軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第5話 ゾマルとの対面

レベッカの店であるレエジア雑貨店に入ったアレンが店内を見回す。様々な商品が棚に並び、それを楽しそうに住民が眺めている。

その一角では若い冒険者たちが固まって真剣な表情で何かを話しており、結論が出たのかそこに置いてあった木の板のようなものを手に取るとカウンターに向かっていった。

精算を終えた彼らが店から出て行くのを見送り、アレンがカウンターに座る男に話しかける。

「よっ、アイク。店員ぶりが板についてきたじゃないか」

「久しぶりだな、アレン」

アレンより若いはずなのに、一回りほど年上に見える男、アイクが突き出した拳にアレンが拳を合わせる。

アイクは元々ライラックの鉄級冒険者であり、ドゥラレのダンジョンが発見されたことに伴って、ドゥラレに拠点を移していた。アレンとも顔見知りであり、気心の知れた間柄といえる。

そしてドゥラレでマチルダとレベッカが襲われる事件が起こったときにレエジア雑貨店も襲いに来た無法者たちを退け、その縁があって今はここで働いていた。

冒険者をしていた時よりも体がふっくらとし、その雰囲気も丸くなったアイクの変化に笑みを浮かべながらアレンがマジックバッグから何本かの酒瓶を取り出す。

「とりあえず土産だ。お前の好きな酒と何本か適当に見繕ってきた」

「ちょっと待て。ここで出すな」

焦った表情で声をひそめながらそう言うアイクの様子に首を傾げながら、アレンが言われたとおりにマジックバッグにそれらをしまっていく。

アレンの知る限り、アイクは大の酒好きだ。今までなんどかアイクに世話になったことがあるが、そのお礼は全て酒場でのおごりだったことからもそれは明らかだった。

「あー、デレオネに止められてるとかか?」

「いや、デレオネだけなら二人で飲めば済む話なんだが……」

アレンの質問にアイクが言葉を濁す。

デレオネとはレベッカにこの店を任されているドワーフの女性だ。宝飾品の作成を得意としており、魔道具の回路もある程度作製可能な腕を持っている。

アレンとマチルダの指輪もデレオネが作製したものであり、それには及ばないが店に並んだ品の良い装飾品は全てデレオネが作ったものだった。

そしてアイクにべた惚れしており、アイクが今デレオネの名を出した時に柔らかい表情から相思相愛になったのだろうとアレンは推察する。そして言葉を濁した原因にもすぐに気づいた。

「ゾマル師のせいか」

「なんでアレンが……いやそうか。ギルド長と一緒に来たということはアレンが護衛依頼を受けたってことか。いやーよかった。肩の荷がおりたわ」

晴れ晴れとした顔でアレンの肩をばんばんと叩きだしたアイクの変わりように、アレンが顔をしかめる。特に痛いわけではないのだが、アレンの胸のうちで言いようのないもやもやが増していくのを感じていたからだ。

「ゾマル師は中でデレオネに指導してるぜ。声はかけずにそのまま入ってくれ」

「了解」

「出発前にまた飲もうな」

杯を傾ける仕草で誘うアイクに笑い返しながら、アレンはカミアノールを伴って店の奥に進んでいった。そして勝手知ったる妹の店、目的の部屋に迷うことなく入っていく。

「これでいかがでしょうか?」

「ここ、荒い」

「わかりました」

その部屋の中では銀に輝くネックレスを前に、真剣な表情でデレオネが作業していた。薄い布で指摘された先端部分を整えていくその姿は、必死という言葉が良く似合った。

そんなデレオネの作業姿を一人のドワーフが後ろから見守る。腰まで届くような白く長いひげを綺麗に三つ編みにし、皺の寄った顔にある細い目はまるで全てを見透かすようだった。

「やあ、ゾマル。君の護衛の冒険者が来たよ」

「そうか」

カミアノールの言葉に言葉少なく返事をし、ゾマルがアレンに視線を向ける。糸のように細いその目に貫かれたアレンは、無意識の内に自分の腰に提げる剣に手を添えていた。

「殺気をとばすのはやめてくれねえか?」

「癖だ、許せ」

アレンの指摘にゾマルが少しだけ相好を崩す。それを見てアレンも緊張を解き、自然体に戻った。しかしその背中には嫌な汗がつつーっと流れていた。

(なにもんだよ。鍛冶師のはずだろ)

アレンが感じた殺気はモンスターが放つようなわかりやすい大きなものではない。常人では気づかないほど細く、しかし寒気がするほど深いものだった。

幾多のモンスターや荒くれ冒険者たちと対峙してきたアレンにとっても初めて感じる種類のものであり、その裏に確かな実力が隠されていることをアレンは察する。

「護衛、いらねえだろ」

「たしかに身を守るという意味なら必要ないだろうね。なにせ彼はミスリル級の冒険者でもあるから」

「ミスリル……マジかよ」

カミアノールから伝えられた事実にアレンは驚きと共にため息を吐く。

現在アレンは金級冒険者だ。普通の冒険者ではたどり着けない高いランクではあるが、ミスリル級はそのさらに上のランクにあたる。アレンのもう一つの姿であるネラもミスリル級の冒険者であり、正に雲の上の存在という言葉が似合うランクなのだ。

「じゃあなんで俺が呼ばれたんだ?」

「それはね……」

「これだ」

説明を始めようとしたカミアノールの言葉を遮ってゾマルが胸の内からなにかを取り出す。

アレンにとっては見覚えのありすぎる、トレント製の木の板に魔術回路が刻まれたそれは、このレエジア雑貨店の目玉商品であり、アレンが開発した魔法の補助道具だった。

この魔法の補助道具を使えば、魔法使いでなくてもファイアなどの簡単な魔法を放つことが出来るようになる。

魔道具と違い発動句を言わなければならない上に、それなりに丈夫なトレント製とはいえ回路などが傷ついたり歪んだりして壊れることもある。その分一つあたりの価格は抑えられているので新人の冒険者には人気の一品だった。

「お前が作ったと聞いた」

「そうだな。最初に作ったのは俺だ。途中からデレオネに代わってもらったが」

「そうか。作って見せろ」

ゾマルの言葉にデレオネが反応し、自らが使っていた道具などを片付けると立ち上がって席を空けた。別に他にも椅子があるんだし、そっちでもいいんじゃねえか? と疑問に思いつつもアレンは譲られた席に座り作業を開始する。

アレンがこの魔法の補助道具を作ったのは、このレエジア雑貨店が開店した当時でそれ以降はほぼ作っていない。アレンは思い出しながらゆっくり丁寧に魔術回路をトレントに刻んでいった。

そして十数分後、完成したそれをゾマルに渡すと、ゾマルはしばらくそれを眺め『ファイア』と唱える。小さな火が部屋の中に現れ、周囲を照らした。

ゆらゆらと揺れる炎を眺めるゾマルの細い瞳が怪しく光る。そしてその炎が消えるのを見届け、小さく頷くとアレンに視線を向けた。

「冒険者か?」

「そうだな。鍛冶や調薬、魔道具も作ったりするがあくまで本職は冒険者だ」

「儂の逆か。面白い」

アレンの答えにゾマルがぼそりと呟いた言葉をアレンは拾っていた。そしてその言葉の意味を理解し、寒気を覚えていた。

アレンは、ゾマルは鍛冶師であり冒険者でもあると考えていた。たしかにそれは間違っていない。しかしアレンの考えと同じであるならば、あくまで冒険者は本業の鍛冶師のついでにやっているだけなのだ。

ゾマルが笑みを浮かべる。そして座ったままのアレンの肩にそのごつごつとした手を置いた。

「飲みに行くぞ」

「はっ?」

「話を聞かせろ」

「いや、なんのだよ。っていうか昼間から飲むのか? 護衛依頼の話は?」

「後だ」

ゾマルがアレンを立たせ、引っ張るようにして部屋を出て行く。戸惑いながらついていくアレンを驚いた表情でデレオネは見送り、カミアノールはにこにことしながら二人の後を追いかけていった。