軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第18話 攻略の合間の休息

翌日、いつもどおり朝早くに目を覚ましたアレンは、のんびりと過ごしていた。

ある程度長期ダンジョンに入った場合は、休息をとるのが鉄則だ。自分では疲れていないと思ってもいつの間にか疲労は蓄積していくし、なによりダンジョン探索で消耗した食料などの補充、装備のメンテナンスなどを行う必要があるからだ。

ただアレンとイセリアの場合、昨日までの探索において一度も攻撃を受けることなく、しかも対処もほぼ魔法で行っていたためそのほとんどは不要であったが。

リビングの椅子に座りアレンがお茶を飲んでいると、階段を降りるとんとんという足音が聞こえてきた。それが合図だったかのようにアレンは立ち上がり、飲んでいたお茶のカップを流しへと持っていき軽くゆすいで水を切った。

「お待たせ、アレン。じゃ、行きましょうか?」

「おう」

いつもの冒険者ギルドの制服とは違い、タックデザインのブラウンのワンピースを着たマチルダが声をかける。その首にかかった贈ったネックレスが揺れるのを見ながらアレンが微笑んだ。

「やっぱり綺麗だな」

「ふふっ、前にレベッカちゃんに言われたこと気にしてるの? 別にアレンはアレンらしくしてくれればいいのよ」

図星を指され、頭をかくアレンの腕を近づいてきたマチルダがさらう。そして楽しげな笑みを浮かべながら家の外へと向かって歩き始めた。

その足取りがいつもより少しだけ軽いことにアレンは気づき、忠告してくれたレベッカへ感謝を贈り、この習慣だけはこれからも続けていこうと密かに決意するのだった。

現在、急速に村から町へと変化を続けているドゥラレの町は少しの間いなかっただけでも大きく様子が変わっていく。実際、アレンがダンジョン探索に向かう前までは建築中だった商店が既に完成して店舗での営業を開始していたり、今までなにもなかった場所に建築予定の囲いが作られていたりした。

それは発展を象徴するものであり、買い物で利用するアレンやマチルダにとっては喜ばしいことだったが……

「おっと」

ふらふらっと通りを歩いていた男がマチルダへとぶつかりそうになるのを、さりげなくアレンが身を割り込ませて防ぐ。

内心で危ねえな、と思いつつも、明らかに以前から住んでいた地元民と思われる農作業着姿の男と揉める気のないアレンは、軽く謝りつつすれ違おうと歩を進め、そして向けられた鋭い眼光に思わず足を止めてしまった。

その男はすぐにふいっとアレンから視線を切り、またふらふらと歩き始めて去っていったが、しばらくの間アレンはその背中を眺めていた。

アレンに守られるようにして背後にいたマチルダが、同じく小さくなっていく男の背中へと視線を向けながらため息を吐く。

「変われない人っているのよ。その人にとって私たちは自分の世界を壊した加害者なの。ダンジョンが発見されてしまった以上、仕方のないことなのだけれど」

「そうだな」

少ししんみりした空気になってしまった2人だったが、すぐに気を取り直して散策を始め、ある一軒の店へと入っていった。主に雑貨を扱っているのにもかかわらず、なぜか冒険者たちの出入りの多いその店の名は……

「レエジア雑貨店へようこそ。何をお探し……アレンさんとマチルダさんでしたか。レベッカさんにご用事ですか?」

「帰ってそうそうに店員させられてるのか?」

「いえ。楽しいので働かせてくださいって私がお願いしましたから、レベッカさんを怒ったりしないでくださいね」

アレンとマチルダを出迎え、そんな風に言って笑う町娘風の服を着たイセリアに、アレンが微妙な顔をしたまま首を少し傾げる。確かにそれは本心なのだろうが、それさえもレベッカに利用されているんじゃないのかという疑問が頭に浮かんでいたからだ。

実際店内には、このレエジア雑貨店に置かれた商品とは似つかわしくない風体の男たちが何人かおり、彼らが話し合う自分たちへ気を向けていることにアレンは気づいていた。

「無理はしないようにね。 金級冒険者(・・・・・) のあなたにいうことじゃないと思うけど」

わざと冒険者ランクを強調するように話したマチルダの言葉に、店内の男の内数人がそそくさと店から出て行く。その姿をマチルダは冷めた目つきで眺め、そして視線をイセリアへと戻すとにこりと微笑んだ。

「営業妨害しちゃったかしら?」

「いえ、少し困っていたので。ありがとうございました、マチルダさん」

冗談めかすマチルダに、イセリアが素直に感謝を示す。そして顔を見合わせた2人はどちらからともなく笑みを浮かべた。

そんな2人のやりとりを、美人はなにやってても絵になるよなぁ、などと傍観なのか自慢なのかわからない感想を抱きつつ見守っていたアレンだったが、当初の目的を思い出しイセリアに声をかけた。

「職人が来たって話をマチルダから聞いたんで、いろいろ紙に書いて持ってきたんだ。現物があるからどうにかなるかもしれねえが、あったほうが作りやすいだろうと思ってな。後でレベッカに渡しておいてくれ」

そう言ってアレンは肩にかけていたマジックバッグから何枚かの紙をとりだしイセリアへと渡す。それはアレンが今まで作っていた魔法の補助道具の回路が描かれた紙だった。

本来であればそれは希少でお金でやりとりをするような情報だったが、魔法の補助道具作りをこれ以上したくないアレンにとっては、さっさと渡して終わりにしたい程度でしかなかった。

「わかりました。レベッカさんは呼ばなくてもいいんですか?」

「あいつ呼ぶとうるせえし。せっかくのデートを邪魔されたくないからな」

問いかけてきたイセリアにひらひらと手を振り、用事は終わったとばかりにアレンがマチルダを促しながら店を出て行く。

少し頬を赤く染めながらアレンと何事かを話しつつ出て行くマチルダの幸せそうな姿をイセリアは眺め、それが見えなくなってしばらくしてから小さく息を吐いたのだった。

町の散策を続け、新しくできていた食堂で昼食をとり、感想などをかわしながらアレンとマチルダはゆったりと過ごしていた。

まだまだ発展途中ということもあり、ドゥラレの町は半日もあれば主要な場所について回り切れてしまう。

そのため2人が歩いているのは昔ながらの面影を強く残す畑などが広がる区画だった。それでも建物が増えていたりと、以前にアレンが見た光景とは少しずつ変わっていたが、そのゆったりとした姿は以前と変わっていないようにアレンには思えた。

「こういうのもいいかもしれねえな」

「んっ? ああ、なんとなくわかるわ。特にライラックみたいな大都市にはない良さがある気がするのよね」

「住んだら住んだで、不便だったり苦労はあるんだろうけどな」

畑にはところどころに人の姿があった。生った野菜を採取していたり、雑草を抜いていたり、遠くの方ではこれから開墾するつもりなのか馬がすきを引きながら歩いている姿も見えた。

そこはどこかアレンたちが過ごしている時間とは流れが違うように見え、少しの憧れとなぜか懐かしさを感じさせる、そんな光景だった。

午前中にマチルダにぶつかりそうになった農夫も、こんな村の空気が好きで、それを破壊した俺たちに敵意を向けたのかもしれねえな。

そんな自分ではどうしようもないことを考えるアレンに、そっとマチルダが寄り添う。視線を合わせ、お互いに少し微笑むと2人は景色へと視線を戻した。

ゆったりとした時間に引き込まれるように、ただ2人はまだまだ整備されていない道を歩いていく。しばらくそんな時間を楽しんでいたアレンだったが、その光景を眺めているうちに、ふとある考えが浮かんでしまった。

それが急速にアレンを現実へと引き戻していく。

「悪い、マチルダ。ちょっとニックのところに向かってもいいか?」

「別にいいわよ。どうしたの?」

「いや、ちょっと試してみたいことがあってな。それを作る材料をもらおうと思って」

「仕事、手伝わされないといいわね」

「だな」

そう言って2人はお互いに苦笑すると、くるりと向きを変え、それまで見ていた光景に背を向けて町の中心部へと向かって歩き始めたのだった。