作品タイトル不明
第4話 久しぶりのドゥラレ
町に入ったアレンは、久しぶりのドゥラレの様子を眺めながら歩を進めていく。
ドゥラレのダンジョンの攻略。そして新規に立ち上げられた冒険者ギルドが安定するまで過ごしたこの町は、アレンにとって良い意味でも悪い意味でも印象に残っていた。
「そんなに変わってはいないな。宿とかは多少増えたみたいだが」
何もない村から町へと変わっていく様子を目にしていたアレンにとって、久しぶりのドゥラレの町は多少の変化は認められるものの、ほとんど記憶のとおりの姿だった。
足早に歩く商人がアレンを追い抜いていき、対面から来た農夫と思われる男がキョロキョロとしながら店を眺めている。
村と町の中間といわんばかりの通りの様子をアレンは少しだけ笑みを浮かべて眺め、そして再び歩き出したのだった。
冒険者ギルドにたどり着いたアレンだったが、その足はギルドの目の前で止まっていた。
「なんだ、これ?」
呆けるアレンの視線の先にあるのは、冒険者ギルドの隣にそびえ立つ半球の建物だった。木製なのだが磨き上げられたその表面はまるで金属のように輝いており、景観に見合わないその形は異彩を放っている。
アレンの記憶では、そこにはギルドの倉庫と解体場があったはずなのだが、その姿はどこにもなかった。
半球の建物にはしっかりと扉が設置されており、アレンの目の前でためらいもなく商人が入っていく。
商人ギルドの建物じゃねえよな、などと思いながらアレンはとりあえず冒険者ギルドに入ることに決めた。
「あっ、アレンさん。久しぶりー。私へのお土産は?」
「リジー。お前、相変わらずだな。開口一番それかよ」
「だって、ライラックに比べて暇なんですよ。お店も少ないですし」
「いや、ライラックと比べたら駄目だろ」
アレンの冷静なつっこみに、顔見知りのギルドの受付嬢であるリジーがわざとらしくため息を吐く。
しばらく会っていなかったが、全く以前と変わらぬその態度にアレンは苦笑を浮かべつつ、マジックバッグに手を入れてごそごそと探った。
「ほい、マチルダから差し入れ。くれぐれも皆で分けること、だそうだ」
「さっすがマチルダ先輩。私の一番の理解者だけありますね」
アレンの差し出した袋の中身を確認して目を輝かせながら、リジーが小躍りして喜ぶ。そして周囲の受付嬢に見えるようにそれを高々と掲げた。
「よーし、みんな。マチルダ先輩の差し入れがあったから、今日の休憩は豪華だよ! っていうことで私は休憩に……」
「ちょっと待とうか」
袋を持ったままくるりと身を翻して奥に行こうとしたリジーの肩をアレンが掴む。振り返り不思議そうに首をこてんと傾げるリジーにアレンは預かっていた言葉を伝えた。
「マチルダからの伝言だ。残念だわ、リジー。あなたが少しは成長して真面目に仕事をしてくれているなら、もっと良いお土産を渡そうかと思っていたのだけれど。仕方がないからあなたをフォローしてくれているであろう他の受付嬢の方に渡すわね」
「えっ?」
「ちなみにこっちがそのお土産な」
アレンがなにげなく取り出した高級そうな黒塗りの箱を見てリジーは戦慄する。それはライラックでも一、二を争う高級菓子店のものだと気づいたからだ。
この一箱だけでも、それなりに高給であるギルドの受付嬢の一月分の給料を超えているのだ。よほどの商人か貴族でなければ気軽に食べられるはずのないそれが、目の前にある。
リジーの視線がアレンと箱の間をせわしなく動く。その額にはいつの間にか汗がにじんでおり、現況を打開するために頭をフル回転させていることがよくわかった。
しばらくしてリジーはにっこりと笑みを浮かべた。
「やだなぁ、アレンさん。私はお土産を奥の休憩室に置いておこうと思っただけですって」
「と言うと思うわよ、ってマチルダは言ってたな」
「理解されすぎてて辛い……」
アレンの言葉に、リジーがしょぼんと肩を落とす。あまりにわかりやすい落ち込みようにアレンは苦笑すると、預かっていた最後の言葉を伝えた。
「くれぐれも節度を守って人に迷惑をかけないように。あなたがドゥラレの受付嬢の見本だということを忘れないようにしなさい。だってさ」
アレンが持っていた箱をひょいっとリジーに渡す。受け取ったリジーはしばらく目を白黒させ、アレンに本当にいいの? と確認するように視線を向けた。そしてアレンが笑いながらうなずくと、その表情が満面の笑みに変わる。
「やった。みんな、抜け駆け禁止だからね。公平にわけるから。あっ、お休みの子も呼んでこよう。これは滅多に食べられないからねー」
楽しげな足取りで歩いていくリジーを周囲の受付嬢たちが優しく見守る。その中には明らかに年下の受付嬢もいたのだが、その瞳に宿るのはわが子を見守る親のような温かな感情だった。
(見本にはなってねえけど、リジーがいることでうまくいってるのかもな)
いまにもスキップしそうな後姿を眺め、アレンはこっそりと笑みを浮かべたのだった。
そして戻ってきたリジーに案内され、アレンはドゥラレの冒険者ギルドの二階にあるギルドマスターの部屋にやってきた。
そこにはギルドマスターであるカミアノールと、まるで秘書のように控える女性のエルフ、セレスティーナがいた。
「やあ、よく来てくれたね」
まるで気さくな友人であるかのようなカミアノールの挨拶に少し頬を引きつらせながら、アレンは促されるままに対面のソファーに座る。
「ライラックまである人物を護衛して欲しいとのことですが、ライラックでは詳細を教えられませんでした。無茶な依頼だと思いますが」
「それについては悪かったと思っているよ。まあ彼はちょっとした有名人でね。ここにいるのがわかると面倒なことになる可能性があったんだ」
あえて丁寧な言葉で抗議を示すアレンに、カミアノールは申し訳なさそうにしながら謝罪する。しかしその表情が偽りのものであることをアレンはなんとなく察していた。
とはいえそれを指摘しても意味がないためアレンはそれを流し、代わりに気になった単語を拾う。
「有名人?」
「アレンも名前を聞けば……うーん、我々の間では有名なんだが、一般人には知られていないかもしれないな。ゾマルという名に聞き覚えはあるかい?」
「ゾマル。……うーん、どこかで聞いた覚えはあるな。結構前だった気がするんだが」
聞き覚えのある名前にアレンが記憶をたどっていく。確か知り合いの誰かに聞いたような、と考えていたアレンがふと、それを思い出す。
「あっ、師匠が言ってたすごいドワーフの名前だな。イセリアの装備を作った奴がゾマルで、それを師匠に修復してもらう時に聞いたはずだ」
ダンジョンで鍛冶道具を見つけ、師匠であるドルバンのことを考えたからこそすぐにアレンはその名を思い出した。そうでなければ数度聞いただけの名前のことから、そこまで詳細に思い出せなかっただろう。
アレンの言葉にカミアノールが満足そうにうなずく。
「それなら話は早い。彼がここにいることを知られると弟子入りを願うドワーフで町が溢れてしまう可能性があったんだ。町にまで発展したとはいえ、ドゥラレにそれを受け入れる余裕はなくてね」
「それで秘密にってことか。確かにドワーフの冒険者もいるからな」
「そういうことだ。では行こうか」
納得したアレンの目の前でカミアノールが立ち上がる。そしてアレンを伴ってギルドを出るとそのまますたすたと歩き始めた。
そしてカミアノールは一軒の店に迷うことなく入っていく。そこはアレンにとって見覚えがありすぎる店だった。
(レベッカの店かよ)
そんなことを思いながら、アレンはカミアノールに続いて店の中に入っていった。