作品タイトル不明
ルディル パーティー
視線の集まる先を確認する。
どっさりとした令嬢の後ろ姿があり目を引く。
「なんだあれ?」
令嬢のドレスに興味のない俺でさえ、あのドレスが時代遅れ以前にデザイナーのセンスを疑うドレスだというのは分かる。
令嬢を取り囲むように見物人が集中する。
どんな人物が着用しているのか失礼ながらに俺も興味が湧く。
「…へ? …嘘だろ?」
移動し相手の顔を確認し驚いた。
そこにいたのは、公爵令嬢で王子の婚約者に一番近いと認識していた令嬢…
ニルヴァーナだった。
公爵令嬢が何故そんなドレスを着用しているのかに気を取られてしまった。
『ニルヴァーナ・キャステン。貴方の悪行には我慢ならない。学園での秩序を乱し、厳罰が無いからと他人を傷付け、更には教師を脅迫し試験で不正を働いていたとは言語道断。令嬢に対して問題を上げれば切りがないが、今まで沈黙していたのは令嬢を優遇していたからではない。公爵令嬢という立場と、健気に義姉の無実を訴えていたローレルの存在があったからだ。貴方の知らないところでローレルがどれだけ周囲に頭を下げ説得していたのか知らないだろう? 家族間の事を他人が忠告するのも烏滸がましいとは思うが、貴方の義妹に対しての行いを聞く度に処罰できずにいることが、どれだけ周囲が胸を痛めていたか分からないだろう。ローレルはいつも『自分達家族が悪い。お義姉様のような高貴な方と自分達が家族になるのが許せないんだと思う』といつも悲しんでいた。それでも『いつか分かりあえると信じている』と涙ながらに語っていた。そんなローレルを最後まで傷付け楽しかった? 貴方に感情はないのか? …貴族社会に貴方という存在は必要ない』
信じられない言葉から始まったので、まるで観劇のように見入ってしまった。
ラルフリードの演技は迫真で、本気で言っているように聞こえ頭が混乱する。
この状況を止めに入るべきなのか、この後更なる真実が発表され、ニルヴァーナの無実が証明されるのか…
俺にはラルフリードの考えが一切読めない。
『わっ…私はっ…』
顔面蒼白なニルヴァーナの姿も演技とは思えない。
『お義姉様っごめんなさい。『ラルフリード様の婚約者は自分だ』と仰るお義姉様を応援したかったのですが…これ以上は…私はお義姉様が他人を傷付ける計画を企てたなんて信じていません…信じていませんが…』
涙を流し義姉を信じながら訴える姿を『健気』というのかもしれない。
彼女の同情を誘うような演技に、異様な程周囲は騙されていた。
『ローレル、君は優しすぎる。今まで本人に知らせず庇ってきたが、相手が自覚していない状態では甘やかしているに過ぎない。厳しい事を言うのも相手の為なんだ』
慰めるようにローレルの肩を抱けば、待ってましたと言わんばかりにラルフリードの胸に縋り付き大袈裟なまでに声をあげていた。
「何だこれは?」
ラルフリードは最もな事を言っているが、根本が間違っている。
「本気でそう思っているのか?」
茶番劇過ぎて呆気にとられてしまう。
俺から見れば健気を装っているが、王子の隣にいるローレルは悲しげな表情だが優越感が滲み出ている。
何故、ニルヴァーナが野暮ったく酷いドレスなのかが分かった。
ローレルとニルヴァーナのドレスの生地は同一。
だが、同一でも同一には見えないのは、デザインが違いすぎるから。
二人の体型を比べるのは失礼だが、ニルヴァーナは女性の平均身長だが細身な体型なので背が高く見えるのに対し、ローレルは平均より身長が低く男受けする体型と言える。
彼女の場合、男は見下ろさなければならないので自然と彼女が強調している胸も視界に入る。
それらを計算してのドレスなんだろう。
そんな二人が着用しているドレスは、ローレルは自身の体型が分かり愛らしさと色気を強調し男を誘惑するかのようなドレス。
一方ニルヴァーナの方は体型など一切分からず、周囲に迷惑な程広がったドレス…というよりカーテンが幾重にも折り重なったに近い。
明らかに悪意を感じるデザイン。
ローレルはニルヴァーナを引き立て役にするため、同じ生地を使ったのだろう。
キャステン公爵家の内情は、社交界でも常に話題となっているので少し考えれば分かること…
どちらが冷遇されているのか一目瞭然。
学園という限られた空間では、思考力が低下し他人の…特に権力者の意見に流されてしまう。
「し……知りません」
震えるニルヴァーナの声。
いつの間にかラルフリードとローレル、側近候補達が取り囲んでいた。
そして彼らはニルヴァーナが犯したとされる罪を一つ一つ挙げていく。
芸術祭の参加者であり婚約者候補の作品が何点か破損させた事。
令嬢達は無事だったとは言え彼女達の乗る馬車の破損や御者が襲撃された事。
そして試験の不正。
それらは全て状況証拠、物的証拠はなくニルヴァーナは罪から逃れていたと言われている。
俺から言わせれば、令嬢は全く関係ない。
罪を擦り付けられたに過ぎない。
証拠なんて出てくるはずがない…
『あれだけの事をしておきながら罪に問われない事で油断したようだが、漸く証言してくれる証人も現れた。身分で相手を従わせるとは…公爵家として恥ずかしいとは思わないのか?』
正義感に満ち溢れた姿は頼もしいが、根底が間違いすぎて憐れに見える。
真実が証明された時、この男がまともに罰せられることを望む。
『身に覚えが……ありません』
微かにだが、ニルヴァーナの否定する声が聞こえた。
『義姉からの嫌がらせに、日々涙ながらに耐えていた姿を僕は何度も見掛けている』
王子の合図で証人達も口を開く。
彼らの証言は、完全にニルヴァーナを犯人に決めつけている。
今すぐにでもニルヴァーナの無実を証明し連れ去りたいが、身分を隠して留学している俺が突然現れ『俺はウェルトンリンブライトの…だ。ニルヴァーナの無実は俺が保証する』と主張しても信じてもらえるか?
下手したら更にニルヴァーナの立場を悪くしてしまう可能性がある。
身分を明らかにしても状況を覆す証拠は、俺の証言だけ。
無実は証明できない。
ここに来て、身分を偽って留学していたことを後悔する。
「ちっ」
何も出来ないまま、ニルヴァーナは会場を去って行った。
義妹とは違い瞳は潤んでいたが溢れさせることはなく耐える姿に胸が痛む。
直ぐに追いかけたかったが、ニルヴァーナが会場を去ると緊迫していた雰囲気が一気に変わる。
『流石です、ラルフリード王子』
『悪女を追い払いましたね』
『これで貴族社会も平和になりますね』
『王子、貴方に付いて行きます』
観劇でも目撃したかのように生徒達は興奮しながら次々に感想を述べ、主役である彼らに駆け寄り取り囲む。
「それで…ラルフリード王子…その…ローレル様とは?」
一人の生徒が疑問を口にすると周囲の生徒も薄々は察してはいるが、明確な言葉を望む。
「あぁ、そうだな。今回ローレル・キャステン公爵令嬢と婚約することに決定した」
「「「「「「「おぉー」」」」」」」
王子の口から直接宣言され周囲は盛り上がる。
会場内は先ほどまでの出来事を忘れたかのように熱気を帯びていた。
「なんだよ、こいつら……」
その光景を目に焼き付け、必ず後悔させてやると誓いながら会場を後にする。