軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第7話 悪乗りの魔道具

ぐおー、ぐおーという聞きなれない音に顔をしかめながら、アレンがその瞳をゆっくりと開いていく。

目の前には音の発生源であるゾマルの髭もじゃの顔があり、体を大の字にして床に寝転がりながら気持ち良さそうにいびきをかいていた。

固い床でばきばきに固まった体を起こしながらアレンが顔をしかめる。

「うおぉ、頭痛え。久しぶりに飲みすぎたな」

最近アレンは酒を飲むとしても一杯か二杯程度を楽しむ程度であり、昨日のように浴びるように飲むなどといった経験は久しぶりだった。

久々に感じる頭痛と気持ち悪さを紛らわすようにアレンは大きく息を吐き、緩慢な動きで立ち上がる。そしてすぐそばの机の上に並んだ四角いカードを眺めて苦笑いを浮かべた。

「あー、やっぱあるか」

様々な模様が刻まれた銀色に輝くカードは、昨日悪乗りしたアレンとゾマルが勢いで作り上げた魔道具だ。

しばらくそれを眺めていたアレンだったが、ずきずきと痛む頭に再び顔をしかめると、とりあえず水を飲むために雑魚寝していた工房から出ていく。

しばらくしてゾマルも目を覚ましたのだが、むくりと体を起こしたゾマルは二日酔いになったような様子もなく、すぐに椅子に座ると昨日作り上げた魔道具をいじりはじめた。

そこに水の入ったコップを片手にアレンが戻ってくる。

「ゾマルも起きたか。もう昼過ぎだが飯は食うか?」

「うむ」

アレンに一切視線をやらずに答えるゾマルの対応に、ドワーフらしいなと思いつつアレンはテーブルにコップを置く。

対等に酒を飲み明かしたことでゾマルはアレンを認め、そして魔道具を作り上げる頃にはお互いを親しげに呼ぶようにまでなっていた。

年齢も種族も目指すものも何もかも違う二人だったが不思議と気があったのだ。

ゾマルが真剣な表情で魔道具を調整する姿をアレンはしばらく眺めて微笑むと、昼ごはんを用意するために工房から出て行った。

アレンの作った昼食を食べた二人はさっそくドゥラレの町を出て、ライラックに向けて出発……はしなかった。

ゾマルの希望で、徒歩でライラックに向かうことになっているためいつでも出発することは可能だ。しかし今から出発してもほどなく野営の準備をすることになってしまう。よって今から出発する意味はないといえた。

町を出た二人が向かったのはライラックとは逆方向、ドゥル山脈のふもとで発見されたドゥラレのダンジョンだった。

一階層の果樹の生えた階層を二人は進んでいく。まだ新人と思われる冒険者たちが果物を収穫する様子をしばらく眺め、ゾマルがぽつりと呟く。

「まるで農夫だな」

「たまにゴブリンが出る物騒な農園だけどな。まあ新人が金稼ぎしながらモンスターに慣れるって意味じゃあなかなかいい階層だと思うぞ」

不満げに新人たちに視線をやるゾマルに、アレンがフォローの言葉をいれる。ふんっ、と鼻息を漏らし二階層に続く階段に進んでいくゾマルの背中を眺めながらアレンは複雑な顔をしていた。

先ほどの言葉は上昇志向の強いゾマルならではのものだとアレンもわかっている。しかしアレン自身も同じ思いを少なからず感じていた。

目に見える範囲にいる冒険者たちは緊張している様子もなく、それどころか楽しげにしながら果物を収穫している。まるでここがダンジョンの中ではないかのように。

冒険者になりたてのころ、アレンは死にそうな目にあいながらも必死に金を稼いでいた。その頃の自分と今の彼らを比べれば、ぬるいという感想が出てきてしまうほどに。

ぽりぽりと頭をかき、アレンは苦笑する。

「きっとこっちの方がいいんだろうし、感傷だってのは十分にわかってるんだが。あー、俺も歳をくったな」

改めて自分の加齢を認識しながら、アレンは先を行くゾマルの後を追いかけていった。

四階層にもなると冒険者たちの姿はほとんど見えなくなる。周りには相変わらず果樹が生えているが、ゴブリンの出現率が高くなるからだ。

まだモンスターに慣れていない者は低階層で果物を収穫して金を稼ぐし、モンスターに慣れている者は先に進んでしまう。いわゆる不人気層なのだが、今のアレンとゾマルにとっては丁度良い階層だった。

「んー、こっちから足音が聞こえるな。たぶんゴブリン三体」

「うむ」

四階層に降り立ち、その場でしばらく耳を済ませていたアレンが右方向を指差す。ゾマルはそれに同意すると、その重そうな体に見合わない小さな足音でそちらに進んでいく。

しばらく進むとアレンの言葉どおり、三体のゴブリンが手に持った棍棒で果物を落としていた。まだゴブリンたちはアレンたちに気づいていない。

ゾマルは腰のポーチを手で探ると一枚のカードを取り出す。それはアレンと悪乗りで作った魔道具だった。

「ふっ」

息吹と共に振り下ろされた手によって放たれたそのカードは、くるくると回転しながらゴブリンに向かって飛んでいく。そして今まさに果物を食べようとしていたゴブリンの額に突き刺さった。

そのゴブリンは白目をむき、そのまま地面に崩れ落ちる。警戒の声をあげながら周囲を探る残りのゴブリンたちを眺めながらアレンはぽつりと漏らした。

「発動するどころか即死だったな」

「加減したつもりだが」

「まあゴブリンだしな。次は俺にやらせてくれ」

ゾマルからカードを受け取り、アレンが同じようにカードをゴブリンに向けて放つ。棍棒を地面に叩きつけて怒りを露にするゴブリンに向けて飛んでいったカードは、その腕に当たると突き刺さることなく後方に消えていった。

カードによって切られた腕から血を流し、叫び声をあげるゴブリンの姿を見ながらアレンは顔をしかめる。

「これ意外と難しいぞ」

「そうでなければ面白みがない」

「面白みのためにミスリルを使うのはゾマルくらいだろ」

肩をすくめるゾマルは既に新しいカードを取り出して攻撃しようとしているが、アレンは飛んでいったカードからなかなか視線を外せない。

ギルド証程度の大きさの魔道具のカードではあるが、その素材はミスリル製だ。希少金属であるミスリルは、普通の冒険者では見ることさえまれであり、手に入れることなど夢のまた夢の素材である。

その値段は高価であり、純ミスリル製の武器といえば高位の貴族家でも家宝として扱われるほどだった。

アレンとゾマルが投げているカードはギルド証程度の手のひらに載るサイズであり、その厚みは紙のように薄い。

それでも素材としての価値だけで数百万ゼニーはくだらないのだ。そんなものを使い捨てにできるほどアレンの肝は太くなかった。

(後で絶対回収するぞ)

そんな決意を秘めつつ見守るアレンをよそに、ゾマルが再びカードを投げる。先ほどとは違いゴブリンの体に向かったカードはコスッと良い音を立ててその胸に突き刺さった。

悲鳴をあげるゴブリンだったが致命傷ではなく、顔を出したままだったゾマルを見つけて憎々しげな顔で駆けだす。その胸に刺さったカードは僅かな光を発していたが……

「不発だ」

「そのレベルはゴブリンじゃ無理なんじゃね。うーん、こっちならいけるか?」

やってくる二体のゴブリンを眺めながら、なにも起きないことにゾマルががっかりした声を漏らす。

一方アレンは束から一枚のカードを選び出すと、それをもう一体のゴブリンに向けて素早く放った。くるくると回転したカードは狙い違わずその胸に吸い込まれ、そしてそこから炎を噴きだす。

「「おぉー」」

炎を消そうと地面を転がりまわるゴブリンの姿に二人は同時に歓声を上げた。そして顔を見合わせるとさっそく議論を始める。

「初期検証は成功だ」

「理論上できるかもとは思っていたが、実際目にすると感慨深いもんだな。しかしモンスターによって発動できる効果が違いそうだ」

「個体差による違いもあるだろう」

「かもな」

胸にカードが刺さったまま襲ってきたゴブリンをゾマルが大槌を軽々と振り回して倒し、アレンは火にまかれて既に虫の息だったゴブリンに止めを刺す。

そして二人は使ったミスリル製の四枚のカードを回収すると、検証を続けるために別のゴブリンを探し始めたのだった。