軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

パーティーの準備

「お嬢様、ローレル様よりドレスが贈られました」

ドレスを差し出し微笑みながら私に告げるマイヤを感情なく見つめてしまう。

パーティーに参加できない私付きの使用人でも最先端のドレスは分からなくても流行にそぐわない物くらいは把握していても良いはず。

喩え本当に知らなくても、私の使用人であれば義妹が贈るドレスについて疑い使用人の情報網を駆使し流行から外れていることに気が付くはず。

今のマイヤはローレルを疑うことなく贈られたドレスは素晴らしいものと信じきっている。

長年公爵に疎まれ不遇を強いられている私の為に、心優しい義妹が用意した素敵なドレスにマイヤには見えているに違いない。

「そう…」

「それでは準備いたしますね」

気乗りしない私の態度など気にも止めなず、マイヤはパーティーの準備を開始。

本来であれば湯浴みを済ませてからドレスに着替える。

だが。出発時間間近までローレルと談笑していたマイヤはそれが『私に準備する時間を与えない為に引き留められていた』という事実になど気付きもしないのだろう。

「…準備は結構よ」

怒りを抑え冷静に口にするも、自分でも普段より声が低いと感じた。

「えっ?」

ローレルからの贈り物を私よりも喜んでいるマイヤは、私の言葉を聞き間違いのように驚いている。

「私は制服で参加するわ」

漸く私の言葉を真剣に聞くようになったマイヤに誤解がないよう正確に告げる。

「そんなっ折角ローレル様がお嬢様の為に用意してくださったというのに…」

私が制服で参加し周囲から厳しい視線を受ける未来より、ローレルの優しさを無下にする行為をマイヤは嘆き私を責める。

「だけど…今からでは時間が足りないわ(マイヤがローレルと楽しい時間を過ごした所為でね?)」

「私が何とかして見せます」

私の嫌みにも気が付かないマイヤは、どうしても私にローレルからの流行遅れのドレスを着せたくて仕方がないらしい。

「これから湯浴みをしてマッサージしてドレスに着替え髪に化粧していては遅刻してしまうわ」

「それは…その…着替えと化粧を完璧に仕上げて見せます」

マイヤの言葉は私に湯浴みとマッサージをさせないという提案だ。

ローレルと会話している時、ローレルは湯浴みとマッサージ中だったに違いない。

ローレルの行動を見ていながらに私もしなければならないとは考えなかったのだろうか?

私が制服で行くのは暗にマイヤが私付きの使用人でありながら職務を放棄したからよ?と伝えたのだが、全く理解されず。

それどころかめげる事なく、私に我慢を強いる提案をする。

「いえ…私は学園最後の日は制服で過ごしたいと思っていたの。ドレスは今後も着る機会があるでしょ?」

心にもない言い訳を告げるも、頭の中では違う言葉を投げつける。

『時間に追われてする仕事は完璧に熟せるとは思えない』

マイヤの仕事に対する能力を否定する言葉が喉まで出かかっていたが耐えた。

今まで反抗的な態度を控えていたのに、急に態度を変えてはローレルに報告しに行きかねない。

ローレルに不信感を与え、私がいない間に部屋を荒らされるのでは? と考え我慢した。

「…それは…残念です」

学園卒業という人生に一度の行事を大切な思い出にする為のような私の発言にマイヤは渋々引き下がる。

私がドレスを着ない事を残念がっているが、それは私を思ってなどではない。

マイヤの頭の中は『心優しいローレル様が折角準備したドレスだというのに……着用されないだなんて……』だろう。

「いつか着る日が来るのであれば…」

小さな声でマイヤはいじけた幼子のように呟くが、私がそのドレスを着る事は一生無い。

「マイヤ、ドレス…」

目障りで不愉快なドレスを宝物庫へ保管するように指示しようとしたが、お母様の宝石が無くなった事に気がつかれてしまうと思い、中途半端な所で止まってしまった。

『ドレス』と聞こえたマイヤは私が心境を変え『着るわ』という言葉を期待し私からの指示を待っているのが分かる。

「いえ、何でもないわ。その素敵なドレスはもう少し眺めていたいから、ここに置いておいてもらえるかしら?」

「…はいっ」

心にもないドレスを誉めるとマイヤは分かりやすく喜び浮かれる。

なぜ私が使用人のご機嫌を取らねばならないのか…

それでもマイヤが私を疑うことなく湯浴みの準備するので『これで良いんだ』と自身を納得させる。

今後の私の人生を考えると、今日が最後になるかもしれない湯浴みを不愉快な気分で早々に終わらせたくなかった。

いつもよりゆっくり、丁寧に最後の湯浴みを堪能した。