軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第27話 指名依頼開始

カミアノールとの会談から二日後、十分に休養をとったアレンとイセリアは依頼された25階層までの詳細な地図を作成するために再びダンジョンへと向かおうとしていたのだが……

「じー」

「いや、わざとらしく言葉に出すんじゃねえよ。誤解だって散々説明したろ」

ギルドにてダンジョンへと向かう手続きを終えたアレンに、わざわざ朝早くからやってきて待っていたレベッカが疑うような視線を向ける。それに対して、面倒くさそうに頭をかきながらアレンは言葉を返した。

しかしその言葉にもレベッカは全く表情を変えることなく、隣に立っていたマチルダへと顔を向けるとちょうどアレンに聞こえる程度の声でひそひそと話し始める。

「どう思います、マチ姉さん? 若い女とデートしていたと噂の男がこのように弁解していますが」

「ふふっ、信じているから大丈夫よ。それよりレベッカちゃん。慌てるアレンを見るのが楽しいのはわかるけれど、あんまりからかうと嫌われちゃうわよ」

「えっ、レン兄に限ってそんなことは!」

マチルダの忠告に、バッとアレンの方を振り返り、焦った様子で視線をさまよわせるレベッカの姿に少しだけほっこりとしながら、アレンはそちらへと近づきぽんぽんとレベッカの頭を軽く叩いた。

アレンの表情はとても柔らかなものであり、その様子にレベッカが安堵の息をもらす。

「まっ、その程度で俺がレベッカを嫌いになることはねえから安心しろ」

「レン兄ぃ」

少し瞳を潤ませながら両手を広げて抱きつこうとしたレベッカだったが、がしっ、と頭をつかまれたせいで身動きが出来ず、不思議そうに視線を再び上げた。

その瞳に写ったのは、 良い(・・) 笑顔を浮かべるアレンの顔だった。

「レベッカ。今度帰ったらピーナス尽くしの料理を振舞ってやるからな。お前の健康面を心配する俺の愛情だ。存分に味わってくれよ」

「いやー。マチ姉さんがいるのに、そんなに私に愛情を注いでくれなくても大丈夫だよ。うん、本当!」

「いや、これは決定事項だ。せいぜい、いつ俺が帰ってくるのか楽しみにしているがいい」

「レン兄の悪魔ー!」

レベッカの叫び声がギルド内に響き、何事かと周囲にいた冒険者やギルド職員たちの視線が二人へと集中する。

それを素早く察知したアレンはぺいっとレベッカを放り投げ、投げられたレベッカも自然に着地すると何事もなかったかのようにとりすました顔に戻った。そんな二人の様子を間近で見ていたマチルダが思わず吹き出して笑いながら告げる。

「いまさら取り繕っても無理があるわよ。アレン、そろそろ行かないと外にいるイセリアさんが待ちくたびれちゃうわよ」

「あっ、やべ。んじゃ、行って来るわ。なるべく早く戻る」

「うん、待ってる」

そう言ってはにかんだ笑みを浮かべるマチルダの姿に、別れがたい気持ちがアレンの胸のうちに広がる。しかしそうすることをマチルダは望まないだろうこともアレンには十分にわかっていた。

名残惜しく思いつつも手を上げていつも通りに去ろうとし、そしてマチルダの横でいつもどおりの笑顔を浮かべて自分を見送るレベッカの姿に動きを止める。

一見するとレベッカの様子におかしなところはない。しかしなぜかアレンには、レベッカが寂しがっているように見えてしまった。

確信も根拠も全くない。だがアレンは長年一緒に過ごしてきた自分の経験と勘を信じることにした。

アレンは上げていた手をゆっくりと下げると、レベッカの頭へと置き優しくなでる。

「俺のいない間、マチルダを守ってやってくれ。レベッカ、頼りにしてるぞ」

「……うんっ!」

はじけるような笑顔でそう答えたレベッカに、アレンはニカッと笑顔を返すとギルドの外で待つイセリアの元へと歩き始めた。「その代わりにピーナス尽くしはやめてよねー」という切実さを感じさせる声に、まあ考えてやってもいいかな、などと思いながら。

ギルドの外で新人の女性冒険者たちに囲まれて質問攻めにあっていたイセリアと合流したアレンは、楽しい時間を邪魔された彼女たちの視線に若干嫌な汗をかきつつイセリアと共にダンジョンへと向かった。

既に何度も探索し、自身で地図を作成したこともあり、探索開始の翌日には何の問題もなく二人は二十三階層へと到達していた。

実際アレンたちは既に二十三階層までの地図の作成を終えている。実質的に調査を依頼されたのは二十四、そして二十五の二階層のみだった。

「さて、お仕事に入りますかね」

「そうですね。これでまたマジックバッグが出てきたらどうしましょう?」

「うわっ、それはマジで困るな。まっ、その時はその時だ。最悪カミアノールに丸投げしよう。俺たちの考えることじゃねえし」

二十四階層をさっそく探索しようとしたところで、ぽつりと呟かれたイセリアの言葉にアレンは両手をあげて思考を放棄したかのような仕草で返す。その姿に、ふふっと笑みを漏らしながらイセリアも首を縦に振って同意を示した。

マジックバッグは冒険者にとって喉から手が出るほど欲しいものだ。昔アレンも、ずっと欲しいと思っていたし、実際に手に入れた時は思わず踊りだしてしまいそうなほど嬉しかったのだが……

「まさかマジックバッグが出なけりゃいい、なんて思う日がくるなんて思いもしなかったな」

そんなことをぽつりと呟き、そして息を大きく吐いて気分を入れ替えると表情を真剣なものへと変化させ歩き始めた。周囲を警戒し、何の見落としもないように、何かあってもすぐに対応できるように程よい緊張感を保ちながら。

そうして始まった二十四階層の探索だったが、それは二十三階層までの探索と大きく変化してはいなかった。

攻略すべき集落が、石造りの防壁で囲まれた完全な砦にまで変化を遂げていたが、中にいるモンスターは相変わらず鬼人系のモンスターばかりであり、攻略方法も今までと同じようにしていれば多少時間はかかるが普通に攻略できてしまう程度だった。

つまり、アレンが本気で攻略しようと思えば、一瞬で終わってしまうくらいでしかなかった。

二十四階層を探索し始めて既に三日。二人は既に大まかな地図の作成を終えていた。流石に隅々までということはないが、十ある砦の場所と、それらと階段を繋ぐ最短ルートの確認は済んでいる。

この地図を提出すれば少なくとも文句は言われないだろうという出来だった。

「さてと、最後の砦の攻略も終わったことだし今日はこれくらいにしておくか?」

罠などに気をつけながら敵のいない砦内を歩き回り、地図の作成を終えたアレンが、周囲の警戒を続けるイセリアへと声をかける。

その言葉に少し考えるような仕草をしたイセリアだったが、自分の中で考えがまとまったのかアレンに向き直ると首を横に振った。

「まだ体力も気力も十分ですし、二十五階層を偵察してから休みませんか? 明日いきなり行くよりも準備する時間がとれると思うのですが」

「了解。じゃあ、さっさと行きますか」

「はい」

イセリアの提案に、アレンは同意しこの砦にあった下へと続く階段目指して歩き始める。少しずつ冒険者らしい思考になっているイセリアの成長に、こっそりと笑みを浮かべながら。

そして階段を降りきり、二十五階層へとアレンとイセリアは降り立ったのだが……

「うわっ、なんだアレ?」

アレンがそんな言葉をもらしてしまうほどの光景に二人は目を奪われ、思わず立ち尽くしてしまうのだった。