軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第44話 別々の道へ

ライラックの街の南門。そこは今話題のライラックのダンジョンに続く門であり、ライラックに所属する冒険者の多くが行き交う活気に満ち溢れた場所である。とはいえ半ば昼に差し掛かった今の時間は、人の往来もそれなりではあるが。

「それでは頑張ってきます。マチルダさんもレックス君もお元気で」

「無理はしないようにね」

「あー」

声をあげたレックスにイセリアが微笑みかけ、そしてその髪の毛を優しく撫でる。それが気持ちよかったのか目を細めて笑うレックスの姿にイセリアとマチルダは笑みを増した。

少し名残惜しそうにしながらイセリアが手をひっこめ、そして改めて二人に挨拶をすると隣に立っていたアレンに向き合う。

「本当にお世話になりました。旅の準備まで手伝っていただきましたし、アレンさんには最後の最後まで迷惑をかけっぱなしでしたね」

「一緒に戦った仲間なんだから気にするな。後輩を手助けするのは先輩冒険者として当然だしな」

「はいっ!」

アレンの言葉にイセリアが嬉しそうに笑う。そんな姿にアレンは笑みを返すと、自分の腰に提げたマジックバッグから本を一冊取り出した。

明らかに本職による製本ではなく、紙を丁寧に束ねただけのそれにイセリアが首を傾げる。

「これは?」

「なにかの役に立つかもしれない知識や情報を俺なりにまとめたものだ。ヴェルダナムカまでの道中の暇つぶしにでも読んでくれ」

「大切に読ませていただきます」

イセリアが本を受け取り、両手で抱きしめるように抱える。少し涙目になっているその姿に、アレンは苦笑しながら口を開いた。

「無茶をするなとは言わない。でも自分の命を粗末にするようなことは絶対にするなよ。死んだら元も子もないんだから」

「はい、必ず」

「イセリア様。そろそろお時間ですので……」

門のほうからやってきたエルフの男性が申し訳なさそうにしながら二人の会話に割って入る。

アレンとイセリアは顔を見合わせてうなずきあい、そして同時に笑みを浮かべた。

「絶対に強くなって戻ってきます」

「おう。楽しみに待っているよ。その時は歓迎パーティを開いてやるから連絡してくれ」

「はい、必ず。では、行ってきます」

そう言うとイセリアはくるりと身を翻し、南門の外で停車している馬車に向かって歩き出す。

少しずつ小さくなっていく背中をアレンたち三人はじっと見送る。イセリアは一度もアレンたちの方を振り返らず馬車に乗り込み、そして動き出した馬車は視界から消えていった。

「行っちゃったわね」

「ああ、そうだな」

「本当によかったのかしら?」

アレンを見上げるマチルダの顔には先ほどまで隠していた不安の感情が浮かんでいた。

マチルダもイセリアとの付き合いがそれなりにある。イセリアは隠していたつもりだったが、その態度の端々からマチルダは異変を感じ取っていたのだ。

アレンは少しだけ天を見上げ、そして首を横に振る。

「わからん。でも確固たる意思を持って行動している奴を俺は止められねえよ。保険をかけておくぐらいはするけどな」

「……それもそうね。よし、それじゃあお昼はこのまま外で食べちゃいましょ。イセリアさんの旅路の安全を祈ってパーっとね」

「あんまり暴飲暴食は……まあ、今日ぐらい問題ないか」

「あー!!」

アレンはマチルダの腰に手を沿えて誘導しながら街の中心に向かって歩いていく。マチルダに抱かれ機嫌良さそうにするレックスの姿に固まった頬をわずかに緩ませながら。

街道を一台の箱馬車が進んでいく。貴族が乗るような装飾に彩られたものではなくシンプルな外見だが、でこぼこのある街道を静かに進んでいく様子から、見るものが見ればそれが高級なものであると推測できた。

そんな外見上はあまり目立たないその馬車だが、すれ違う者たちは必ず視線をそちらに向けている。なぜならその馬車の御者や護衛が全てエルフだったからだ。

エルフという種族自体、全く見ないというわけではないが旅をする者にとってもエルフという存在は珍しい。そんな者たちが操る馬車の中には誰が乗っているのだろう、そんな想像を誘いながら箱馬車はヴェルダナムカ大森林に向かって順調に進んでいた。

そんな箱馬車の中では……

「ではテッサさんは私たちを指導する教官になろうとお考えなのですね?」

「実力を認められればだけどね。リーラの推薦状があれば試験は受けられるそうだ。まっ、駄目だったらリーラの家で居候しながらエルフの里でも楽しむさ」

「夫婦水入らずの時間に、邪魔者はいらない」

「あんた旦那を何十年も放置しておいてよくそんなことが言えるね」

対面に座っていたテッサとリサナノーラの気軽いやり取りにイセリアが笑みを浮かべる。

まだ二人と会って数時間しか経過していないのだが、自分も勇者の卵であると自己紹介がてら明かしたテッサの気安さと、その経験談の面白さにイセリアはかなり二人に対して打ち解けていた。

だからこそつい、口から心で思った言葉がこぼれてしまった。

「リサナノーラさんって結婚されているんですか!? まだこど……いえ、お若く見えるのに」

「最後まで言わなかったから許してあげる」

じろっとした視線を素早く察して言葉を変えたイセリアに、小さく鼻をならしながらリサナノーラがそっぽを向く。

申し訳なさそうな顔をするイセリアに、テッサは豪快に笑ってみせた。

「まあこんな見てくれだが、リーラは私たちのパーティの最年長さ。エルフでも成人するまでは普通に成長するらしいんだが、どういうわけかリーラは途中で止まっちまったらしくてね」

「まれにあること。でも気にしているから言わないで欲しい」

「わかりました」

神妙な顔で返すイセリアにリサナノーラが優しく微笑む。

「冗談。言われても大体許す。でもそれを知ってて言う人は許さない」

「昔ライラックで初対面の相手に子ども扱いされて、けっこう怒って魔法をぶっぱなしてた気がするんだが」

「気のせい。というよりあれは子ども扱いというより本当の妹みたいに扱われて、ちょっとむずがゆかった。それに、あれは魔法の訓練」

「魔法の訓練にしては派手だったけどな。アレンの奴も本気で逃げ回ってたし」

昔を思い出し、懐かしそうに話す二人の会話を聞いていたイセリアが目を見開く。

「アレンさん、ですか?」

「ああ。昔私たちがライラックにいた頃、冒険の補助として雇った若い冒険者パーティの一人さ。何でも器用にこなす面白い奴だったよ。ただ、なんというか自分で苦労を背負い込んじまう気質があって、ルパートの奴が気にかけてたっけ」

「家族好きのいい子。エルフは家族を大事にするから、私もアレンは好き」

「リーラ。ライオネルが聞いたら泣くぞ」

「なんで?」

「あいつも報われないね。いや、リーラはもう結婚しているんだし最初から終わっていた話か」

二人の話しぶりに、イセリアはその中に出てきたアレンが自身の知るアレンだと確信する。昔の話に盛り上がる二人をよそに、イセリアはマジックバッグから一冊の本を取り出した。

『信頼できる者以外には絶対に見せないこと』

そんな注意書きで始まるアレンお手製の本をパラパラとめくりながらイセリアは柔らかく微笑む。

一文字一文字丁寧に書かれたその内容は、イセリアのためを想って作られたものだと軽く読んだだけでもわかった。

そしてある一ページでイセリアが手を止める。そこに書かれていたのは、いざという時に頼るべき冒険者のリスト。

その最上部に書かれていたのは、アレンであり、その次に書かれていたのはネラという名前だった。

ふふっ、と思わずイセリアが声を漏らす。急に笑ったイセリアをテッサとリサナノーラが見つめ、それに気づいたイセリアはパタリと本を閉じる。

表に比べて少し厚みのある裏表紙をイセリアは軽く撫で、顔を上げて二人に笑顔を見せた。

「そのアレンさん。きっと私に冒険者の心得を教えてくれた人です。本当にお世話になった大恩人なんですよ」

「本当かい。やっぱり偶然っていうのはあるもんだね」

「アレンの話聞きたい」

「いいですよ。昔のアレンさんのことも後で教えてくださいね」

イセリアの返しに二人がうなずき、笑みを浮かべたイセリアが話し始める。アレンのことを肴に、箱馬車の中の三人は親睦を深めていったのだった。