軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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「……とうとうこの日が来てしまったか」

私は万感の思いで、鷹羽雷蔵からの招待状を見ていた。

「そんなに思いつめなくてもよろしいのでは? ただの釣りですわよ」

「ま、そうなんだけどね」

以前、鷹羽アキラの誕生日会へ行った際に、当主の鷹羽雷蔵と話の流れで釣り行くことが決まったのだ。

日程は後日知らせるという話だったが、ついにその日が決定したというわけである。

開催は、都内にある別荘のひとつ。

その表現、一体幾つ別荘をお持ちなのだろう、と思ってしまう。

その別荘には、近くに大きな川があるらしく、そこで川釣りをするとのこと。

全て向こうが準備するので、動きやすい恰好で待っていてくれればいいという。

というわけで、当日。

レジャーに適した動きやすい服装で待っていると、お迎えが来た。

当主たちは前日入りしているそうなので、車に揺られて現地へ向かう。

しばらくすると、自然豊かなエリアへ到着。

車内でのんびり寛いでいる間に、あっという間に別荘へと着いてしまう。

別荘の側には巨大な駐車場が存在し、同じように送迎された子たちが続々と降車している。

ざっと見た感じ、参加者は誕生日会の半分くらいかな。

もちろん全員女の子である。

そんな風に周囲の様子を伺っていると、レイちゃんが口を開いた。

「誕生日会でお知り合いになった方たちには、わたくしから説明して参加を辞退していただきましたわ」

「そういえば、そんな話をしていたね」

私の発言が発端となって、誕生日会の終わりに釣り大会の開催が決まった。

その時には、レイちゃんの話を聞いて感化された皆さんは、鷹羽家に関するイベントへの関心は薄れていた。

きっと、レイちゃんが改めてお願いしなくても、参加者の数は今と同じくらいになっていただろう。

「ええ。結局、今回参加される男性陣といえば、前回の誕生日会と同じメンバーですからね。彼女たちが、この釣り大会に参加する意味はありません。好きでもない釣りをして仲良くなる相手も、ご機嫌をとる相手もいないのですから」

「ということは、あの集団は霊術師の家の子か。あの子たちは釣りが好きなのかな」

霊術師の子たちは、駐車場で徒党を組み始めていた。

その中心にいるのはリーダー格の子である灘蔵野撫子さん。

誕生日会で話が出てきたことから、唯一名前を知っている子だ。

灘蔵さんを筆頭に皆、合戦に挑むような顔つきである。とても、釣りを楽しみに来たようには見えない。

「どうでしょう。釣りが嫌いだった場合は、すぐにバレてしまうでしょうね。当主の鷹羽雷蔵の趣味なのですから、下手なことをするくらいなら、参加しない方が良いと思うのですけど……」

釣りが好きだったり、上手かったりしても、それで仲良くなれる可能性があるのは当主の鷹羽雷蔵の方だ。

釣り大会の開催が決まった時、鷹羽アキラは当主の鷹羽雷蔵に言われて強制参加が決まっていた。

つまり、釣りが好きかどうかは分からない。嫌そうなリアクションをしていたし、好きではない可能性もある。

そうなってくると、鷹羽アキラにアプローチするために、ここで釣り好きをアピールしても意味がない。

いや、当主に気に入られて、そこからアタックをかけるという間接的アプローチならありえるか。

一見、迂遠な方法に思えるが、相手が名家の人間となれば、有効な手段かもしれないね。

まあ、私たちには関係ないので、彼女たちの邪魔にならないようにしながら釣りを楽しむとしよう。

私とレイちゃんは、駐車場にいた釣り大会運営の人に案内され、河原へ向かった。

今回の釣り大会は別荘には行かず、基本的に河原で行われるのだ。

イベント会場となる河原は、別荘から徒歩五分といったところ。

到着する前から目的地が見えるほど近い。

川の上流と下流にはネットが張られ、用意した魚を放流して釣り堀状態にしてあった。

参加人数が多いうえに、初心者が大半を占めるための処置と思われる。

そのエリアで釣りをして、釣った魚を河原でバーベキュー。

最後の片づけ時に別荘に寄って、帰路に就くという予定だ。

「大型の大会で使うテントが設置されてるね。こんなに大々的にやって大丈夫なのかな」

河原へ下りて直ぐのところに白テントが並び、大会本部みたいな場所がある。

「参加人数が十人を超えていますから、必要な処置ですね。きっと別荘だけでなく、この辺り一帯の土地も所有されているからできる芸当なのでしょうね」

う~ん、これは個人でやることじゃない。

テレビの撮影が入る大会のような様相だ。

やっぱり、お金持ちがやると、なんでも規模が違うね。

そんなことを考えながら、周囲を見渡す。

川は大きく、反対側まで泳ごうとすれば、かなりの体力を必要としそうだ。

などと、つい考えなくてもいい方向へ思考が飛んでしまう。

今回は釣りに来たのだ、泳ぐことはないだろう。

そんな事を考えながら、大会本部っぽいテントへ向かうと、鷹羽雷蔵が出迎えてくれた。

「よく来てくれたのう。今日は楽しんでいってくれ」

「お招きありがとうございます。今日は初めての体験を堪能させていただきますわ」

「こんにちは。今日はご招待いただきありがとうございます。私も釣りは初めてなので今から楽しみです」

などと挨拶を済ませると、足早に釣り具貸し出しスペースへ向かう。

ゆっくり話していると、次の人たちが挨拶できないからね。

貸し出しスペースで簡単なレクチャーを受け、いざ出陣。

川へ向かうと、もう鷹羽アキラたちは釣りを楽しんでいた。

そこにはナナちゃんの姿も見える。

「あ、レイちゃんとマオちゃんも来てたんだ」

私たちの姿に気づいたナナちゃんが声をかけてくれる。

「うん、今着いたところ。ナナちゃんは早いね」

「まあ、私たちは前日に来てるからね。準備とかを手伝って、そのままいるって感じ」

「それは、鷹羽家の別荘に宿泊されたということですの?」

「そうだよ?」

驚くレイちゃんの問いかけに、不思議そうな顔で首を傾げるナナちゃん。

これまた飛んでもない返答が返ってきたものだ。

「その話、絶対他ではしないように。いいですわね?」

レイちゃんはナナちゃんの両肩を掴むと、険しい顔で忠告した。

「……いいけど。そんなに気にしなきゃいけないこと?」

「話すと自慢しているとか、マウントを取っていると誤解されるよ?」

今一つ理解していないナナちゃんに、話せばどうなるかを説明する。

場合によっては、挑発していると受け取られかねない。

「げぇ。じゃあ言わない」

私の説明を聞き、ナナちゃんが顔をしかめた。

そんな感じで話していると、側で釣りをしていた鷹羽アキラと雪沢智仁が近づいてくる。

「おい。お前らって、そんなに仲が良かったのか?」

「そろそろ僕たちにも紹介して欲しいよね」

「ん? クラスメイトの雲上院さんと九白さんだよ。部活も一緒なんだ」

二人から催促され、ナナちゃんが私たちを紹介してくれる。

「そうか。二人とも誕生日会以来だな。今日は楽しんでいくといい」

「ええ、そうさせていただきますわ」

「あ、どうも。お世話になります」

と、レイちゃんと私は鷹羽アキラにご挨拶。

マンガでは、悪役令嬢の雲上院礼香が鷹羽アキラにグイグイ迫って、距離を取られていた。

だけど、今はそういうことにはなっていない。

お互いに適度な距離を保っているため、相手の対応も普通。

険悪な雰囲気など一切ない。うん、これは良い兆候。

「僕は雪沢智仁。雲上院さんは初めてじゃないけど、九白さんは初めまして、かな。よろしくね。三人はクラスと部活が一緒だから、仲がいい感じなんだね」

「初めまして、九白真緒です。そうですね、最近はよく一緒にいますね」

「兎与田さんには無理を言って、助っ人をお願いした次第ですの」

今度は雪沢智仁が挨拶してくれる。

前は、鷹羽アキラの誕生日会だったため、雪沢智仁とは話していない。

お互いに顔と名前は知っているが、ちゃんと話すのは今回が初めてだ。

マンガでの雪沢智仁は今のように鷹羽アキラと幼馴染で、いつも一緒の親友という感じだ。

物語の中では、鷹羽アキラが直情的なので、雪沢智仁が裏からフォローするといった立ち回りをしていた。

鷹羽アキラはマンガと同じ雰囲気だけど、彼はどうだろう。

ナナちゃんの例もあるし、マンガ通りとは限らないんだよね。

「俺は聞いてないぞ。部活の話も初めてだ。で、何部なんだ?」

ここで鷹羽アキラが、私たちを置き去りにしてナナちゃんに肉薄。

部活の事が気になったのか、至近距離で問い詰めだした。

普通なら圧を感じる距離だけど、ナナちゃんは無反応。

慣れた感じで答え始める。

「フォーゲート部だよ。昔、雷蔵爺さんにも、霊術師の嗜みとして出来るようになっておくといい、って言われたしね。雲上院さんが道具一式買ってくれるっていうし、丁度いいタイミングだと思ったから入部したってわけ」

「なるほどな。接待で行ったりするからな。俺もできるから、いつか勝負でもするか?」

「まだ始めたばかりだから、もう少し上手くなってからね。で、その時は何を賭ける?」

不敵な笑みを浮かべるナナちゃんが、鷹羽アキラに勝負を持ちかける。

「俺が勝ったら、肩もみ。負けたら、肉食い放題。どうだ?」

「いいね。ちゃんと良い肉仕入れておいてよ?」

「俺は負けん。お前こそ、肩もみの練習でもしておけ」

二人は、お互いにニヤリと笑い、拳を突き合わせた。

目の前で起きたことなので、じっと見ていたが一連の流れが自然すぎる。

こういう会話を何度もしているんだろうな、と思わせる雰囲気だ。