作品タイトル不明
入場
思う存分湯浴みを済ませ再び制服に着替えても私には時間があり余る。
少し早めに屋敷を出ても問題ないかと馬車をマイヤに頼む。
「お嬢様っ、早すぎますもう少し遅くても問題ありません」
焦るマイヤの態度をおかしく訝しげに見る。
「あぁ…」
マイヤは、私が制服で参加するのをローレルに目撃されたくないんだと察した。
ローレルへの裏切り的な行為を少しでも知られたくないのだろう。
いつかは知られることなんだから後回しにしたところで意味がないのにとは思うが、私が制服であるのを目撃されれば騒ぎになるのは予想が出来る。
もしかしたら、予備のドレスに着替えさせられてしまう可能性もあるので私としても着替える時間がない程度に出発することにした。
「紅茶はいかがです?」
「そうね。もう少しゆっくりするわ」
今後、紅茶など飲めないかもしれない。
最後の一杯を優雅に頂く。
「……そろそろ行こうかしら?」
「そうですね」
マイヤに見送られ、のんびり向かう。
その甲斐もあり、ローレルとは鉢合わせすることなくパーティー会場に到着。
ローレルの方も、自身が話題となる最先端のドレスを私に見せない為に早めに出発していた。
既に入場が始まり人が疎らなのでローレルの姿を発見しやすく、逆を言うとローレルも私を発見しやすい状況だった。
特に今の私はドレス集団の中で一人制服姿なので余計目だってしまう。
ローレルに見つからないよう建物の外で時間を待ち続けた。
学園卒業パーティーだが、この様な場では貴族社会の爵位で入場するのが基本。
この年の卒業生で公爵家はキャステン公爵のみ。
かなり目立つ登場となる。
過去、私は遅刻ギリギリで到着し流行遅れの野暮ったいドレスで入場し注目を浴びるだけでなく笑い者にされた。
入場が終わった気配を感じ、気持ちを落ち着かせてから入り口まで向かう。
既に誰もおらず壁一枚向こうでは多くの人と音楽が溢れ返っているが、廊下は静寂に包まれている。
扉の前に立ちドア係により扉が開く。
遅刻した私に注がれる視線は制服であるのを認識すると誰もが理解が追い付かない表情を見せる。
そして口許に手を当て息を潜める。
私が彼らの前を通りすぎても過去のような誹謗中傷はなく、彼らの目は同情のように感じられる。
中央まで歩くと一人の人物の姿が目に入った。
過去とは違いブルーのタイトなドレス姿のローレル。
過去は可愛らしさを全面に押し出したローレルらしいドレスだったが、今回はシンプルではあるが落ち着いたデザインのドレスに変わっていた。
だが、ドレスよりもローレル自身の表情が違う。
あの時は勝ち誇ったように私を見下し微笑んでいたが、今回は睨まれた。
「キャ…ステン公爵令嬢?」
一人の令嬢が私に声を掛けた。
表情が『どうして制服なんですか?』と質問していた。
「はい」
「何か…あったのですか?」
ドレスではない事を尋ねるのではなく、ドレスが着られなくなってしまった何かがあったのではないか?と心配を口にする。
「いえ、ドレスは…」
「お義姉様っ」
私が応える前に一人の人物の声に遮られた。
「どうして私が贈ったドレスではないんですか?この日の為に私随分前から準備していたのに…お気に召しませんでしたか?」
随分前から準備…
確かにローレルは私には内緒で動いていた。
誰も着ないような野暮ったいデザインのドレスを…
そのドレスを見ていない人が今の会話を聞いたら、私が気に入らないから着なかったように聞こえる。
過去に、ローレルはこうやって私を陥れていたのかもしれない。
「ドレスは…」
「あぁ、何故君はドレスを着ていない?」
一人の人間によって、再び私の言葉は遮られる。