軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第29話 攻略開始

「じゃ、それでよろしく」

説明を終え、にこやかに微笑むとイグノールはアレンたちの元を去っていった。その背中には二人を警戒しているような様子など全く見えず、仮に二人に不意打ちされようものなら抵抗することなど全くできずに倒されてしまうことは明らかだった。

二人はイグノールの姿が見えなくなるまでその姿を見送り、そしてお互いに目を合わせる。

「不思議な方ですね」

「少なくとも完全に信用したら駄目な類の匂いがするな。まっ、根拠は勘でしかないんだが」

「なんとなくですが、わかる気がします」

アレンが苦笑いしながら言ったその人物評に、イセリアも同じような表情をしながら同意する。そんなイセリアに笑い返しながら、アレンは内心、それすらも演技である可能性もあるんだよなぁ、などと考えていた。

しかしそれを判断できる材料などイグノールとほとんど面識のないアレンにはなく、気持ちを切り替える意味でこほんと一度咳払いすると、自らの手に持つ紙へと視線を落とした。

それはイグノールから聞き取った情報を元にアレンが作成した地図だった。長い期間この25階層を攻略していただけありその情報量はかなりのもので、城下町全域に関しての危険箇所の把握と言う意味ではかなり助かりそうなものだ。

「アレンさん。これは正しい情報でしょうか?」

「おっ、ついにイセリアも人を疑うことを覚えたか。成長したな」

「茶化さないでください。私は本当に信用できる人しか信じません」

ちょっとむっとして頬をふくらませるイセリアに、悪い悪いと軽く謝りつつアレンが地図へと視線を走らせていく。一通りの確認を終えたアレンが視線を上げ、そして思いのほか近い距離にあった地図を覗き込むイセリアの端正な顔にビクリと体を震わす。

未だ真剣な様子で地図を確認しているイセリアはアレンの動揺に気づいておらず、アレンは早まってしまった鼓動を落ち着けるようにゆっくりと息を吐いた。

(はぁ、こういうところが無防備なんだよなぁ。将来悪い男に捕まる前に何とかしねえと)

まるで娘を心配する父親のようなことをアレンが考えていると、満足のいくまで確認を終えたイセリアがアレンへと視線を向けた。その視線に迷いのようなものを感じ、アレンが苦笑する。

イセリアの瞳が、信じてみたい、と言っているかのように思えたからだ。

「個人的にはある程度は信用できるだろうとは思うぞ。あえて重要な情報を伝えていなかったりはするかもしれんが、少なくとも聞いた情報は確かだろうな」

「それはアレンさんが警戒していたからですか?」

「それもあるかもしれねえが、イセリアのおかげってのも大きいな」

「私ですか?」

きょとんとした表情で首を傾げるイセリアに、アレンはうなずいて返すと、そのまま説明を続けた。

「イセリアは金級冒険者だ。つまりこのドゥラレではトップの冒険者で、しかも人気も高い。そんな奴に嘘を教えたなんてことになれば、どうなるかは明白だろ。まあ殺すつもりっていうんなら別だが、それはリスクが高すぎる」

殺す、と言った瞬間にビクリと体を震わせたイセリアに、「例えばの話だ」とフォローして安心させるようにアレンが冗談っぽく肩をすくめる。そのおかげか幾分表情の和らいだイセリアだったが、その表情には硬さが残っていた。

失敗したかな、と内心後悔しつつアレンが言葉を続ける。

「と言ってもこれはあくまで推測だ。だから情報を頭の隅に入れつつ、初めて探索するのと同じように進める。とりあえず攻略開始まで時間があることだし、最初にするのは……」

「観察ですね」

「そうだ。じゃあ、いつもどおり始めるか」

そうして二人は二十四階層までの拠点を攻略してきた時と同じように、遠くからの観察を開始したのだった。

観察と聞き取って書いた地図とを照らし合わせたりと打ち合わせを行うことしばらく、イグノールの指定した攻略開始時間に近づいたためアレンとイセリアは城下町を守る防壁に向かって歩いていた。

近くで見るその防壁はなかなかに立派なものであり、大きさだけで言えばライラックの防壁と同じ程度の高さを誇っていた。

城下町の周辺には何もないためアレンとイセリアは丸見えであるため既に相手には発見されており、武器防具を装備したゴブリンやオーガなどが防壁の上で慌しく動いている姿が見て取れた。

「やっぱ多いな」

「外部から倒しても補充されて減らないという話ですよね」

「らしいな。まずはその検証から始めるか」

地面に落ちていた拳大の石を拾い上げ、アレンが思いっきりそれを投擲する。狙い違わずオーガの顔面にそれは当たり、吹き飛ばされたオーガは防壁から落ちていった。周囲にいたモンスターたちが叫び声を上げ、中には弓矢を射てくる者もいたが十分な距離をとっている二人には届くはずもなかった。

しばらくして防壁の上に一体のオーガが姿を現す。どこに傷を負っているわけでもなく、アレンたちの方を睨みつけるその姿に先ほど落としたオーガが戻ってきた訳ではないことを確認し、二人は顔を見合わせた。

「じゃあ数の把握は打ち合わせどおり、それぞれ50単位で」

「わかりました。ではいきます。クイックバースト!」

イセリアの放った魔法が防壁の上のモンスターに向けて飛んでいく。レベルも上がったおかげもあり、そのほんのりと赤い空気の玉の速度はそれなりに早くはある。しかし距離があるためモンスターたちが避けるには十分な余裕があった。

モンスターたちが退き、ぽっかりと空間の空いた場所目掛けて飛んでいったその赤い空気の玉は防壁の隅にかすると、パンッと音を立ててはじけ飛んだ。そしてそこから溢れた風の刃が安全な場所まで退避したと勘違いしていたモンスターたちを襲う。

「とりあえず3、ですか。装備も良くなっているかもしれません」

ぽつりとそう呟いて眉根を寄せるイセリアの姿にアレンが苦笑いを浮かべる。これだけ遠くから防壁に魔法をかすらせるなどという芸当は普通の冒険者などに出来る技ではない。

もちろんステータスの恩恵もあるため、アレンも練習をすれば出来るようになる可能性は高い。しかしレベルアップをしているとは言え、素の状態で事も無げにそれを成してしまうイセリアの姿は正に『魔女』の名に相応しいのではないかと、そんなことを考えてしまったのだ。

アレンが動きを止めているうちにもイセリアは次々と魔法を放っていき、モンスターたちを撃退していく。

アレンは一度小さく息を吐くと、地面へと下ろしたリュック型の自分のマジックバッグへと手を突っ込んで石を取り出すと、肩をぐるぐると回してほぐしてから石を投げ始めた。

二人が攻撃を開始して約半日、時に休憩を入れたり、攻撃方法を変更したりしながら防壁の上に現れるモンスターたちを倒し続けていた。だが……

「本当に減らねえな」

「倒してから現れる速度は少し遅くなっている気がします。そろそろ終わりということではないでしょうか?」

「だといいがな。っと1498!」

多少の疲れを見せつつもまだまだ余裕ありげに笑顔を見せるイセリアに対し、アレンが石を投げながら苦笑いを浮かべる。

イセリアは地面に座って休憩中であるため、アレンが数え上げたのはこれまで二人が倒したと思われるモンスターの合計数だ。異常な数のモンスターを倒しているため、本来であればかなりの報酬を期待できるところなのだが、遠方から攻撃しているため今のところ二人には全く実入りはない。

それについては特にアレンもイセリアも残念には思っていなかったが。

「まっ、イセリアの予想どおりだと期待してもう少し頑張るとしますかね。1499っと。おっ?」

アレンの投げた石が防壁の上にいたホブゴブリンの顔面に突き刺さる。そして吹き飛ばされたホブゴブリンが、ちょうど後ろに現れたオーガを巻き込み2体は仲良く下へと姿を消した。

初めての出来事に少し戸惑い、アレンがぽりぽりと頭をかく。

「これは2体でカウントすべきか?」

「どうでしょう? 倒してはいないと……アレンさん、地面が揺れています!」

苦笑いを浮かべて話していたイセリアが飛び跳ねるようにして立ち上がり警戒の声を上げる。その姿に気を張ったアレンはすぐにそれが何を意味しているのかに気づいた。

「左右! モンスターの大群。ライダー系だ。近寄らせるな!」

左右から狼型のモンスターに騎乗したゴブリンやオーガなどが土煙を上げながら駆けてくる姿を視認し、アレンが即座にイセリアへと指示を出す。

通称ライダー系と呼ばれるモンスターとアレンは今まで戦ったことがなかったが、近接戦闘になった時の厄介さは十分すぎるほどに伝え聞いていた。油断をすれば万が一が起こる可能性もある、そう考えるほどに。

アレンの真剣な表情と言葉に、イセリアも表情をひきしめる。

「はい! あっ、アレンさん。前方の門が開いていきます」

「げっ、まさか!」

その指摘にアレンが門に視線を向ける。

重さを感じさせるほどにゆっくりと開いていった扉から現れたのは、アレンが予想したとおりのライダー系のモンスターの群れだった。