軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

93

そこは、取り壊しが決まったアパートだった。

奴は、更地になった場所には現れない。まだ建物が残っている状態の時に出没する。

このアパートは、明日には解体業者が入る予定のため、現れるなら今日しかないのだ。

俺は物陰に潜み、奴が現れるのをひたすら待った。

すると、一台のワゴンが廃アパートの前に停まった。

そして、後部座席のドアが開くと――。

「奴だ!」

――偽物の俺が現れた。

「ここまでそっくりだとは……」

実際に生で見ると、まるで鏡に映したかのように完璧。

髪型、服装だけではなく、身振り手振りまで。

奴を目で追っていると、自分の録画映像を見ているような錯覚に陥る。

「仲間がいるのか……」

奴が降りてきたのは後部座席。つまり他にも、つるんでいる連中がいる。

全員捕まえて、とっちめてやる。

と思っていると、また一人、後部座席から誰かが下りてきたので目を凝らす――。

「はあ!?」

――すると、俺が降りてきた。

まさかの二人目だ。なんと偽物は二人いたのだ。どうりで目撃情報が多いわけだ。

そして、二人目の偽物も俺そっくり。

偽物が二人で並んでいると双子を通り越して、鏡に映った虚像と実体のように見える。

……これは予想外だ。

眼前の光景に驚愕し混乱していると、更に混乱する事態に。

「お嬢様!?」

なんと、次に車から降りてきたのは社長の娘。九白真緒さんだった。

スパーリングの相手をしたり、市街戦の練習をしたりと仕事としてコーチングしたことがあるので、見間違えるはずがない。

誘拐されたのか? という考えが一瞬頭をよぎったが、違った。

次に降りてきたのが、雲上院礼香だったからだ。

確かお嬢様の親友で、今は同居しているはず。

その二人が笑顔で談笑していたため、誘拐の可能性は霧散した。

そのまま様子を見ていると、更にお嬢様と同年代の女子が降車していた。

そして最後に、運転席から中年の男が降りてくる。

「何だ、この面子は……」

困惑が呟きとなって漏れ出る。

訳が分からない。

お嬢様たちは、手錠などで拘束されているわけでもなく、フリー。

人気がないとはいえ、ここは住宅街。大声を出して走って逃げれば、どうとでもなる状態だ。

しかし、逃走を試みようとしている気配がない。むしろ和気あいあいとしている。

凄くフレンドリーだ。

あの集団の中で、大人は運転席にいた中年の男と俺の偽物が二人。

こいつらが主要メンバーと考えるべきだろう。

「偽物を拘束して事情を聴くか」

お嬢様たちが誘拐されている可能性がゼロとは言い切れないので、強硬手段に出ることを決める。

俺は、一番近い位置にいる偽物に狙いを定めた。

気配を忍ばせ、集団の背後から一気に近づく。

そして、一番後方にいた俺の偽物を羽交い絞めにして、他の主要メンバーから死角となる曲がり角へ引きずり込んだ。

すかさず、みぞおちに強烈な一発をお見舞いする。

俺の真似をした、お礼ってやつだ。

「っ!? なんだ、この手応えは……」

しかし、返ってきた反応は予想外。

人とは思えない感触。まるでサンドバッグでも殴ったかのような感覚だ。

まさか、インナーに砂を詰めたチョッキでも着ているのか!?

偽物は俺の一撃を受けても無反応。まるで効いてない。

なら、頭だ。俺は密着に近い状態から回転。肘を後頭部に叩き込んだ。

「なん……だと……?」

肘は確かに命中した。

なのに、呼吸していないかのように、無言。

完全な無反応だ。

しかも、感触が異様。

偽物は頭部に何も着用していない。無防備な状態のはずなのに。

砂場に肘から倒れこんだと錯覚してしまうほど、人とはかけ離れた手応え……。

「な、なんなんだコイツは!?」

それなりに人を殴ってきたのに、生まれて初めて経験する打撃感。

余りの気味悪さに、大きな声が出てしまった。

そして――。

「あれ、伊藤さん?」

――俺の声を聞きつけ、お嬢様がひょっこり顔を出した。

「お、お嬢様、これは一体どういうことですか?」

たまらず、俺は問いかけた。

それと同時に雲上院礼香と、もう一人の女子も顔を出す。

「えっ、喋っている?」

「これは映画でよく見る、AIの反乱的な奴ね。余りに精巧に作りすぎたから、自我が芽生えたのね。これは創造主への反乱。私には分かる」

お嬢様が返答する前に、女子二人が不思議そうな顔で俺を見つめながら声を上げる。

なんだ、俺が話すのが、そんなにおかしいことなのか?

あと、AIってなんだ。創造主なんて言葉を日常で使う奴、初めて見たぞ。

一体、何の話をしている?

俺は、一番話が通じそうなお嬢様を見つめて、返答を待った。

「……これは、その……、なんていうか――」

俺の視線を受けて、しどろもどろになる真緒お嬢様。

――ああ、この人が元凶なんだな。

お嬢様の反応を見た俺は、一瞬で理解した。

◆九白真緒

探査術に、伊藤さんの造形を無断使用していたことが本人にバレた。

結果、家族会議になってしまった。

伊藤術式の有用性を説いたが、一蹴。

モデルの変更を余儀なくされる。

とはいえ、骨格と筋量はこだわっているので、変更したくない。

やるなら顔だけにとどめたい。

私は、モデルの完成度の高さを力説し、説得。

なんとか、顔を変更するだけで使用を許してもらえることとなった。

というわけで、家族に見てもらいながら顔を変えていく。

その場には、被害者である伊藤さんも同席してもらうことになった。

変更した顔をチェックしてもらい、最終判断を仰ぐためだ。

とりあえず、鼻を高くしてみるか。

「それじゃあ、鼻の高い伊藤だな」

と、母よりNGを貰う。

なら、目元も変更してっと……。

「真緒、多分骨格が同じだから、顔のパーツを多少いじっても、伊藤さんのそっくりさんという感じになっちゃうよ」

と、父から根本的な駄目出しを食らってしまう。

そう言われれば、そうかもしれない。

伊藤さんも、渋い顔をしている。

この位だと微調整レベルになってしまうか……。

自分の感覚だけでは駄目だと判断し、皆の意見を取り入れ、何度か調整してみた。

「それではロン毛の俺です」「それではモヒカンの俺です」「それではM字の俺です」と、三連続NGを食らった後、「髪型で遊んでませんか?」と言われてしまう。

く、そんなつもりはなかったんだけど……。

更に攻めた変形を行ったが、ことごとくNGを食らう。

その後、幾度となく調整を続けたが、伊藤さんから許諾を得ることは叶わなかった。

結局、同じ顔ではないけど、遠くから見たらそっくりさん、みたいな感じに仕上がってしまうのだ。

でも、大きくいじると、今度は人間の顔として成立しなくなるんだよねぇ。

それに、背格好が全く同じなので、どうしても似てしまう。

塩梅が難しいよ。

「…………よし、諦めよう」

私は悩みに悩んだ末、人型の顔を無くした。

完全に、のっぺらぼうにしたのである。

これなら、NGを食らうこともないだろう。

だが、この状態で人前をウロウロさせるのは問題がある。

なまじ、他の部分が人間にそっくりなので、何も知らない人を驚かせてしまうのだ。

それなら、仮面的な物でもつけてしまえばいい。

戦闘服に合うのはガスマスクかな。

というわけで、ガスマスクにヘルメット姿ののっぺらぼうが完成。

皆に披露したところ、反応も良好。伊藤さんからもOKを頂いた。

長い道のりだったが、最終的に顔を消すということで、なんとか合意に至った。

許諾も得たし、真・探査術として、改めて先生たちにも披露した。

操れる人数も随分と増やせるようになったので、軽く十体ほど出してみる。

ガスマスクの集団が私の背後に整列する姿を見て、先生は「うん……」と、微妙な反応。

ナナちゃんに至っては「らしいね」と納得していたが、私は納得できない。

らしいってどういうことよ。

そして、レイちゃんの反応は、「素晴らしいです! まるで私設軍隊ですわ」というもの……。

なるほど、らしいってそういうことね……。

私はガスマスク集団に、土属性霊術で作った張りぼての自動小銃を持たせ、姿勢を整えさせる。

次に、私自身は集団の真ん中に移動。

最後に、手を後ろで組み、片目を釣り上げてニヤリとしてみせた。

「こういうこと?」

と、皆に確認を取る。

「おい、やめろ! ガチで通報される!」

と、先生が慌て。

「逮捕後にニュースで出る映像っぽいね」

と、ナナちゃんが言い。

「映画のワンシーンの様ですわ!」

と、レイちゃんが喜ぶ。

そのワンシーンって、悪役の娘の登場シーンだよね、きっと……。

まあ、色々言われたけど、これ以上モデルをいじるつもりはない。

なんせ使い勝手が良いのだ。

このガスマスク軍団には、これから様々なところで役に立ってもらうつもりだ。