軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ルディル 卒業

王子が何を探っているのか俺には突き止められないまま、卒業式を迎える。

未だにニルヴァーナは悪意の対象。

義妹のローレルは羨望の眼差しを受けている。

大方王子は今日の卒業パーティーで全ての行動を明らかにするのだろう。

不正を暴く為とは言え、ニルヴァーナは学園に在籍していた三年間不遇の扱いを受けていた事になる。

今回の事は何らかの保証があるのだろう。

何の罪もない公爵令嬢に強いる負担としては大き過ぎる。

「もしかしたら、王子の婚約者はニルヴァーナに決定しているのか?」

何かを探り裏で動くためにはそれなりの信頼関係がなければ成立しない。

婚約発表を避け、二人は学園で誰にも疑われないよう徹底的に避けている。

「オーガスクレメン王国…なかなかやるな」

時間を掛けて探るも二人が何について探っているのか手掛かりさえ掴めない事に、悔しくもあり胸を熱くさせていた。

ウェルトンリンブライトに比べオーガスクレメンは小国に過ぎず、警戒すべき相手ではないと見くびっていた。

「まさか、最後まで掴めないとはな…」

婚約を勝ち取ろうとする令嬢から逃げる為の留学だったが、思いの外楽しんでしまった。

二週間に一度の娘溺愛の侯爵への手紙も、学園の状況やあの二人を見ていれば書く内容は難しくはなかった。

「卒業式には重大発表があると予想。侯爵も見届けるべき」

ヨシュアルト侯爵に一時帰国する気持ちはないのか尋ねてみた。

ギディオンからの手紙では彼の病はほぼ完治していると聞くので、いつ帰国しても問題ないらしい。

現段階では頃合いを見計らっている状態だとか。

そのような状況であれば溺愛する孫の卒業式の為に侯爵一人、一時帰国も許可されるのではないか?

ギディオンの護衛には侯爵の息子と信頼の置ける騎士、要請があれば俺が手配しても構わない。

孫溺愛の侯爵の返事は、俺の予想では帰国を選択するだろう…彼の返事は…

「孫の卒業をこの目で見ることが可能であるなら何がなんでも帰国したいと考えるが、私はオーガスクレメンの代表として外交を任され今では別任務も担っている。己の感情を優先し任務を放棄するわけにはいかない。提案は嬉しく思いますが、涙を飲んでお断りいたします。ですが孫の晴れ舞台を見届ける事の出来ない老人を哀れに思うのであれば、卒業式・パーティーでの孫の様子をいち早く手紙で知らせていただけると幸いです。信じております」

手紙を読み終えると心配して損した気分になった。

一貴族として国の勅命を優先する姿に侯爵の忠誠心を感じるも、最後の一文で台無しになる。

「都合の良い時だけ老人かよ…」

一年間手紙を送り続けたので、別に苦ではないが…

長い卒業式中、そんなことを考えながら臨んでいた。

卒業生代表で王子が挨拶を行えば令嬢達の意識も途端に目覚める。

令嬢達は王子に注目はしていても彼が放つ言葉を理解しているようには見えず、奴の顔に夢中で聞こえていないように見える。

唯一表情を変えることなく冷静に式に臨んでいるのは彼女だけ。

俺がラルフリードに負けているとは思っていないが、令嬢の存在だけは羨ましく思ってしまう。

「俺の方が良い男だろ」

滞りなく式は終わると、生徒の意識はこの後の卒業パーティーに向いていた。

俺としては卒業パーティーに出席しなくてもオーガスクレメンの貴族社会に関わるつもりはないので問題ないんだが、孫溺愛の男にパーティーでの様子を記した手紙を送るには参加するしかない。

偽りの事実を書いたところで侯爵に気付かれるとは思わないが、律儀にパーティーに参加した。

この一年間、王子の婚約者だと予想している令嬢と親密になる訳にもいかないと考え、極力接触を避けていた。

不要な諍いを生まないために…

建前だ。

本音は…令嬢を知り好意を持ってしまい俺の婚約者にと欲が出てしまうのを避けるために、同じクラスでも最低限の挨拶のみで過ごしていた。

国の為とはいえ毎日のように浴びせられる悪意に孤独に受け入れる芯の強い令嬢。

惹かれている事を認めたくなかった。

告げることを許されない思いに今日で卒業する。

王族の彼らに今後関わることがあるのかは兄達次第だが、ダンスを誘うことはしなくとも最後に会話ぐらいしても許されるだろうか?

「こんな俺の姿を兄達が知ったら驚くことだろう」

パーティー会場に入場するには順番がある。

まず平民は会場の廊下ではなく既に会場内で待機する。

そして男爵から公爵までの貴族を出迎え、最後に王族が入場する。

本来の立場ではなく、偽りの身分で出席しているので俺は既に会場内で令嬢が現れるのを待った。

身分を越えることのない服装を選んだ。

平民の間では俺はかなりの金持ちと見られ、貴族との結婚を高望みしなくても少しの背伸びとして俺に馴れ馴れしく触れる女性から逃げる為に会場の片隅まで移動する。

その場所からは優越感に浸りながら会場を一度見渡し誇らしげに階段から降りてくる貴族の姿が見えにくいので、心置きなく一人でいる事が出来た。

「長いな…」

普段誰かを待つという事に不慣れなので、勿体ぶって登場する奴らに時間の無駄を感じる。

面倒だから爵位関係なく一気に登場してほしい。

「まだなのか?」

待ち続けると、漸く見覚えのある顔ぶれが登場。

学生にとって一度っきり卒業パーティーであり、貴族であれば互いが婚約者であることを見せ付ける場でもある。

そんな大事な場でさえ、令嬢は当然だと言わんばかりに盛大に勘違いし、彼も身を犠牲にしていた。

姉より妹が先に入場するのが当然なので、次に登場するのが…

「…ん? 問題か?」

ローレルがラルフリードと登場して暫く経っても、ニルヴァーナの姿は現れない。

会場内も登場しないニルヴァーナを不信に語る。

『あの方の姿見えませんね?』

『わざと遅れて目立ちたいんじゃありませんの?』

『それともパートナーがいないのが恥ずかしくて入場できないじゃなくて?』

『ふふっ、来なくても構いませんよ』

何も知らない人間達は好き勝手に語る。

学園を卒業すれば一人の大人として扱われる。

社交界では正しい情報を見極めねば足元を救われる。

卒業パーティーはその一歩。

それなのに、彼らはまだ学生気分で学園が…家族が守ってくれると信じ、自身の目で真実を確かめようとは思わない。

そんな姿に嫌気が差すも、上に立つ者で国は変わる。

彼らであれば貴族の意識も変わることだろう。

『まぁっ』

『あれを見てっ』

『何ですかあれ…』

『…ははっ』

『まさに、お似合いの格好ですね』

何かが起き、ざわめきと共に会場内の雰囲気が変わる。