軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第14話 次の段階へ

使い捨ての魔道具という構想を話してから数日、試作と実験を経て作製されたそれを目玉にレベッカの店、レエジア雑貨店は開店した。

当初は多くの商品が生活雑貨や装飾品などであったため、客のほとんどが一般の住民だったのだが、ある女性冒険者が目玉商品として並んでいたその魔道具を試しに買ってみてそれに変化が起こった。店に多くの新人冒険者がやってくるようになったのだ。

その理由は……

「大変そうね、アレン」

「まあな。とは言えレベッカが知り合いのドワーフに手紙を出してくれたらしいし、そいつがやって来るまでのお小遣い稼ぎと思えばいいさ」

ものすごいスピードで魔道具用の回路をトレント製の板に刻んでいきながら、アレンが声をかけてきたマチルダに気楽に返す。既に同じものを100以上作ってきたアレンにとって、もはやそれは流れ作業のようなものだった。

床の上に敷かれた布の上に溜まった削りくずの山を眺めながらマチルダがうーん、と声を出しながらしばらく考え、そして小さくうなずいた。

「せっかく時間もあることだし燻製でも作ってみようかしら。アレン、なにか食べたいものある?」

「肉だな」

「うん、まあ予想はついてたわ。じゃあ後は適当に私が選んでおくわね。じゃあもらっていくわよ」

「おう。楽しみにしてる」

アレンのシンプルすぎる回答に苦笑しつつ、マチルダはトレントの削りくずを袋に詰めると燻製する食材の下ごしらえをするためにキッチンに立った。

そしてアレンが希望した肉を含めて下味をつけたりして食材の準備を終えると、それらと削りくずの入った袋をもって家の裏庭にある屋根つきのかまどへと向かう。

裏庭に設置されたかまどは、アレンがレンガを使用して作ったお手製のものであり軽い調理であればここでもすることが可能になっている。しかし現状として室内に料理に使うことのできる、火の出る魔道具が設置されているため気分転換や燻製などの煙が出るものを作るとき以外は使われていなかった。

そのかまどのそばに用意された簡単なテーブルに食材を置き、そのそばに仲良く並んだ2脚の椅子を眺めて少し微笑むと、マチルダは燻製するための準備を始めた。

削りくずのはいった袋を揉んでその大きさをある程度そろえると、それを竈の上に用意した金属製の燻製機の一番下の皿へと入れていく。そしてその上の金網に食材を載せ、肉などを吊るしたりして準備を整えると、薪と余った削りくずをかまどにくべた。

そしてマチルダは服のポケットから一枚の板を取り出し、そして……

「ファイア」

削りくずに向けてそう唱えたマチルダの狙い通り、ボッと現れた炎が削りくずへと引火し徐々にその火を大きくしていく。その炎を眺めながらマチルダが小さく笑った。

「私が魔法を使える日が来るなんて、人生って本当にわからないものよね」

炎に熱せられ徐々に燻製器から立ち上っていく煙を見上げ、今夜は星でも眺めながら食事をするのもいいかもしれない、そんなことを考えながらマチルダは火加減の調整を始めるのだった。

その夜、アレンとマチルダは満天の星空の下、裏庭で食事を楽しんでいた。テーブルに並んでいた燻製をはじめ、マチルダお手製の料理はほとんどが既に空になっており、少しだけ残ったワインの瓶が中央でトロフィーのように立っている。

仲良く横並びに座り、ゆったりとした時間を2人は共有していた。

「はぁー、うまかったわ。ありがとな、マチルダ」

「どういたしまして」

満足げにお腹をさすりながらお礼を言うアレンの姿に、くすくすと笑いながらマチルダが返す。食事の最中、何度も同じことを言われたのだが、それが嬉しいことには変わりがなかった。

「アレンもお疲れ様。結構な枚数を作ったみたいね」

「おう。レベッカがもっと欲しいってうるさかったからな。あれだけ作ればしばらくは大人しいだろ。商売繁盛はいいことだが、こっちは魔道具職人じゃなくて冒険者だっての」

憮然とした表情でそんなことを言うアレンに笑いかけながら、マチルダがアレンの目の前の空になったグラスにワインを注いでいく。そして完全に空になった瓶をことりとテーブルへと置いた。

「ギルドとしては大助かりだけどね。新人の子たちの受けられる依頼の幅がかなり広くなったし。そのおかげでアレンも切り株を抜かなくても良くなったでしょ」

「まあな」

「しかしすごいわよね。この魔道具」

回路が刻まれたトレント製の木の板、アレンが考え、作りだした魔道具を取り出し、マチルダが感心したような顔でそれを眺める。その褒め言葉に少し恥ずかしげにしながら、しかしそれ以上に誇らしげにアレンが笑みを浮かべる。

「魔道具って言っていいのかわかんねえけどな。それ単体では効果がないことを考えるとさしずめ魔法の補助道具ってところか?」

「あっ、それわかりやすくて良いわね。明日レベッカちゃんのところに納品する時にそう伝えてみたら?」

「今のところ新しい魔道具って売り出してるしな。あいつなりの戦略があるのかもしれんが、とりあえず話しておくわ」

了解、と軽く伝え、アレンは燻製されたナッツを一つまみする。普通に炒っただけのものよりも香ばしさも風味も段違いのそれに表情を柔らかくしながら、マチルダに注いでもらったワインを少し口に含んだ。

新人の冒険者たちがレベッカの商店であるレエジア雑貨店にたくさんやってくるようになったのは、アレンが考えたこの魔法の補助道具が原因だった。

基本的に魔道具というのはそれ単体のみで効果を発揮するように作られている。調理に使う火の魔道具であればボタンを押せば火が点くし、洗いものなどに使う水の魔道具であれば同様に水が出る。

しかしアレンが考えたそれは、単体では何の意味ももたないものだった。それにはファイアなどの基礎魔法の回路が刻まれているのだが、最後の最後の部分の直前で止まっているのだ。

もちろんそれはアレンが意図して行ったことである。なぜそうしたかといえば、そういったものを作れば発動句だけで魔法を使うことができるのではないかと考えたからだった。

魔法を覚えるというのは簡単なことではない。まずは正式な詠唱を暗記し、それを繰り返しながら使う魔法をイメージしていくのだが、初めて魔法を使おうとする者であれば実際に発動するには最低でも1か月以上かかるのが普通だった。まれに、天才と呼ばれるような人種は数時間でできてしまうということもあったが。

当のアレンはどうだったかというと、意外にもかなり早く1週間程度で魔法を使えるようになっていた。

しかしアレン自身はそれが自分の才能のおかげだとは欠片も思っていなかった。なぜならそれは、勇者の卵のパーティに所属していたエルフのリサナノーラに不用意な言葉を言ってしまったせいで、ぎりぎり当たらない程度に何度も 詠唱つき(・・・・) の魔法を放たれ、その後の地獄のような特訓を課せられた成果だったからだ。

冒険者としての経験の長いアレンは、魔法を習得しようとしている者の姿を当然見たことがある。自身の経験と比較すればぬるいという言葉では足らないほどのそれを見てしまえば、1週間で覚えられたのも当然だとアレンは考えていたのだ。

それはさておき、魔法を発動できるようになったら詠唱部分を省略し、「ファイア」のような発動句のみで魔法を使えるようにしていく段階になる。

モンスターという危険な相手に立ち向かう冒険者にとって長々と詠唱を行っていては、はっきり言って話にならない。もちろん詠唱することにより威力が上昇したり、消費する魔力が少なくてすむといった利点もあるのだが。

それらのことは冒険者であれば、というよりも魔法を使える者であれば当然のように行っていることだ。だから詠唱を省略できると言うことについて疑問を持つ者などいなかった。

レベッカが火付け用としてファイアの魔法代わりの魔法具のことを話している時、アレンはどういう回路になるのかを頭の中で考えていた。

そこで、ふとある考えが頭をよぎった。

なぜ、詠唱は省略できるのに発動句は省略できないんだろうと。

もしかしたら、詠唱部分だけで魔法の構築については既に終わっており、発動句はそれを外に出すものではないかと。

イセリアに借りた魔法大全にもそんなことは載っていなかったが、アレンにはなぜかそれが正しいような気がしていた。

そうであるならば発動句の前までの回路を魔法の補助道具として作ってしまえば、あとは発動句を唱えるだけで魔法を発動させることが出来る可能性があると考えアレンはそれを試作した。

そしてマチルダにお願いして試験を行い、魔法が使えないはずのマチルダはその補助道具を持つことによって魔法を発動させることに成功したのだ。

まだ検証が十分ではないためアレンの推測が正しいとは限らなかったし、その補助道具を使って魔法を発動できるようになってしまうと普通の魔法を覚えるのが遅くなってしまうかもしれないという危惧もあった。

しかしそれは今までアレンが新人の冒険者たちを見てきた限りは杞憂に終わりそうだった。なぜなら、むしろ早々に自分で魔法を習得してしまい、補助道具を使わない者が多く出てきていたからだ。

その理由はアレンにはわからなかったが、魔法の使えない冒険者がほとんどであった現状では好都合であり、特に悪影響もなさそうなことにアレンは安堵していた。

「しかし思ったより売れるもんだな。冒険者だからてっきり仲間内で使いまわすかと思ってたが」

「大人数でパーティを組んでいる子たちは共有しているところも多いわね。少人数だったり、ソロの子がドゥラレにはまだまだ多いから、将来を見据えて手の内を増やすために買っているのかも。魔法を自力で使えるようになってもお守りとして持っておくって子もいたわよ」

「値段が高ければ1つを大事に仲間内で使うが、ある程度安いから個人でも持ちやすいし、雑に扱う奴も出て再購入する可能性も出てくるってところか。あいつ、どこまで考えてるのかね?」

「さあ。商人様の考えることなんて私たちには理解しきれないわよ、きっと」

空を見上げながら言ったアレンのぼやきのような疑問に、マチルダがふふっと笑いながら同じように空を見上げる。

空一面に広がる星の海が見上げる2人を優しく照らしていた。

「マチルダ、明日からしばらくダンジョンだ。いちおうアイクとか他の奴らにも気をつけるようにお願いしておいたが、無理だけはするなよ」

「私は私の仕事をするだけよ」

「それが心配なんだよ。あー、くそっ。レベッカの言うことじゃなかったら無視してやるのに」

両手を突き上げながらアレンが不満を吐き出す。

本音を言えば、ダンジョンなど行きたくないし、そもそもアレンとしては鉄級以上になりたいという欲求もあまりないのだ。むしろ不安定な今のドゥラレの冒険者ギルドにマチルダを残しておくという不安の方がはるかに大事だった。

しかしわざわざレベッカが普通に考えれば無理そうなことをお願いしてきたのだ。家族の願いに弱いということを除いても、それを成さないという選択肢はアレンにはなかった。無視した場合、たいてい酷い結果になると経験上知っているからだ。

そんなアレンの気持ちを十分に知っているマチルダはニコリと笑みを浮かべ、そして天に向かって突き出された腕を掴むとそれを引き寄せ、そっと手を重ねた。2人の指にはまった指輪がキラリと星の光を反射する。

「本当に問題ないわよ。レベッカちゃんも、レン兄不在の間は私にどーんと任せちゃってください。って言っていたしね。私にはお守りもあるから」

そう言って嬉しそうな笑顔で自らの指にはまる指輪をマチルダが眺める。アレンも自然とそちらへと目をやり、そしてぐいっと腕をひっぱられて体勢を崩す。

驚き、顔を上げたアレンを、いたずらが成功した子どものように目を輝かせたマチルダが小首を傾げながら見つめる。

「それに、いざと言う時はかけつけてくれるんでしょ。私の英雄さん?」

「……ああ、任せとけ」

頭に浮かんだ余計な言葉を省き、ただそれだけを宣言してアレンはマチルダに口付けをする。それを当たり前のように受け入れながら、本当に幸せそうにマチルダは笑ったのだった。