軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第30話 城下町の探索

「ふぅ、とりあえずこれで終わりでしょうか?」

「たぶんな」

胸に手を当て乱れた息を整えつつ、そう聞いてきたイセリアにアレンが周囲の警戒を続けながら返す。

二人が現在いるのは二十四階層へと続く階段のある小高い丘だ。物量で押し切られる可能性を考え最悪の場合撤退するために逃げながら戦い続けたのだが、本当にギリギリのところまで二人は追い詰められていたのだ。

撤退してきた経路を示すように、倒されたモンスターたちが一直線に並んでいる光景をしばらく眺めていたアレンだったが、これ以上なにも起こることがなさそうだと判断し、小さく息を吐く。

「ダンジョンで良かったな。これが地上だったら後始末だけでどれだけ金がかかったかわかったもんじゃねえぞ?」

「そうですね。でも新人冒険者の方々に自由に素材と魔石を回収していいという条件で依頼すればいいのではないでしょうか?」

「これだけあると価値が暴落しそうなんだよなぁ。回収できる素材も傷みが激しいし」

「そこまでの余裕はありませんでしたからね」

二人が顔を見合わせながら苦笑いを浮かべ、そして歩き始める。

アレンの体感では、倒した数は五百を超えている。狼型のモンスターを別個体と考えれば千を超える数だ。これらの全てを換金できたら一財産にはなる。しかしそれはできたらの話だ。

実際、アレンもイセリアも素材を回収する気が全くないというのは、そんなことを話しながら倒したモンスターたちを無視していることからも明らかだった。

地上であれば腐敗し疫病が蔓延する元となったり、下手をすればアンデッド化して面倒なことになる可能性もあるが、ダンジョンであれば放置すればいずれ消えるため、そういった心配をする必要はなかった。

実際倒したモンスターを放置するというのはダンジョンであれば日常茶飯事に行われている。ただし低階層ではという注釈がつくことが多いが。

地上でモンスター討伐した場合の処理方法などを、あまりそういった経験のないイセリアに復習がてら話して教えながら、アレンは頭の中で今回の出来事が意図的に隠されていたものかを考えていた。

しかしそれを判断するには材料があまりに少なすぎた。今回はたまたま1500回防壁の上のモンスターを落としたタイミングで起こったが、その条件が本当に正しいのかもわからないのだから。

しばらく可能性を探っていたアレンだったが、元いた位置まで戻ってきたので軽く頭を振って思考を切り替える。

「防壁の上にいた奴らは消えたな」

「隠れているのでしょうか?」

「どうかな。近づけば気配でわかるかもしれねえがここからじゃあ無理だな。ご丁寧なことに門を開けて招待してくれているようだが……」

「では、いつもどおりに慎重に、ですね」

「おう。フォローは任せた」

少し笑いながらアレンが先ほどモンスターたちが現れた門を指差し、イセリアが少し気合を入れた様子でうなずいて返す。

疲れている様子だったら少し休憩でもいれようかと考えていたアレンだったが、そのイセリアの姿に大丈夫だろうと判断して先頭を歩き始める。背後から聞こえるしっかりとした頼もしい足音に、少しだけ笑みを浮かべながら。

門をくぐった直後に上から飛び降りてきたオーガに奇襲を受けたアレンだったが、事前に鎧のこすれる音を耳にしていたため心の準備は出来ており、対応を誤ることはなかった。

その後、二人は慎重に城下町を進んで行き、ときおり地図を作成したりしながら順調に探索は続けられた。

「聞いていた話とは違って、奇襲ばかりですね」

「そうだな。連戦にならないのは楽なんだが、気が抜けないという意味ではあまり変わらないかもな」

先ほどまで通った道を簡単に地図に落とし込んでいるアレンに、周囲の警戒を続けるイセリアが軽く声をかける。それに対して苦笑いしてアレンは返すと、ちょうど良いところまで書き終えたペンと地図をしまって顔を上げた。

事前にイグノールから得ていた情報では城下町に入った後は至る所に敵がおり、普通に休むことが困難という話だったのだ。

情報の中には、モンスターの襲撃を回避するための条件の良い場所なども含まれており、教えられたとおりの場所に行ってみたところ確かに存在していたところからしても、その話が嘘だとは二人とも思っていなかった。

「これパターン別に地図の作成とかがいるってことになるのか? だとしたらかなり面倒だな」

「イグノールさんに聞いた場合と今回の場合は違いすぎますからね。でもそれだけではなく他のパターンが存在するという可能性も十分にありえますよね?」

「そうだな。少なくとも密かに進入した場合は違いそうな気がするな。今度は地面を掘って地下から進入とかしてみるか?」

そんな冗談とも本気ともつかないようなことを言いながらアレンが目の前の一際大きな建物の扉を開く。そして内部を十分に確認してモンスターがいないことを確認するとそのまま最奥部に設置された台に載せられた宝箱へと向かって歩き始める。

そして宝箱まであと数歩、といったところで後ろに続いていたイセリアへと掌を見せてから歩みを止める。

「やっぱり罠は健在か」

「細い糸ですね。戦いの最中だと気づかないかもしれません」

「そういう時は敵が引っかかる場合もあるし、自分たちだけが気をつけていれば安全じゃないから注意が必要だな。罠の種類の確認は後にして、とりあえず宝箱を確認するぞ」

「はい」

透明な細いその糸をまたぎ、二人は宝箱の前に立った。そしてアレンが宝箱自体に罠がないかを確認していく。

そして慎重を期した上で開けたその宝箱に入っていたのは、24階層までの拠点に設置されていたのと同程度のランクのアレンとイセリアにとっては使用することのない大盾だった。

アレンが宝箱から取り出したそれを見て、イセリアは苦笑いをしたのだった。

その後、城下町の攻略を進め、2つ目の宝箱を見つけてその中身を確認したところでアレンとイセリアは本格的な休憩に入ることにした。

城下町の探索は慎重に行っていることもあり、4時間ほど経過した現在でも全体の2割程度。建物の内部まで含めれば1割未満しか済んでいない。しかしそれは事前に予測していたことでもあり、二人が焦っている様子はなかった。

二人が休憩をとっているのは噴水が中央に配された広場だ。建物の中という選択肢もあったのだが、異変の察知が遅れる危険性やいざと言う時の撤退のしやすさなどを勘案した結果、この場所が最適だろうと判断していた。

さすがに敵陣の中ということもあり、のんびりと料理などをすることもなく、二人は交互に携帯食料を食べて腹を満たすと、順番に仮眠をとることにした。

既に攻略開始から半日以上経過しているが日が落ちる様子はなく、床に敷いたマットの上にイセリアが少し深めに毛布をかぶって寝転がる。

若干恥ずかしそうにはしているが、ライラックで一緒に探索を始めた頃に比べるとだいぶマシになったなと、アレンが考えていたその時だった。

「あの、アレンさん」

「んっ?」

向けられたアレンの視線に、少しだけ毛布に顔を深く潜り込ませながらイセリアが言葉を続ける。

「もし、よろしければ……」

そこでイセリアは言葉を止め、迷うように視線を左右に振り、自分自身を落ち着けるように一度深呼吸した。その様子をアレンはなにも言わずじっと眺め、そして小さくうなずいたイセリアが口を開く。

「こん……」

バァン!!

突然響いた破裂音と、続いて聞こえてきた何かが崩れる音に二人が即座に反応する。壁の一部が崩れ落ちた城を視線の中に入れながら周囲を警戒するアレンの横で、飛び起きたイセリアは外していた胸当てなどの装備を手早く装着していた。

「アレンさん、状況は?」

「城の一部が破壊されてる。おそらくイグノールのパーティだと思うが……あっ!」

視線の先、穴の開いた壁から数人の男女が飛び降りるのを確認し、それに続いてアレンに見覚えのあるモノが飛び降りたのを見てアレンは思わず声を上げた。

「用意できました!」

威勢よく合図したイセリアの瞳が、どうしますか? とアレンに無言の内に問いかける。

イグノールとは現在共闘関係と言えなくもないが、仲間というわけでもない。安全を最優先するのであれば、ここは見に徹する方が賢いとアレンにはわかっていた。

しかし、自分に向けられる真摯で純粋な瞳はそれを許さないだろうとも理解していた。なにせイセリアは英雄アーティガルドに憧れる勇者の卵なのだから。

「イグノールたちを助けに城へ向かう」

「危険な状況なんですね?」

「ああ。余裕はほとんどない」

そのまま走り出しそうなイセリアをアレンが制する。

なぜ? と驚きの表情を浮かべるイセリアをアレンはひょいっと抱きあげると、ほぼ全速力で走り始めた。ものすごい勢いで流れていく風景と、体に当たる風圧に若干の恐怖を覚えつつも、アレンの真剣な表情を見上げ、イセリアは口から漏れそうな悲鳴を抑える。

少しすると恐怖にも慣れ、アレンの腕のたくましさや伝わる体温、そして現在の状況に少し顔を赤くし始めたイセリアに声がかかる。

「こんな感じで悪いな。マジで時間がねえんだ」

「い、いえ。でもアレンさんが焦るなんて、それほど危険なのですか?」

「イグノールたちを追っているモンスターがなぁ。イセリアは……そういえば見たことがあるな」

「えっ、私がですか?」

まだ冒険者になってそこまで経っていないイセリアが相対したことのあるモンスターなどたかが知れている。一番印象に残っているのはハンギングツリーだが、アレンの言動からしてそれは違うとイセリアは考えた。

しばらく思考をめぐらし、そしてイセリアがあるモンスターを思い出す。相対するだけで体の震えが止まらないほどの圧を受けたそのモンスターの名は……

「オーガキング」