軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第28話 協力者?

階段を降りてすぐの場所は周囲に比べて少し高台となっており、かなり遠くまで見通すことができた。しかしその必要が全くないほどの光景が二人の目の前には広がっていた。

「城、っていうか王都って感じだな。俺は話に聞いたことしかねえけど」

「そうですね。しっかりとした防壁の内部に城下町、さらにその先に城壁と城がありますし、造りとしては王都とあまり変わりがありません。少々規模が小さいのと、貴族街にあたる部分がないところが違いますが」

「へー、そうなのか」

これまでの24階層までとは規模が違う城としか言いようがないほど立派で堅牢そうな石造りの建物を中心とし、そこからしっかりと区画整理された町並みが円状に広がっていた。

その城下町を守る防壁は24階層で二人が攻略した拠点と大して変わりはないが、城を守る防壁は遠目から見ても厚く、その周辺の歩哨の数などからしてもその警備の厳重さが見て取れた。

他の冒険者から話を聞き、頭の中で想像していた王都とそっくりな光景にアレンが思わず感想を漏らすと、イセリアが静かにそれに同意した。

その言葉を聞き、内心、やっぱりイセリアは王都のことを知っているんだな、と思いつつ、懐かしむ様子もなく、逆にどこか隠し切れない負の感情さえ感じられるような平坦なその声にアレンは即座に話題を打ち切ることに決める。

「で、金級冒険者殿。どう攻略する?」

「……」

どこかおどけた様子でそんな問いかけをしてきたアレンに視線を向け、イセリアが眉根を寄せながら再び城へと視線を戻して考え始める。

しばらく視線を隅々にめぐらせていたイセリアだったが、小さく息を吐くとアレンの方へと向き直り、首を横に振った。

「最初から本格的に攻略を目指すのは無謀だと思います。私たちは二人ですし」

「ほうほう」

「数日かけて城下町を攻略しつつ、罠の位置を含めた地図を作成。モンスターが再出現する期間の調査などを行うのが現状ではベストではないでしょうか?」

どうでしょうか? と小首を傾げ問いかけてきたイセリアに、アレンが笑いながら首を縦に振る。実際、アレンが頭の中で想定していた方法と今のイセリアの提案はほぼ同じだった。

「今回の目的は地図の作成だしな」

「はい。問答無用で攻略にかかるのであれば……」

言葉を続けようとしたイセリアの口をアレンがさっと手でふさぐ。驚き目を見開くイセリアに視線を横へと動かして合図してから、アレンはゆっくりと背後へと振り返った。

「人の話を盗み聞きするとはいい趣味だな?」

アレンの言葉に、その視線の先に生えた木の裏から若いエルフの男が姿を現す。その表情にはどこか余裕が感じられ、その瞳はどこか興味深げにアレンに向けられていた。

「いや、そんな趣味は全くないさ。たまたま休憩していた場所の近くで君たちが話し始めた。それだけのことだよ」

「へー、お前の休憩は歩きながらするのか。珍しい方法だな」

全てわかってるんだよ、とでも宣言するようなアレンの言葉と警戒を引き上げた雰囲気を察し、エルフの男が両手を上にあげて降参を示す。

普通の者がすれば、どこか滑稽で情けないポーズであるのにもかかわらず、不思議とそれが決まっているように見えてしまうことに内心苦笑しながら、アレンは油断することなくその男を見つめ続けた。

「ふむ。私もヴェルダナムカで鍛えた身。それなりに音を消して動くことには自信を持っていたんだが……」

「悪いな。俺、意外と耳がいいんだ」

「くくっ、耳がいいか。それは仕方がないな。非礼を詫びよう」

アレンの答えが面白かったのか、エルフの男は相好を崩し、その頭を下げた。その姿にほんのわずかに警戒を緩め、アレンは体をずらしてイセリアの姿をその男にさらした。

ただその視線は微塵も男からは外れておらず、何かあればすぐに対処できる体勢であるのは誰の目にも明らかだった。

そんなアレンの姿を満足そうに眺め、その男が胸元からチェーンのついた入れ物とその内部に収納されたギルドカードをアレンたちへと示す。

「鉄級冒険者、イグノールだ。この25階層を攻略中のパーティの一員だ」

「あんたのことは知ってるよ。酒場で何度か見かけたし、ドゥラレの冒険者の中では有名人だからな」

「最近は君たちの方が有名だけれどね。鉄級冒険者『地図屋』のアレン、と金級冒険者『魔女』のイセリアって」

笑顔を浮かべながらそう返してきたイグノールに、アレンが苦々しい表情を示す。その反応にイグノールは楽しげに笑みを深めた。

実際アレン自身、自分に『地図屋』という二つ名が付きはじめているということは把握していた。

二つ名が付くということは冒険者にとって栄誉なことだ。人々の噂に上がるほどの実力、そして功績を兼ね備えなければ付くことなど滅多にないからだ。

最近呼ばれ始めたイセリアの『魔女』という二つ名などがその典型だ。あらゆる属性の魔法を高度な水準で使いこなすその戦い様、そして未踏のダンジョンを破竹の勢いで攻略していく姿からその二つ名は付けられたのだ。

歴代、偉大な女性の魔法使いの二つ名としてよく使われていた『魔女』にふさわしいと。

だが、アレンの『地図屋』はちょっと違う。確かにアレンが作製した地図がギルドにもたらした貢献度は非常に高いと言っても良いものだ。実際、それを買われてアレンは現在25階層の地図を作成しようとしているのだから。

しかし『地図屋』という言葉に冒険者らしい勇ましさなどは全く感じられない。裏を返せば、戦闘では役に立っておらず、イセリアに頼りきりだということを揶揄していると捉えることもできた。

そのためアレンはこの二つ名があまり好きではなかった。実力を隠しているのだから仕方がないと納得してはいたが。

「で、お前はなんでこっそり近づこうとしてきたんだ?」

少し不機嫌そうな語気でアレンが問いかける。しかしそれに全く脅える様子もなく、それどころか警戒すらしていないことを示すようにイグノールは二人から視線を外し、城に向けた。

「私たちのパーティがここで長い間足止めをくっていることは知っているだろう? 現況を打開するためにも協力してくれる仲間が欲しくてね」

「こっそり近づいたのは実力を試すためってか? ずいぶんと上から目線だな」

「そういう意図がなかったという訳ではないけれどね」

アレンの指摘をイグノールは肩をすくめるだけで流す。そんな姿を眺めながら、アレンの頭の中ではどうしたら一番自分たちにとって良い選択になるのか、それを考え続けていた。

その判断材料を増やすために、アレンは質問を続ける。

「断ったら?」

「それは君たちの自由だ。仲間にならなかったとしても、私たちの攻略の役には立つだろうし」

「それは……あぁ、そういうことですか。どちらにせよ敵の戦力が分断することに変わりはないと」

「理解が早くて助かるよ。で、どうする。協力するのであればある程度の情報を君たちに渡そう。その対価として攻略するタイミングなどはこちらである程度指定させてもらうけれど」

どうします? と無言の内に問いかけてくるイセリアの視線を受け、アレンはちらっとそちらへと視線をやり、うなずいて返した。

「そうだな。まず試しに一度協力しよう。それ以降協力するかどうかはその都度考えさせてくれ」

「慎重だね」

「信頼関係がないからな。それに慎重じゃない冒険者なんてすぐに死ぬぜ」

「それは確かに。じゃあ情報共有しようか。私たちのパーティが調べ上げた貴重な情報を」

不敵な笑みを浮かべ、腰に下げていた袋からイグノールが紙を取り出す。そしてそこに書かれた地図を指差しながらイグノールはアレンとイセリアへとこれまでの攻略の成果を話し始めたのだった。