作品タイトル不明
第13話 目玉商品開発
レベッカの商店が完成した翌朝、結局妹のお願いを断ることなど出来なかったアレンは、店の奥にある空の棚が並んだ倉庫の片隅でレベッカと顔を突き合わせていた。
イセリアはアレンが受けていた切り株を抜く依頼を受けているためここにはいない。アレンとしては助かっているのだが、若い綺麗な女性で、しかも金級の冒険者であるイセリアに冒険者ギルドの新人たちが傾倒していくのを、夕方のギルドの酒場でまざまざと感じ、なんとも言えない気分になったりしていた。
それはさておき……
「じゃあさらっと復習するぞ。そもそも魔導具ってのは俺たちが使っている魔法を分解してそれを組み上げて道具として使えるようにした物だ。逆に言えば、魔法とそれに対応する文様さえ覚えて回路を構成できれば素人でも新しい魔道具を作るのは可能だ」
「レン兄が作れる理由も、以前からレン兄が魔法を使えたから覚えやすかったって昨日言ってたよね」
「まあな。ただ、その文様を正確に刻まないとロスが発生するし、文様の組み合わせ次第では発動さえしないものになっちまうこともある。キュリオでもこの組み合わせを研究している奴が多かった印象があるな」
キュリオでフルナゼーノの研究室の面々に報酬として魔道具をもらう時、自分の研究内容などを交えつつ色々と聞いた話を思い出しアレンが苦笑する。
トラエノールの世話をしつつ、魔道具関連の本を読んでいたアレンにはその話はすんなりと入ってきたのだが、事前にそういった知識のないレベッカにはアレンの説明はよくわからなかったようで首をかしげたままだった。
「組み合わせで発動しないなんてことあるの?」
「おう。文様の相性があるっていうか……なんて言ったらわかりやすいか……」
少し考え込むようにアレンが眉根を寄せ、そしてふと自分の視界の景色に首を縦に振る。
「そうだな。例えるなら魔道具ってのはこの店みたいなもんだ」
「店?」
「この店って色んな種類の柱や板の組み合わせで出来てるだろ。それが正しく組み合わさっているからきちんと店として営業できるが、寸足らずで床に穴が開いていたり、無駄な柱が店内に何本も立ってたらまともな営業なんてできねえだろ。ちょっと違うかもしれねえが、魔道具もそれと同じ感じだな」
店に例えたらすぐに理解の色を見せはじめたレベッカの様子を、アレンが満足げに見つめながら説明を終える。それにコクコクと首を何度も縦に振っていたレベッカがぽつりと呟いた。
「だから魔法を魔道具にしようと考えれば、その改善点が見えてくるんだ」
ただ自分の中で引っかかっていた出来事に対して納得ができ、思わずもれてしまったレベッカの言葉はそれほど大きなものではなかった。しかし2人しかそこにはおらず、そしてなによりステータスの高いアレンがそれを聞き逃すはずがなかった。
その聞こえてきた言葉にアレンは驚いた。それは、アレンが以前イセリアに貸してもらった魔法大全という本に書かれていた一節だったからだ。
「よくそんなこと知ってるな」
「んっ? ああっ、行商人の私の護衛をしてくれている冒険者パーティいるでしょ。今はダンジョン探索に行ってるけど」
「ああ、『さまよう牙』だな」
「レン兄。そういうとこは記憶がいいよね。そこにロージーっていう結構な実力の魔法使いの子がいるんだ。その子がメルキゼレム導師に心酔しててね。そんなことをメルキゼレム導師が言ったって聞いて、ちょっと大変だったんだよ」
疲れたようにため息を吐くレベッカの姿からは、それが本当に大変だったということをアレンに感じさせた。
ただ最初に聞いたときにレベッカが一瞬だけ、しまった、と表情を崩した様子から、それ以外にもなにか事情があるのだろうとアレンには予想がついていたが、それ以上聞くことはしなかった。
本当に困っているのであればレベッカならアレンに相談するなり、誰かを頼るなりして、自分が全てを背負って潰れるようなことはないと信頼しているからだった。
「まあそんな訳で、複雑な魔道具を作るってのは俺には無理だ。せっかく覚えたんだし自分で作ってみるかと思って作成用の道具一式は買ったから持っているが、そもそも魔導具なんて高いもん目玉商品になるのか? あっ、むしろ安く売って目玉にするのか」
「うーん、それも1つのやり方なんだけど色々と問題があるんだよね。レン兄に頼りきりになっちゃうし、既得権益を害されたって厄介なのを敵に回す可能性もあるし。だからちょっと発想を変えた魔道具ができないかなって」
その発言にある程度の構想ができているんだろうと察したアレンが、無言のまま視線だけで続きを促す。レベッカはこくりとうなずき、アレンの目の前で人さし指を立てた。
「ねえ、レン兄。なんで魔道具が高いのかって考えたことある?」
「ないな。うーん、キュリオで色々見た感じからすると原材料費と技術料、あとは輸送費くらいか」
「おおー、正解。特に原材料費が高いっていうのがネックなんだよね。ではなんで原材料費は高いのでしょうか? ちなみにさっきレン兄が言っていたことだよ」
感心したような笑顔を浮かべながらされた再度の問いかけに、アレンが首をひねる。自身の今までしてきた発言と原材料費が高い理由がすぐには思い浮かばなかったせいだ。
思考を整理するために、アレンが魔道具の作成の流れについて考えていく。
魔道具は、その刻まれた回路に魔石などから魔力が流れることで発動する道具だ。刻んだ回路に魔石や各種薬品を混ぜて作製した液を流し込み、それが定着することで通り道ができる。
この液については、多少作製に手間がかかるもののそこまで高価という訳ではない。材料はライラックのダンジョンでも十分に揃うし、作製もギデオンの屋敷の設備を使用すれば、指導者もなく初めて自分でやってみたアレンでも容易に出来てしまう程度だからだ。
だから原材料費として高価なのは魔道具の本体。刻まれている器部分になる。
金持ちが自らの権威を誇るため、という考えが一瞬浮かび、それも間違っていないような気もしたが、レベッカの言いようからしてそれだけの理由とはアレンには思えなかった。
アレンは自身の発言を思い返していき、そしてふと気づく。
「回路、というか文様を変形させないためか?」
「うん。レン兄の話を聞いて私もそうなんじゃないかって思ったんだ。てっきり金持ちの見栄のためだけかと思ってたんだけどね。というよりは最近はそっちの理由の方が主になってきちゃったって感じじゃないかな」
「元々は回路を守るために高価な材料を使って作ったから販売価格が高くなり、買う奴が金持ちしかいなかった。そんな状態が続いたせいで金持ちの需要に見合うような魔道具ばかりが作られるようになり、それを持っていることが格を示すものになっちまった、と」
「まあ、本当はどうかわからないけどね」
レベッカの話を聞いて、頭の中を整理しながらアレンが魔道具の変遷に関する推測を口にする。それに対してレベッカは肩をすくめながら軽く笑って返した。
実際、今の話は完全になんの根拠もない憶測でしかないのだ。そうであったとしても、そうでなかったとしてもレベッカの構想は変わらない。
一方で、アレンの方は魔道具の回路を変形させないためという理由に大いに納得していた。
剣や防具などと違い、魔道具をメンテナンスするというのは非常に厄介な作業になる。そもそもキュリオの現状からしてわかるとおり、理論を構成する者と実際にそれを魔道具として刻む者は別人であることがほとんどなのだ。
正確な回路を刻むのであれば、種族的にそういった方面で器用なドワーフなどが行うべきだが、彼らは経験を重視する傾向にあり理論立てて考えることを面倒だと思う者が多かった。
発注された回路をその通りに刻むことができる者は多くいるが、それがどういった理論で動いているのかを理解している者はほとんどいないということになる。
つまりメンテナンスしようにも、どこが悪いのか判断が出来ないのだ。その魔道具について正常に動く状態を知っているドワーフであればなんとか出来るかもしれないが。
ひとしきり納得したアレンが思考をやめ、レベッカへと視線を戻す。
「で、結局はどうするつもりなんだ?」
「うん。いっそのことすぐに壊れる魔道具を作ってもらおうかなって」
「壊れる?」
道具として使うならあってはならないようなその言葉に、思わずアレンの声が低くなる。アレンの雰囲気が変わったことを察したレベッカは、首を横に振りながら慌てて言葉を付け足した。
「あっ、わざと壊れるわけじゃないよ。材料費を安くして値段をうんと安くする代わりに壊れやすい、みたいな」
「使い捨て、消耗品に近い魔道具ってことか」
「そうそう。火付けとか面倒くさいって思ってる人、絶対いると思うんだよね。ファイヤの魔法でも覚えればいらなくなっちゃうんだけど、簡単に覚えられるものでもないし。他にも細々と役立ちそうなアイディアが……」
具体的なアイディアを話していくレベッカだったが、アレンの頭の中にはほとんど入ってきていなかった。
アレンの頭の中を占めていたのは1つの可能性だ。今まで試したことなどあるはずがないし、聞いたことさえなかったが、なぜかアレンには出来るんじゃないかという予感があった。
「……と言う感じで、ちょっとした主婦の仕事に役立つ魔道具はどうかなって思うんだよ。冒険者や行商人にも需要が出そうでしょ?」
「あー、すまん。途中からほとんど聞いてなかったわ」
「ええっ!?」
正直に伝えたアレンの言葉を聞き、レベッカが頬をどんぐりを詰め込んだリスのように膨らませる。
再度謝罪を伝え、頭を撫でながらアレンは真剣な表情でレベッカを見つめた。
「なあ、レベッカ。ちょっと新しい使い道をする魔道具のアイディアが浮かんだんだが、それも目玉商品にしてみないか? 今なら結構売れると思うんだよ」
「新しい使い道?」
頭に疑問符を浮かべながらそう聞き返してきたレベッカに、アレンは自らの思いついた魔道具について説明していくのだった。