軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第31話 効率の良い検証方法

結局モンスターの襲撃を一度も受けることもなくアレンは見張りを終え、早い時間に起きてきたジーンとイセリアと共に朝食を食べた。

その最中も目をキラキラとさせながら期待したような目で見てきたジーンに苦笑を返し、さっそく検証するためにその小部屋を出る。

そして角を曲がり、部屋から姿が見えなくなったことを確認すると一路目的地を目指して走り始めた。

昨日、計6度の検証に際してこの階層を歩き回ったおかげもあり、アレンの頭の中には既に完璧な地図が出来上がっている。それに従いすいすいとアレンは通路を進んでいった。

その途中で出会ったモンスターもいたのだが、連れて行くのに時間がかかりそうだと判断し、通りがけに蹴り飛ばしてアレンは倒してしまっていた。

そしてひた走ること1分弱。アレンは目的の場所へとたどり着いていた。そこはなんの変哲もない小部屋だ。今、ジーンたちが待機している小部屋より2倍程度広いくらいで形としては正方形で板張りのよく似た印象を受ける場所だった。

「えっと、たぶんこの辺りだよな。おっ」

部屋に入ったアレンがゆっくりと歩きながら部屋の中央へと向かっていく。そして注意深くそこを確認すると、ほんのわずか、周囲から爪の先ほどの高さだけ出ている床板を発見した。

それを見たアレンがニンマリと笑い、そして腰に提げていた剣を引き抜く。

「さて、人生初のモンスターハウスの罠だ。まさか自分から踏む機会が来るとは思ってなかったけどな」

そんな風に笑い、そして大きく息を吐いて顔を真剣なものに変えたアレンがその床板に向けて足を踏み降ろす。その瞬間、天井の板が消えそこから大量のモンスターがアレンの周囲を取り囲むように落ちてきた。

既に心積もりがあり、戦闘状態に入っていたアレンは、モンスターハウスの罠って実際にはまってみるとこんな感じなんだな、そりゃ混乱して被害も出るわ、などと考えつつもモンスターが落ちきる前に剣を何度も振るって近くのモンスターを倒す。

そして床板を蹴って入り口に向けて飛び、床へと落ちきったモンスターを越えながら、その途中に宙に浮かんでいた赤の魔導書を引っつかんだ。

「よし、確保完了。そして仕上げのクイックバースト」

空中で体をひねり、アレンは自分がもといた部屋の中心に向けて魔法を放つ。部屋の外へとそのまま飛び出たアレンをよそに、床へと当たった赤い空気の塊が破裂し周囲へと破壊の刃を撒き散らしていく。

少しして部屋へと戻ったアレンが見たのは、バラバラに切り裂かれたモンスターたちの姿だった。

「よし、これでモンスターハウスの再発動の条件は整ったはずだが……うーん死体とかは残ってても良いのか? いや、どっちにしろ片付けねえと部屋がいっぱいになっちまうか」

アレンはそんなことを呟きながら部屋の中へと入ると、赤の魔導書を脇に挟みつつ倒したモンスターたちをマジックバッグへと放り込んでいった。

その途中でマジックバッグに入れようとしたのに入らず、まだ倒しきれていなかったことのわかったモンスターをさくさくと処理したりしながら片付けを続け、血だまりは別としてすっかりときれいになった部屋をアレンが眺める。

「これでいいな。じゃ、急いで戻るか」

脇に挟んでいた赤の魔導書を手に持ちかえ、アレンがジーンたちの待つ小部屋に向かって走り出す。

アレンがモンスターハウスの罠を踏んでから、まだ1分半ほどしか経過していなかった。

ジーンたちの部屋へと戻ったアレンは、イセリアが問題なく赤の魔導書を倒してレベルアップし、それをジーンが記録する様子を確認すると再びモンスターハウスの罠のある小部屋へ向かって走った。

そして先ほどと同じように罠を踏んでモンスターを出現させ、赤の魔導書のみを掴んで他のモンスターを倒すとそれを回収してから再びジーンたちのもとへと戻る。

そして再びイセリアがレベルアップするのを確認すると、少し満足げに笑みを浮かべながらモンスターを運ぶべく部屋を出ていった。

検証をなるべく効率よく行うためにどうやってモンスターを運ぼうかと考えたアレンが思いついたのが、今アレンが行っているモンスターハウスのトラップを使用した方法だった。

モンスターハウスの罠はアレンがしたように、その罠を踏むと周囲をモンスターに取り囲まれるという性質の悪い罠だ。

退路もふさがれているため基本的に戦って切り抜けるしかないわけだが、全ての方向から襲ってくるモンスターに対処するのは普通の冒険者にとっては致命的ともいえる罠である。

罠としてはそこまで珍しいわけではなく、実際ライラックのダンジョンや鬼人のダンジョンにもモンスターハウスの罠は存在していた。とは言え自ら危険を招くとわかっているそれをわざわざ踏む馬鹿な冒険者はいなかったが。

アレン自身そういった常識があったため、この22階層にモンスターハウスのトラップがあると地図で知っても特に気にもしなかった。部屋に近寄らなければなにも問題は起こらないのだから。

しかし検証をいかに効率よく行うかと考えたとき、ふと気づいたのだ。

今の自分のステータスならこの程度の階層のモンスターに囲まれても特に問題なく抜け出せるし、むしろモンスターが大量に現れれば、その中には連れていきやすい赤の魔導書もいるだろうと。

そして実際に行ってみて、その予想が正しかったことを証明したアレンは嬉々としてそれを繰り返していた。

「うーん、やっぱ問題は片付けの時間だな」

何度もモンスターハウスの対処を続けていくうちに、だんだんといかに効率よくそれを終わらせられるかにアレンは思考をめぐらせるようになっていた。

囲まれた後に倒すまでは特に問題がないのだが、それを片付けるのにどうしても1分以上時間がかかってしまう。それをなんとか短縮できないかアレンは試行錯誤をしていた。

「剣は倒すまでに時間がかかっちまったしな。そうなると魔法しかねえんだが、あんま威力を強めると罠にまで影響がありそうだし……」

ぶつぶつとそんなことを呟いて思考を整理しながら、アレンは赤の魔導書を片手に走ってジーンたちのもとへと届ける。

ダンジョンの罠が復活するまでにかかる時間は3分だ。それはモンスターハウスの罠も同様である。とはいえモンスターハウスの罠は出現したモンスターを全て倒してから3分ではあるのだが。

今、アレンがモンスターを連れて帰るのにかかっている時間は3分半弱。行き来で2分はかかり、そこについてはどうしようもないので、減らすとすれば倒して片付けるその時間だけになる。

そもそも片付ける必要がないくらい焼き尽くしてしまったりすれば、と考えたこともあったが、スライムダンジョンの壁がアレンの放ったファイヤーボールのせいでしばらく元に戻らなかったことを思い出し踏みとどまった。

モンスターハウスの罠が使えなくなっては意味がないからである。

「どちらにせよ3分は復活にかかるし、一瞬で倒せば残り1分程度は片付けの時間があるんだよな。それをどう縮めるかってところが問題なんだが」

そんなことを呟き、アレンは再び倒したモンスターたちが散らばる小部屋を眺める。その荒れ具合に最初に訪れた時のジーンの部屋を思い出し苦笑した。

あの時も一度マジックバッグに詰め込んで掃除したんだよな、と思い出しながら動き始めたアレンの頭にふと、あることが思い浮かぶ。

そして片づけを一時止め、マジックバッグへと手を突っ込んだ。

「あれっ、なんて名前だったかな」

手を突っ込んだことで頭に思い浮かぶリストを探りながら、アレンが目的のものを探していく。そしてそれだと思われるものを見つけたアレンはそれを意識しながら手を引き抜いた。

その手には一辺が80センチほどの四角い箱に蛇腹状になった太いホースのようなものが繋がった、変な物体が握られていた。

「よし、これこれ」

アレンが首を縦に振り、そして四角い箱についていたボタンをポチっと押す。するとギューンという音を立てながらその魔道具は動き始めた。

アレンが試しに床に落ちていたモンスターへホースの先端部分を近づけるとそれはものすごい勢いでホースの中へと吸い込まれ、そして箱の後部に空いた穴から排出される。

「おぉー、これ良いんじゃね。イセリアが買ってきたときは、なんてもん素人に買わせてんだよって思ったけど」

その結果にアレンが思わず笑みを浮かべる。

そして排出される後部部分にマジックバッグの口が来るように引っ掛けるとそのままその魔道具を使って部屋のモンスターを片付け始めた。

その魔道具は、アレンがイセリアに部屋の片付けに使える道具を買ってきてくれと頼んだ結果、掃除について全く知識のなかったイセリアが店主におそらく在庫処分も兼ねて売られた掃除用の魔道具だった。

本来であれば庭師などが木の伐採などを行った時に使うようなものですが、そんなに荒れているならこれが役立つかもしれませんね、というお勧めの言葉にころっと騙されて。

とはいえ頼んだのはアレンであり、しっかりと掃除道具の代金をアレンはイセリアに支払った。大量でしかも魔道具も入っていたため、それなりの金額になってしまいアレンの懐に大ダメージを与え、そしてそれらの道具はマジックバッグで日の目をみることないとアレン自身も思っていたのだが……

「完了っと」

さすがに血だまりまでは綺麗にできないが、それ以外はすっかりと綺麗になった部屋を眺めてアレンが満足そうにうなずく。

それにかかった時間は、道具を取り出したり考えたりしていた時間を含めても今までより少しだけ早かったのだ。

「いやー、何が役に立つかわかんねえもんだな」

その魔道具をマジックバッグにしまいつつアレンがしみじみと呟く。そして

「まっ、こんなこと滅多にないだろうけどな」

そう付け加えて自嘲の笑みを浮かべると、脇に挟んでいた赤の魔導書を手に取り再び走り始めたのだった。