軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第15話 ドゥラレのダンジョン

ダンジョンの周辺には必ず町がある。それはダンジョンを適正に管理しないとスタンピードを引き起こしてしまい、溢れたモンスターたちの対処に多大な労力を割くことになるからというのが最も大きな理由だ。

一方で、ダンジョンは適正に管理さえ出来ていれば無限に資源を生み出す宝とも言える。

それを目当てに冒険者や商人が集まり、ある程度の発展がその町には約束されていた。もちろんダンジョンで得られる資源や、その難易度に大きく左右されるわけだが。

冒険者ギルドで依頼を受注しイセリアと共に町を出たアレンは、町を出て、つい先日まで切り株を抜く依頼のために通っていた道を進んでいた。

切り株の依頼の時とは違う、ダンジョン探索をするための部分的に金属で補強された使い慣れた革鎧と自らが打った剣にマジックバッグを背負ったその姿からは歴戦のすごみのようなものを感じさせた。

見目も性能も桁違いの装備を身につけた、絵画に描かれそうなイセリアと並ぶとかなり違和感があったが。

まだ完全に道として整備が終わっていない森の中を、新人の冒険者たちに声をかけられながら2人が進んでいく。その中にはなぜ鉄級のアレンと金級のイセリアが一緒に行動しているのかと奇異の目を向ける者もいたが、それを直接質問してくるような者はいなかった。

先頭で木を斧で切り倒していたきこりたちに軽く声をかけて通り抜け、人がある程度行き来しているために獣道よりもだいぶマシな小道を2人は進んでいく。

「人気者だな」

「10日ほどですが一緒に依頼をこなしましたから。皆さん、とても親切にしてくださいましたよ」

以前から依頼をこなしていた自分以上に、新人冒険者たちから尊敬と親愛を感じる言葉をかけられていたイセリアにアレンが少しニヤリとした笑みを浮かべる。

それに対して謙遜しつつも、その時を思い出して楽しそうにするイセリアの話を聞きながら、親切だったのは半分くらい下心なんだろうなぁ、などと下世話なことを想像しつつ相づちを打っていた。

アレンが依頼を受けていた時よりもかなり道は森の奥まで進んでいたおかげもあり、ほどなくして2人は新しく発見されたダンジョン、正式名ドゥラレのダンジョンへとたどり着く。

以前はボロ小屋が並んだゴブリンの集落があったそこは、すでにその面影さえなく、森の中でぽっかりと広がったその空間にぽつんとギルド職員が待機するための堅牢なログハウスが建てられていた。

そういやここでエルフたちに崇拝されたりしたよな、などと思い出して苦笑したアレンは何気なく首から提げたギルド証入れの鎖を撫でる。

その仕草にちょっと不思議そうな顔をするイセリアへ、何でもない、と首を横に振ってアレンは伝え、ダンジョンへと入る手続きをするために2人はそのログハウスへと向かった。

ドゥラレのダンジョンの1階層。以前スタンピードを起こしてゴブリンに埋め尽くされていたその場所は、果実の成る木々が並ぶ一見すると平和な光景が広がっていた。

一度はアレンが不用意に放った上級魔法のグラッグプレスのせいで壊滅したはずなのに、元通りの姿に戻っていることに改めてダンジョンの不思議を感じながらアレンが周囲を見回す。

数組の新人冒険者と思われる者たちが拳大の赤い実を収穫しており、かご一杯に詰まったそれを背負いながら楽しげに出て行く者を見送ると2人は顔を見合わせて苦笑した。

「ダンジョンだということを忘れそうですよね」

「だな。ゴブリンが出るようだが数も少ないらしいし、罠も落とし穴がいくつかあるくらいだ。果物採取で稼ぐには格好の場所って考えればいいのか?」

ギルドで配布されていた1階層の地図を取り出して眺めつつ、アレンがイセリアに同意する。

もちろんアレンは事前に地図については頭の中に記憶しているのだが、その地図から読み取れる情報と現実の状況をすり合わせ誤差を少しでも減らそうとしているのだ。

ギルドの掲示板に貼られた依頼票や、帰って来る新人冒険者たちの姿からある程度の予想はしていたのだが、それをはるかに超えるぐらいドゥラレのダンジョンの1階層は牧歌的だった。

「そうですね。あっ、ちなみに乾燥させたアプルが売っていたので買っておきましたよ」

「俺も半ば無理矢理買わされたぞ。特産化する気満々って感じだもんな。やっぱ商人は動きが早い」

「早々に雇用が生まれて町が活性化しますし、そのおかげで従来の住人の不満を減らすことにもなりますから治める側としてはありがたい一面もあるようですけれどね」

ひとしきり周囲の確認を終え、地図をしまいつつアレンはイセリアと雑談を続ける。

なんでダンジョンの話から政治の話に変わってるんだろうな、と疑問に思いつつも、イセリアの言うことも理解できなくはないのでアレンは少し苦笑いしつつうなずいて返した。

そしてふっ、と息を吐き出すと、その表情を真剣なものへと変化させる。その変化を察したイセリアもそれ以上の雑談をやめ、アレンへと真っ直ぐに視線を向けた。

「じゃあ、行くぞ。地図があるとは言え、初めて探索するダンジョンだから慎重に進むつもりだ。俺もイセリアもダンジョン探索は久しぶりだし、イセリアに至っては体調が回復したばかりだからな」

「はい。でも急がなくても大丈夫なのですか? 時間をいただいた私が言うのもなんですが」

「まあな」

少し不安そうな顔をするイセリアに笑い返し、下の階層へと続く階段のある方向を指差しながらアレンが歩き始める。横に並んで歩くイセリアへとアレンが軽い感じで説明を始めた。

「今ギルドで提供されている地図は15階層までなんだが、最深部を攻略中のパーティは24階層を探索しているらしい。ここ1か月ほどずっとな」

「そうなのですか? しかし1か月も同じ階層を探索するなんて、それほど強力なモンスターがいるということでしょうか?」

「いや、モンスターは対処出来るらしいんだが、下へ続く階段が見つからないんだと」

イセリアの質問にアレンが肩をすくめて答える。

アプルの木が生えているとは言え、それらはある程度の間隔が空いているためにそこまで見通しは悪くない。初めてダンジョンの奥に進んでいっているが、警戒しつつ雑談できる程度の余裕が2人には十分にあった。

もちろん低階層のモンスター程度であれば、不意の襲撃だったとしても致命的なことにはならないだろうという確信に近い考えもあったが。

「アレンさんは、なんでそんなことを……まさか?」

「あー、だいたい何を想像したかわかったが、マチルダは関係ないからな。当の本人たちが酒場でくだ巻いてるのを聞いたから知ってるってだけだ。というか酒場を利用する冒険者なら大抵知ってると思うぞ」

ハッ、とした顔で言葉を濁したイセリアに、アレンが苦笑いしながら手を左右に振ってその推測を否定する。

確かにマチルダは現在、ドゥラレのギルドの窓口の統括を行っている。冒険者個別の情報に触れる機会も多く、その中には秘匿すべき事項も含まれているのは間違いない。

しかしマチルダは職業倫理に厳しく、たとえ愛する夫であろうとも自らの仕事で知りえた情報をギルド職員ではないアレンに漏らすようなことはなかった。そういう性格を見込まれたからこそ窓口の統括として抜擢されたとも言えるが。

「すみません。失礼なことを」

「いや、実際邪推する奴は多いし、その気持ちもわからなくもないからな。俺にだけ有利な依頼を斡旋しているとか面と向かって言ってきた奴もいたし。じゃあやってみろって依頼票を見せたら顔を青ざめさせて逃げていきやがったが」

その時のことを思い出したのか、ハッ、と呆れたような顔をするアレンの姿に、イセリアが微妙な笑みを浮かべる。

アレンが特に気にしていないのは良かったが、失礼だったことに変わりはないと反省する気持ちがイセリアの心を占めていた。

しかし同時に、顔を青ざめさせるほどの依頼ってなんてものを受けているんだろう、という呆れと頭の中で想像されたその光景に、少し心が軽くなったのだ。

「イセリアもたまには酒場に……行ったら確実に絡まれるな」

提案の途中であっさりとそれを撤回したアレンに、イセリアが苦笑いを浮かべながら小さく首を縦に振る。

酔った冒険者が集う酒場など、決して品の良い場所ではない。そんなところにイセリアのような美人がいればどうなるのか、それは想像すら必要のないほど当たり前のことだった。

実際、そのことを経験しているためイセリアもそれを十分に知っている。だが……

「また今度、連れていってください。お代は私が払いますから」

「……その誘い文句はどうかと思うぞ」

微妙な顔で返してくるアレンに、ふふっとイセリアが笑い返す。そんな雑談を続けながら2人はドゥラレのダンジョンの奥へと進んでいったのだった。