軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第12話 店舗もちの商人とは

「じゃあな。絶対指名依頼出すから受けてくれよなー」

「出すな、馬鹿やろう。あれ、断ると評価下がるんだからな。マジでやめろよ」

「ははっ、わかってるって」

そんなことを言いながら笑って去っていくニックの後ろ姿を、本当に大丈夫だろうなと若干不安に思いつつアレンが見送る。

鉄級以上の冒険者に対して、指名料を加算することで個別に仕事を依頼できる指名依頼という制度が冒険者ギルドにはある。

もちろんこれは依頼人からの一方的なものであるので、指名を受けた冒険者にはそれを断る権利は存在する。しかしそれを断る者はほとんどいないのが実情だった。

そもそも知り合いで事前に話が通してあることが多いことに加え、通常の依頼よりも指名料があるぶん割が良いのだ。

実力的に明らかに無理だとか、別の依頼を受注している最中である場合などは事前にギルドが断ってくれるため、そもそも断る理由がないことがほとんどということもあったが。

基本冒険者が受ける依頼についてはランク以外にあまり干渉してこないギルドがそこまでするのは、指名依頼をするような依頼人が冒険者ギルドにとってお得意様の太い客と言えるからに他ならない。

依頼がなければ冒険者ギルドは成り立たないのだ。そういった依頼人にギルドが配慮するのは当然とも言えた。

指名依頼を受けた段階でそれが断られるとはギルドは考えていない。受けたのにもかかわらず拒否されました、などとなれば依頼人の機嫌が損なわれるのは確実だし、それを防ぐためにわざわざ依頼を受ける段階で受ける冒険者のことまで審査しているのだから。

逆に言えば、断るのであればそれを依頼人に伝えて納得されるだけの理由が必要になるのだ。

もちろん拒否する権利はあるため、そんなものがなくても断ることは可能だ。しかし結果としてギルドに損害を与えることになるのだから評価は下がってしまうというわけだ。

とは言え、実際にニックから指名依頼を出された結果、アレンが拒否したとしてもほとんど評価が下がることはない。依頼料がそもそもそこまで高くはないし、ほとんど新規の顧客になるため重要度が低いと判定されるからだ。

しかし銀級や金級を目指して欲しいと言われているアレンにとって、自分の評価を落とすことは避けたいというのが本音だった。

新たな現場へと向かったニックの背中が曲がり角で消えたところで、アレンはその場で振り返る。そこにはつい8日前までは更地だったことが嘘のような立派な商店が建っており、その中へとアレンは入っていった。

「あっ、レン兄おかえり。ちょっとそっちの棚を壁際にずらしてくれない?」

「いや、戻って早々にこき使おうとするなよ」

迎えのあいさつもそこそこに頼みごとをしてきたレベッカに苦笑いしつつ、アレンが目の前にあった棚をひょいっと持ち上げると言われたとおりに壁際へと持っていく。

反対側で同じように棚を動かしているイセリアと目が合い、2人が小さく笑いあう中、ぶつぶつと独り言を言いながらレベッカが眉根を寄せた。

「うーん、こうすると動線は良くなるけど置ける商品数が……、そもそも客層を考えると広すぎる空間ってのもあまり良くないし……」

頭の中でシミュレーションを続けるレベッカの指示に従って、アレンとイセリアが棚を動かしていく。

アレンの身長と同程度の高さのある、上3段が商品展示用、蓋のついた下1段が商品保管用となっているこの棚は、建材を切り出したトレントの端材をニックからもらい、アレンが作製したものだ。

学術都市キュリオでアレンがペアリングを買ったドワーフの店の壁際に並んでいたものを、使いやすそうだと考えたアレンが模して試作し、それを見たレベッカが喜んだために量産したものだった。

それからしばらくしてやっと納得のいく配置になったのか、レベッカが満足げにうなずく。

つやつやとした顔をするレベッカとは対照的に、それに付き合わされたアレンとイセリアの表情には疲れが見え隠れしていた。

体力的にはそこまでではないのだが、細かなところまでこだわりを見せるレベッカの指示が2人には理解し切れなかったせいでもある。ほとんど変わっていないんじゃあ、というような微妙な修正が最後の方は続いたというのが効いたのかもしれないが。

「ありがとね、2人とも。ちょっと休憩しよう」

そう言ってお茶の準備をするために店の奥へと入っていったレベッカを見送り、アレンとイセリアがカウンターの前へと集まる。脚立を椅子代わりにして座りつつ、アレンがイセリアへと小さく頭を下げた。

「すまねえな。人使いの荒い妹で」

「いえ。本で読んで想像したりしたことを実際に体験できているので案外楽しいですよ。あそこまで真剣に考えないといけないとは思っていませんでしたけれど」

「まっ、そこまでしないと生き抜けない世界なんだろうな。冒険者とは違う意味で危険な世界だよな。レベッカの場合、両方やってるけどよ」

「それもそうですよね。あの年にして片や冒険者としては鉄級上位、商人としては自分の店を持つくらいに稼いでいますし、レベッカさんみたいな人を天才と呼ぶのでしょうか?」

感心したような顔でレベッカが消えていった奥の部屋へ続く扉をイセリアが眺める。妹のことを手放しで褒められ嬉しい気持ちになりつつも、アレンはそれに対して首を横に振った。

「あいつは天才じゃねえよ。もちろん要領は良くて飲み込みも早いけどな。うちで天才って言葉が似合う奴って言えばエリックぐらいだろ」

「あの騎士になった弟さんですか?」

「おう。あいつ道場に通い始めてすぐにめきめき実力をつけてよ。皆に天才って呼ばれてたんだぜ。もちろん才能だけじゃなく努力した結果だし、エリック自身はそう呼ばれるのを嫌がってたけどな」

たまたま才能があったから強くなったって言われているみたいで嫌だ、と珍しく愚痴のようなことをもらしていた小さなエリックの姿を思い出し、アレンが優しげな表情で笑う。

そんなエリックの気持ちを知っているからこそ口には出さなかったものの、アレン自身、エリックには剣の才能が元々あったのだろうと考えていた。だからこそ自分とは違う道である兵士をエリックが目指せるように努力したのだから。

そんなアレンの様子をどこか眩しそうに眺めていたイセリアだったが、話がずれていることに気づいた。

「ではレベッカさんは?」

「そうだな。あいつは極端な負けず嫌いだな」

「そうですか? そんなイメージがないのですが」

ここ数日一緒に依頼をこなしたり、店舗の準備をしたりとそれなりの時間を過ごしているイセリアだったが、その思いがけない言葉に納得いかなそうに首を傾げる。

その姿に笑いながらアレンは言葉を続けた。

「うーん、確かに上手く隠してるからな。まあその理由も隠した方が勝ちやすいからってことらしいけど。あいつが怖いのは、自分で決めた『勝ち』を得るためには手段を選ばないってところなんだ。人もばんばん利用していくし」

「自分で決めた『勝ち』ですか?」

「そうそう。言い換えるなら……」

アレンが言葉を続けようとしたところで、勢い良く2人の目の前の扉が開く。そして取っ手つきの四角いトレーにお茶とクッキーを乗せ、それを両手で持ったままのレベッカが仁王立ちしていた。

「おおっと、レン兄。人の情報をぺらぺらしゃべっちゃう子にはおやつあげないよ。どんな情報にも かち(・・) があるんだから。なんちゃってね」

「お前、実は扉の向こうでタイミング計ってただろ」

あまりにもタイミングが良く、しかも前もって考えていたかのようなレベッカの言葉に、アレンが呆れた表情で見返す。

しかしレベッカはそれを全く気にした様子もなく、さっさと2人の元へと向かうとその前にお茶とクッキーを置いていった。もちろんアレンの分のクッキーが乗っていたはずの皿はすでに空っぽで皿のみが置かれていた。

イセリアが視線で、いります? と聞いてきたのを小さく笑いながら首を横に振って断り、アレンがお茶を口に含む。案の定、ほんのりと塩気を感じるそれを気にせずに飲み干し、はぁ、と小さくため息を吐いた。

話をある程度まで止めなかったことや、この程度の嫌がらせで済んでいることを考えるとイセリアのことを気に入っているんだろうな、などと考えつつ、アレンが空になったカップをカウンターへと置く。

その横では、無遠慮に聞いてしまったことを謝るイセリアに対して、レベッカがにこやかに笑いながら気にしないでくださいと答えていた。

そんな2人の様子を眺めながら、ふと気になったことをアレンが尋ねる。

「そういや、結局この店ってなにを売るつもりなんだ?」

「とりあえず現状は私が行商で売ってた雑貨系かな。大物はレン兄が造ってくれた棚くらいだね。そこはもう売り込みをかけてるから店頭には並べないけど」

「試作だって言って色んなタイプを作らせたのはそのせいか」

「そうそう。もちろん後で売上の半分は渡すから。それでレン兄はマチルダさんになにか買ってあげなよ。ちなみに王都で仕入れた上質な一品の並ぶ店が町に出来たらしいよ」

「つまりここで買えってことだな」

無言のまま最高の作り笑顔で見つめ返してくるレベッカの姿に、アレンが思わず苦笑する。そんな2人のやりとりを眺めながらイセリアも口を手で押さえて笑いをこらえていた。

しばらくして飽きたのか表情を戻したレベッカが、自身のクッキーへと手を伸ばしながら話し始める。

「だけどね、実際雑貨だけじゃ弱いんだよね。店舗を持つってことは継続的に売れるものを並べる必要があるってことなんだよ。行商人みたいに移動できないしね」

「確かにそうかもしれませんね」

レベッカのぼやきに、店が動き出して歩く姿を想像したイセリアが笑いながら同意する。それにうんうんとうなずきつつも、眉根を寄せて考え込むようにしながらレベッカが腕を組んだ。

「繋がりがあればまた違うんだけど、私は新参者だしね。目玉商品が欲しいところだけど、そんなもの簡単に出来るはずもなく……。ねえ、レン兄。この前キュリオに行ったんでしょ。あそこ、商人の間では魔道具の仕入先として有名なんだけど、棚を作るみたいに魔道具とか作れたりしない? って流石にレン兄でもそれは……」

「さすがに複雑なのは無理だな。魔道具に関しては教えてもらったり本で読んだりしたから簡単なのはどうにか……」

「出来るの!?」

「お、おう。ジーンの婚約者のフーノが魔道具理論の研究者でその伝手でちょっとな」

ぐいっと、身を乗り出してきたレベッカの勢いに押されつつもアレンがなんとかそう答える。その言葉と態度に、それが真実だとすぐに理解したレベッカの頭の中がものすごい勢いで回り始めた。

しばらくして、レベッカがにっこりとした笑みをアレンに向ける。なぜか背中をたらりと汗が流れていくのを感じているアレンに、レベッカの声が聞こえた。

「ねえ、レン兄。また指名依頼してもいいかな?」