軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第5話 襲撃者

そういった経緯もあり、色々と準備を整えたり声掛けをしたりして新しくギルドが設立されるドゥラレの町へとやってきた2人だったが、稼動し始めたギルドの状況は危惧したよりも多少マシな状況だった。

その理由としては、通常のギルド業務と並行して新人ギルド職員の教育を同時進行しなければならない大変さは変わらないものの、そもそも派遣されるギルド職員のほとんどが4つのダンジョンをそばに抱える経験豊富なライラックのギルド職員であったため、過去の事例に比べて質が高かったと言うことが1つ。

そしてもう1つは……

「そんな訳で、ライラックも今大変らしいわよ」

「『ライオネル』たちも帰ってきてねえしなぁ。タイミングが悪かったな。こっちとしては助かった面もあるが」

アレンが仕上げた夕食を口にしつつ、ライラックから届いた同僚の手紙に書かれていた愚痴に近い内容をマチルダが伝える。

その話に苦笑を浮かべながら、アレンは学術都市キュリオで弟のジーンの検証に付き合いながら、強くなる努力をしているはずのライオネルのことを思い浮かべた。

その手紙に書かれていたのは最近ライラックに多くの冒険者たちが居つき、元々いた冒険者たちとしばしば衝突して苦労しているという内容だった。

どうしてそうなったかと言えば、今アレンたちのいるドゥラレを目指してやってきていた冒険者たちの一部がライラックに留まったからだ。

新しいギルドのあるドゥラレの町は、ドゥル山脈の向こうにある他国と隣接するコーニッシュ辺境伯領を除けば、エリアルド王国の南の端に位置している。

街道が続く場所は自ずと限られており、この町に来るためにはほとんどの場合ライラックを通ることになるというのが実情だった。

その移動に関してだが、そうそう都合よく商人の護衛依頼などあるはずがないし、それを受けられるほど信頼のある冒険者が簡単に拠点を移すはずがない。

つまりやってくる冒険者たちのほとんどは自分たちで旅費を工面するわけであり、その途上にある冒険者ギルドで依頼をこなす者が多くなる。特に周辺に4つのダンジョンがあり、街も景気が良く、依頼も豊富なライラックは格好の稼ぎ場だ。

そして仕事をこなし滞在するうちに彼らは気づいたのだ。わざわざ新しいギルドがあるドゥラレまで行かなくても、このままライラックに留まった方がいいのではないかと。

何らかの事情があり元の場所へと居辛くなった者については、ライラックであろうとドゥラレであろうと新天地という意味では同じことだし、顔役を目指す上昇志向の強い冒険者にとっては、ライラックの顔役である『ライオネル』がいない今の状況はそれに取って代わるチャンスと言える。

新しく発見されたダンジョンについて、まだ本当に稼げるのかどうかはっきりとわかっていないため、実績のあるライラックに残るという選択をする者がいるのは当然のことだった。

そういった事情もあり、当初に想定していたより騒動を起こす冒険者が少なくなったのだ。

それでも日に数件は揉めごとが起きるのだが、アレンやライラックからやってきた人の良い冒険者によって対処できるくらいであり、新しい冒険者ギルドの滑り出しとしては十分に順調といえる。

ドゥラレに来たときよりもかなり余裕のある様子で笑いながら夕食を食べている2人の様子からもそれはうかがえた。

「新人の教育は順調か?」

「今のところほとんど同じ依頼ばかりだし、経験を積ませるには良い環境だから順調ね。ミスをしても致命的なことになる前にフォロー出来ているわ。あっ、そうそう。アレン、リジーとあんまり遊ばないでちょうだい」

「あの時も言ったけど俺は遊んでいるつもりはねえんだけどな。あいつが絡んでくるだけで」

「わざわざ絡まれるのをわかっているのに、リジーを選ぶ段階で同罪よ」

びしっ、とマチルダに指を突きつけられながらそう宣言され、アレンが頭をかいて苦笑いする。

「いや、なんかちょっとレベッカに似てるから、ついな」

「レベッカさん? 一番下の妹さんよね。リジーと似てるかしら?」

「あー、外見とかじゃなくて、なんというか雰囲気がな」

納得がいかないのか首を傾げるマチルダに向けてアレンが柔らかく微笑む。

冒険者とギルド職員として長年付き合いのある2人だったが、家族間でのつきあいというものはなかった。マチルダがレベッカと実際に会ったのも、マチルダが買ったベッドを孤児院に受け取りに行く時に偶然出会ったのが初めてだった。

その後、数回マチルダとレベッカは会っているが、その程度ではさすがのマチルダもレベッカの本性を見抜けなかったか、とどこかアレンは安心していた。

「まあいいわ。一応リジーも先輩として模範にならなくちゃだめなんだから、ほどほどにしてね」

「了解。でもあいつの場合、俺じゃなくても勝手に自爆しそうな気がするんだが」

「…… 仕事は(・・・) 出来るのよ」

「せめて、 も(・) 、って言ってやれよ」

顔をしかめ、それ以上言葉を続けなかったマチルダの姿になんとなく事情を察したアレンは、それ以上追及することなく肉をフォークで刺すとぱくりと口に放り入れた。

しばらくして、疲れたようにため息を吐き、そして食事を再開したマチルダへアレンがなぐさめの言葉でもかけようとしたその時だった。コンコン、と家の扉がノックされたのは。

「あらっ、誰かしらね」

そう言って立ち上がろうとしたマチルダを手で制し、アレンが静かに立ち上がる。その真剣な表情に息を飲むマチルダに、アレンは無言のまま1つの扉を指差した。

マチルダがうなずいたことを確認するとアレンは自然な足取りで玄関へと向かって歩いていく。ノック以降物音などしないのに、アレンの勘は警鐘を鳴らし続けていた。

ステータスが5千を超えるアレンにとって脅威となることなどほとんどないはずだ。しかしそれでもどこか嫌な汗が流れるのをアレンは感じていた。

「誰だ?」

万が一に備え、警戒していることを相手に悟られないように自然を装いながらアレンが扉の向こうの相手へと呼びかける。

さすがに室内で普段使用している剣を振ることはためらわれたため素手ではあるが、いつ襲い掛かられても対処できるように意識をしつつ、アレンは返答を待った。

しかししばらく待っても返事は来ない。ただ気配は未だに扉の向こうにあり、アレンがより警戒心を高めていたその時、突如として扉が開いた。

完全に戦闘モードに入ったアレンは、普段よりもはるかにゆっくりと流れる時の中で襲撃者に対して対処しようと動き出し、そしていきなり動きを止めた。

普段通りの時の流れへと一気に戻ったアレンは、その襲撃者の拳が自分の腹へと真っ直ぐに伸びていくのをただ眺めるしか出来なかった。

「レン兄の、馬鹿ー!!」

そんなことを叫びながらアレンの腹へと思いっきりパンチをかましてきたのは、アレンの末の妹、先ほど話題に出た行商人のレベッカだった。