軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第19話 新兵器

ニックが指揮をとる建築現場へと向かい案の定少しだけ手伝いをさせられたアレンだったが、無事に目的の材料を手に入れてマチルダと共に自宅へと帰るとさっそく作業に入った。

ニックからもらった木材をアレンが切り出していく音を聞き、苦笑いをしながらマチルダが夕食を用意していく。

ダンジョンの攻略に役に立つなにかをアレンは思いついたのだろうとマチルダは予想していた。冒険者ではなく、その場に行ったこともないマチルダにはどんなものかまではわからなかったが。

しかし長年ギルド職員として働いてきた経験と知識からわかることもあった。それはアレンとイセリアが提出した16階層の地図の出来が他の冒険者のものよりはるかに優れたものだということだ。

ギルドが提供するダンジョンの地図は一人の冒険者によって作製されることはまずない。

例外はアレンが作製したライラックにあるスライムダンジョンのような、脅威度も重要性も低すぎる場合くらいで、通常はいくつもの冒険者たちが持ち帰った地図を組み合わせて作り上げられているのだ。

提出する冒険者によって一部の範囲しか記載がなかったり、罠の見落としがあったり、そもそも絵心がないといった理由などにより提出される地図の精度は様々となっている。

そんなばらばらな情報を冒険者ギルドは重ね合わせ、これまでの脈々と受け継がれてきた経験から正しいと思われる地図を作り上げ、それを何組かの冒険者に依頼として確認させて初めて地図が公開されることになる。

その点で言えば、アレンとイセリアが提出したドゥラレのダンジョンの16階層の地図もそういったものの中の1つに過ぎない。

しかしその全域に及ぶ調査範囲の広さ、報告された罠、モンスターの数の豊富さは他の冒険者が報告したそれとは比べようのないほどだったのだ。

それらの情報は今まで他の冒険者たちが断片的にしか報告してこなかったものともほぼ重なっており、その地図の正確性に専門知識を持ったギルド職員が感心するほどだった。

「密林地形でここまで詳細な調査ができるとはさすが金級冒険者って褒めていたけれど、本当はアレンがやったのよね」

イセリアのことをある程度知っており、さらにアレンのステータスのことも把握しているマチルダは、詳細を聞いてもいないのに真実へと達していた。

作製された地図に書かれた字がアレンのものであり、今も探索に使うのであろう道具を真剣に作っているということもそれを示していたが。

「わかってはいるんだけど、やっぱり実感がわかないわ」

トントンと華麗な包丁捌きをみせながら、マチルダがそんなことを言って苦笑を浮かべる。

実際にアレンがネラであることは本人に確認しているし、さらには変装をしているところを見せてもらっているため、その事実に関してマチルダが疑っているというようなことはない。

それなのに実感がわかないのは、アレンの様子があまりにも変わらないからだった。力を手に入れ、そして金も手に入れたのにもかかわらず、アレンの普段の姿は以前からマチルダが見知っているそれだった。

もちろん多少の変化はある。アレンは自分のためにお金を使うということを以前は極端に躊躇していたがそれが緩くなったり、自由になる時間を楽しむというようなことが増えていた。

「そのおかげで私も……」

包丁を止め、そしてその指にはまった指輪を見つめ、マチルダが穏やかに微笑む。裏庭からはのこぎりをひく規則的な音が聞こえていた。

「さて、アレンも頑張っているみたいだし私も頑張らないと」

そう呟くとマチルダは再び料理を始める。

今日のデートの途中、アレンがダンジョンへの補給物資をどうするかで迷い、値切り交渉までしたためけっこうな時間を使ったことを思い出し、ほんの少しだけアレンの皿の肉を減らしたりしながら。

その翌々日、アレンとイセリアは朝早くからダンジョンへと向かい、歩を進めていた。

既に1度通った道であり、アレンの頭の中では地図と光景が完全に一致しているため、迷うことも躊躇することもなく順調に進んだ結果、初回よりもかなり早く2人は15階層へとたどり着いていた。

まだまだ2人とも体力に余裕があったため、そのまま自分たちが作製した地図を頼りに16階層を進み、そして階段を降りて17階層へと入る。そこは16階層と変わらぬ木や草の茂った密林だった。

「よし。じゃあさっそく新兵器のお披露目といくか」

「アレンさんが作ったと先ほど話していらっしゃったものですね」

「おう。まっ、うまくいくかは試してみてのお楽しみだけどな」

マジックバッグに手を入れ、ニヤリと笑いながらアレンが木製の部品を取り出していく。長い棒や円柱状に加工された丸太からハリネズミのように20センチほどの短い棒が突き出しているものなど、その様々な種類の木材をアレンが組み立てていくのをイセリアが警戒しつつも興味深そうに眺める。

そして1分もかからぬうちに出来上がったのは、H型の木枠の先に2メートルほどの円柱が備え付けられたものだった。

アレンは軽くゆすってその強度を確かめ、そして想定どおりに出来上がっていることに満足げにうなずく。一方で、イセリアは困惑気味にそれを眺めていた。

「あの、アレンさん。それって両手で棒部分を持って進んで、丸太部分につけられた棒が罠を踏んで発動させる道具という理解でよいのですよね?」

「おう。さすがにわかるか。さしずめ罠発見器ってところだな」

「はい。でもうまくいくのでしょうか?」

「一応この前の探索の状況を考慮して作ってあるが、やってみねえとわかんねえな」

立ち上がり肩をすくめるアレンだったが、その表情はどこか余裕すら感じられるものだった。その様子にイセリアはそれ以上疑問を呈すことなくアレンの後方へと陣取り、なにも言われることなく警戒を始める。

アレンは軽く笑みを浮かべ、そして視線を目の前に広がる密林へと移した。

「じゃあ、前回と同じように北から行くか。ウインドカッター、そしてディグ」

人やモンスターの気配がないことを確認し、アレンが魔法を放っていく。ウインドカッターで雑木や草などを切り倒して道を作るのは前回と同様だったが、それに加えてディグで穴を掘って残った切り株を沈めつつ、アレンがお手製の罠発見器を転がしていく。

丸太を加工した円柱部分が回転し、そこから飛び出した短い棒が次々と地面を押していく。

「思ったより抵抗が強いな。バランスもとりにくいし」

決して平らではない地面を進むのに加え、罠の被害にあわないように円柱部分からそれなりの距離をとって操作しているアレンの腕には、普通に武器を振るうよりもはるかに大きい負荷がかかっていた。

しかしそれはアレンのステータスをもってすれば些細なことであり、しばらく歩いてこつを掴んでからはさほど苦労する様子も見せずに進むことができるようになっていた。

そして、2人の目の前で円柱部分を狙うように何かの粉が地面から舞い上がる。

「っと、ウインド、ウォーター」

空中を漂い始めた粉を目掛けてアレンが素早く魔法を放ち、風で吹き飛ばしながら水に含ませてそれを落としていく。

草木に残った独特の黄色の液体を眺め、おそらく痺れ粉の罠だな、と軽く観察しながらアレンは再び歩き始めた。

「うまくいきそうですね」

「そうだな。ただ爆発系の罠がないといいんだがな。一応予備は何個か作ってあるが、意外に作るのに時間がかかるんだよ」

背後からイセリアがかけてきた賞賛の色を含んだその言葉に、振り返らずにアレンが少し首を傾げて応える。

背後からは当然の結果だと言わんばかりの様子だったが、自分自身、うまくいってほっとしているアレンの表情はかなり緩んでいた。

その後もお手製の罠発見器は順調に罠を発見し続け、その精度は棒で叩いていた前回よりも高く、なによりその速度は段違いだ。そのおかげもあり、アレンとイセリアはほどなく18階層へと続く階段を見つけてしまっていた。

気をよくした2人はそのまま下へ、ということはなく、地図にその場所を記すと休憩を取るための陣地を造り始めた。周辺を整地し、魔法で切り倒した木をぐるりと囲うように埋めて簡易な防壁をつくると、アレンは夕食の準備を始める。

まさか初日で18階層へと続く階段まで発見できるとは予想していなかったため上機嫌で料理をするアレンの姿に、警戒を続けるイセリアが微笑み、そして声をかける。

「良かったですね。うまくいって」

「だな。これで探索時間が大幅に短縮できそうだ。地図提供の貢献度を考えると明日はこの階層の他の場所の探索をしたほうがいいかもしれねえな。それでも予定よりは早く帰れそうだし」

早く帰れるという言葉の時に表情を緩めるアレンの姿を視界の端に捉えたイセリアが言葉を続ける。

「アレンさんたちは本当に仲が良いですよね」

「まあ、それなりにな。とは言え喧嘩しねえわけじゃねえぞ。実際、一昨日もしたし」

「えっ、そうなんですか?」

その答えがあまりに意外だったのか一瞬顔をぐりんとアレンの方へと向け、慌てた様子で周囲の警戒に戻るイセリアの姿にアレンが小さくだが声を出して笑う。

失態に顔を赤く染めるイセリアをフォローするようにアレンは言葉を続けた。

「好き同士だからといって価値観まで全て一緒ってわけじゃねえからな。喧嘩とかしながらも、そこになんとか折り合いをつけていくのが夫婦とか恋人って関係なんだと俺は思うぞ」

「大概、アレンさんが折れていそうな気がしますけれど」

「大当たり」

本人は全く意図していないもののずばりと切り込むようなイセリアの言葉に、アレンが苦笑いを浮かべながらおどけて答える。

「夫婦ってなかなかに深みがありそうですね。そんな風だなんて全くわかりませんでした」

「まっ、俺も新米だけどな。それにイセリアが気づかなかったのは仕方ねえと思うぞ。だってイセリアが俺とマチルダと会うのって、ダンジョンに行く前とかの俺とマチルダが離れる時がほとんどだろ」

「はい」

「俺たち、離れる時はどんなに喧嘩してたとしても、気持ちを切り替えて笑顔で見送るって決めてるからな」

「決めているのですか?」

その意図がわからず、首を傾げながらオウム返ししてきたイセリアに、てきぱきと料理を続けながらアレンが答える。

「ああ。もしかしたらそれが最後の顔になっちまうかもしれないからな。もちろん死ぬつもりはねえが、なにがあるのかわかんねえのが冒険者だって俺もマチルダも十分すぎるほど知ってる。万が一があった時に、思い出す最後の顔くらいは笑顔にしたいだろ」

「そう……ですね」

当然のことで、特別なことなどなにもないといった様子で、料理をする手を止めることすらせずアレンは言い切った。

そしてしばらくイセリアの反応を待ったが、その言葉に続きはなかった。なんかやっちまったか、と少し焦ったアレンだったが、チラリと見た感じではイセリアは警戒に集中しているだけであり、普段とあまり変わっている様子はない。

少し思うところはありつつも、自分の役割を果たすイセリアに応えるために、アレンも料理の腕を振るっていくのだった。