた。

「しかし見たことのない形だったよな。もしかしてゾマルが建てたのか?」

「儂は鍛冶師で大工ではない。あれはエルフの建築だ」

「へー。やっぱり種族によって建築も変わるもんだな。っていうかなんでゾマルはエルフの建築を知っているんだ?」

「数十年エルフの里に客分としていたからな」

「ふーん」

ゾマルの言葉にあいづちをうちつつも、アレンはカミアノールが言っていたことを思い出していた。

(そういえばネラのダンジョン攻略に役立ちそうな人材を 連れてくる(・・・・・) って言っていたな。エルフの里で依頼された装備でも作っていたのかもな)

そんな風に考え、アレンは詳しい事情を聞かないままスルーした。

そして数日後、アレンはゾマルをライラックに送り届けるという依頼を達成した。護衛というよりはただ話し相手として歩いてきただけだったが、依頼票にはしっかりとゾマルの完了のサインが入っているため問題はない。

「じゃあ俺はここまでだ」

「世話になった」

「こっちもな。ギルドの通りをしばらく行ったところに俺が住んでいる屋敷があるから暇だったら遊びに来てくれ。また飲もう」

「うむ」

職人街のある街の東側まで案内し、アレンとゾマルが別れを告げて握手をする。ごつごつした手の力強さを感じながらアレンは笑った。ゾマルも細い目を更に細めて笑っていた。

そして迷い無く職人街を歩き始めたゾマルをしばらく見守り、アレンは身を翻して冒険者ギルドに依頼達成の報告に向かった。