軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ルディル パーティー後

「ヨシュアルト侯爵にこれを」

「はい」

ヨシュアルト侯爵に卒業式での出来事を早馬で知らせた。

「事前に連絡していないのですが、ニルヴァーナ令嬢に会いたい」

卒業パーティーの翌日にキャステン公爵家を訪ねた。

「お嬢様は……お会いできません」

「どうしてだ?」

「ご気分が優れないっようで……」

パーティーでの出来事は令嬢には相当参っているよう。

体調を崩すのも当然。

「そうですか」

無理に会うことはせず、引き返した。

屋敷に戻り振り返る。

「それにしてもあの使用人の対応、挙動不審だったな……」

胸騒ぎを感じ調査を開始。

するとおかしな証言の報告を受ける。

「近隣の使用人から日が落ち貴族街に似つかわしくない速さでキャステン公爵家方面から走り去る荷馬車を目撃したそうです」

荷馬車と聞き、関係ないと思いたいが余計不安が押し寄せる。

「その荷馬車が何なのか調査してくれ」

「はい」

貴族令嬢を荷馬車に乗せるとは思えないが、何らかの犯罪に巻き込まれた可能性も考えられる。

その後の報告。

「荷馬車は貧困地区方面へ向かったそうです」

「貧困地区?」

貧困地区に荷馬車と言えば、食料配布などお慈善事業が考えられる。

だが、そんな時間に配るというのは考え難い。

頭に浮かぶ予想は悪いことばかり。

「貧困地区で何をしていたのかも詳しく頼む」

考えすぎだったという証拠が欲しく手がかりは無いか丁寧に調べた。

すると荷馬車はある地点で引き返されたらしい。

「……俺も、そこへ向かう」

荷馬車の通った道を辿り、引き返したとされる周辺を念入りに捜索を開始。

場所は貧困層が根城としている地区で貴族令嬢には相応しくない場所。

こんな場所にニルヴァーナがいるとは思いたくないが、嫌な予感が消えてくれない。

「このパンをやるから俺に質問に答えてくれないか?」

「ああ? なんだ?」

「ここ最近、荷馬車が来たと思うが何か知らないか?」

「荷馬車? あぁ。夜に来たやつか?」

「そうだ、その事について教えてくれないぁ?」

「置き去りにされた奴がいたな」

「……置き去り……その者は何処へ?」

「知らん。森付近の小屋にでも住み着いたんじゃないのか?」

「そうか、ありがとう」

約束通りパンを差し出すと奪うように持ち去る。

「小屋かっ……」

一つ一つしらみ潰しに捜索する。

「もう、いないのか?」

村から少し離れた場所に崩れかけの小屋を発見。

「……まさかな……」

不安に思いながら、崩れかけの小屋へ向かう。

今まで探してきた小屋と比べ物にならない程老朽化が進み、人が住める場所ではない。

「こんなところにはいないよな……」

手が触れるだけで今にも倒れてしまいそうな小屋。

何十年も前に家主が無くなり、雨風で劣化し補修などされずに時間が経過したので子供さえ近寄らない危険な場所。

中に入る前に外から覗ける範囲で確認するも人の気配は感じず。

危険を承知で足を踏み入れた。

かろうじで人が通れる道があることに不安を覚え、数メートルを時間を掛けて進むと顔は確認できないが人らしき姿を発見した。

「……誰かいるのか? 返事をしてくれないか?」

信じたくない気持ちで恐る恐る確認する。

「はっ……」

既に亡くなっているニルヴァーナを発見。

彼女は貴族とは思えない程痩せ細り抱き抱えた身体は冷たい。

俺の記憶している彼女とは、程遠かった…

彼女の遺体を滞在先まで運ぶ。

急いで棺を発注。

ヨシュアルト侯爵の到着を待った。

「……ニルヴァーナ……」

「侯爵」

「ニルヴァーナ……」

俺の呼びかけに答えることなく、侯爵はニルヴァーナの眠る棺へ。

「そんな……どうして……ニルヴァーナ……ニルヴァーナっ……」

人目も気にせず泣き叫ぶ侯爵を一人にし、別れの時を。

冷静さを取り戻したヨシュアルト侯爵は、俺の知らない表情をしていた。

「何があったのか教えてくださいませんか?」

「……はい」

俺は学園で起きていたことを全て報告。

そしてヨシュアルト侯爵が到着する前に調査していたキャステン公爵家の内情。

「あの男……」

報告を終えると、侯爵は早かった。

孫を苦しめた男の領地に娘の遺体が眠ることを許さず、如何なる手段を使ってでも二人の婚姻関係を無効にしクリスティアナの遺体を取り戻した。

そして、一人では可哀想と言うことで娘と孫を隣同士に埋葬。

「申し訳なかった。あんな男にお前達を託した私を許さないでくれ」

生き返ることのない二人の墓の前で懺悔する日々を繰り返す。

悲しみから抜けると、再び憎しみが込み上げる。

「俺があの時、間違えなければ……」

卒業パーティーで有りもしない罪を着せられ、彼女の名誉を汚した奴らに復讐するために事の顛末を早馬でヨシュアルト侯爵に報せる手紙を認めていた。

まさかその間に、ニルヴァーナは公爵によりオーガスクレメン王国でも最も危険な場所・貧困者が集まるという町に放置されていた。

公爵がそこまですると予想していなかった。

俺の認識の甘さによりニルヴァーナを発見するのが遅れ……亡くなってしまった。

自身の失態だったが誰かにぶつけずにはいられず、侯爵と共にニルヴァーナを苦しめた人間の罪を徹底的に調査。

身分を明かし、洗いざらい真実を公表。

『そんなはずはない』

『でっち上げです』

『こちらには証人がいるんです』

『あなたもあの女に騙されているんです』

愚か者達は信じようとはしなかったが、両陛下主導の調査により全ての証言が偽りであり思い込みからの発言だったと認める。

彼らの親たちは自身の身内が罪を犯したと知ると、家門を守るために子供の貴族籍を抜き修道院に入れる者や鉱山送りにして分かりやすい誠意を見せる者も。

「そんなんで許されるものか」

ニルヴァーナは亡くなったと言うのに、罪を犯した奴らの罰がそんなもんでは納得できず一人残らず拐い、ある儀式の生け贄に利用した。

ウェルトンリンブライド王家に伝わる蘇りの儀式。

数多くの生け贄の心臓を捧げることで、たった一人の人間を蘇らせることができると言われている。

過去に実行されたのは百年以上も前で実際に試した者を知る者は居ない。

ただの言い伝え。

実行したところで蘇りなんて出来ないかもしれない。

それでもこんな奴らを殺せるならそれで充分。

奴らの命と引き換えにニルヴァーナが蘇る可能性があるなら俺は試すことに躊躇はない。

それから、ニルヴァーナに罪を着せた奴らを集めた。

「……あれに面会はほとんどありませんので問題ありません」

修道院では金を渡せば罪人のような人間を裏で取引するのは簡単だった。

それは鉱山も一緒。

それだけでなく、義姉を陥れ冤罪を企てたあの家族と自身の将来のために他人を犠牲にすることを厭わない連中も集めた。

彼らは表向きは王国追放と発表されたので、彼らが消えた事に誰も気付きもしない。

「……ルディル王子、何をされているんですか?」

誰にも気が付かれないよう実行していたが、侯爵に勘づかれてしまった。

「これは……」

仕方なく儀式の話をする。

「私にも、協力させてもらえないか?」

「侯爵も? 正直申しますと、この儀式が成功するとはいえません。ただの言い伝えです。これは単なる俺の復讐です」

「私も同じ気持ちですから」

「……では、あの男の手配をお願いできますか? あれだけは、俺には難しく……」

「任せてください」

侯爵は約束通り、ニルヴァーナに無実の罪を着せた王子の身柄を手に入れてくれた。

さほど時間はかからず。

侯爵の長年王家に支えていた功績に信頼。

それだけでなく、侯爵は王妃とある約束をしていた。

『必ずあれを処分するのであれば、渡そう』

「お約束致します」

侯爵が長年王妃の信頼を勝ち得ていた事。

王妃自身が血の繋がった息子を次期国王にする事。

その為、邪魔なラルフレッドを以前から処分したいと強く願っていた。

なので、俺はアイツを簡単に手に入れる事に成功。

理由はどうであれラルフレッドが手に入れば問題ない。

本当ならニルヴァーナを長年苦しめていたキャステン公爵も数にいれたかったのだが、あの男は既に亡くなっていた。

残念に思いながら集めた人間達でニルヴァーナを蘇らせる儀式を行う。

そして儀式は…成功した。

儀式の直後に意識を失い、目覚めた時にはオーガスクレメンの学園に通う一年前だった。

「蘇らせる儀式たど思っていたいたが、まさか時間が戻るとは」

長い年月の間に蘇りの内容が変化してしまったのだろう。

それでもニルヴァーナが生きていることにかわりない。

俺にはそれで充分だ。

喩え、儀式の代償に俺の命が削られたとしても構わない…