軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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◆九白真緒

「これです。完成度は八〇%ほどですが、霊薬がどんなものかは擬似的に体験できると思います」

私は、あらかじめ調理しておいた霊薬もどきを、ショットグラスに注ぐ。

霊薬もどきは、ハチミツよりも高い粘度をみせ、ニチャァという擬音が似合いそうなほどゆっくりとした落下速度でグラスに溜まっていく。

その様子をジッと見つめ、顔を青くする雲上院親子。

「お父様ぁ、ここまで臭いが……」

「ああ、なんだこれは……。飲食物の匂いじゃないな。こんなもの体内に入れて大丈夫なのか」

「材料は全て食べ物なので問題ありませんよ。一応、医師にレシピの確認もしてもらいましたが、許容範囲とのことです」

大丈夫、ちゃんと調べたし、OKももらったから。

ただ、確認してくれた専門家の方々は、全員「なんでこんなものを?」と、口をそろえて聞いてきたけどね。

「お父様、今あの液体が動きましたわ!」

「一体、何の許容範囲なんだい!?」

怯え、うろたえる二人。

でも、大丈夫。人体での実験も済んでいるし、安全は保証済みだ。

「ささ、どうぞ。霊薬を半年飲み続けるというのが、どういうことなのか。その身でしっかりと味わってください」

黒い液体がなみなみと注がれたショットグラス。

それを、二人に向けてすっと押し進める。

振動を受け、霊薬もどきがコポォッと泡を吹き、割れた。

途端、黒い煙がわずかに立ち上る。うわ、グロい。

「マオちゃん! 今グロいって言いませんでしたか!?」

「言ってない」

「ほんとですの!?」

「そんなことより、早く。ピーマンも食べられる大人なんでしょ」

「礼香、君はピーマンが大の苦手なのに、そんな事を言ったのかい?」

「言ってない」

霊薬もどきを飲みたくないのか、現実逃避気味に言い争いを始める二人。

「別に飲まなくても大丈夫ですよ。ただ、霊薬はもっとまずいです。つまり、これを飲めないのであれば、霊薬を飲めるはずがないというだけです」

私は、そう説明しながら、三つ目のショットグラスに霊薬もどきを注ぐ。

そして、黒い液体で一杯になったグラスを持ち上げた。

二人にウィンクし、乾杯の仕草をしてから一気に飲み干してみせる。

うん、マズイ。けど懐かしい味でもある。我ながら中々の完成度だね。

「……よし、父である私から行ってみよう。礼香は無理しなくてもいいからね。それでは――」

意を決した昭一郎さんが、霊薬もどきを口にする。

が、ほんの少し口内に入った時点で、一時停止。

とても静かかつ滑らかな動作で、グラスを置くと、口もとを押さえてダッシュ。

――凄まじくエレガントな超早歩きで、部屋を出て行った。

そして数分後、何事もなかったかのように戻ってくる。

さすがは雲上院家の当主。表情は平静さを保っていた。

しかし、指先や顎関節が痙攣している。

背中にマッサージ機を押し付けられているかのごとくプルプルである。

「礼香、飲むのは止めておきなさい」

とても清々しい笑顔で、止めに入る昭一郎さん。

なるほど、表情を殺すと笑顔になるタイプなのか。

「ですけどお父様、これを飲めなければ霊薬を飲むことなんてできませんわ」

「その通りだ。どうやら私は霊薬のことを甘く見すぎていたみたいだよ。礼香がどうしても飲みたいというのなら、ちゃんと準備をしよう。少しずつ苦味や渋味に慣れていく練習から始めるんだ。そうしないと、飲みきるのは難しいと思う」

昭一郎さんの言葉を聞き、私はウンウンと同意する。その通りなんだよなぁ。

いきなり高いハードルから攻めるのではなく、少しずつ難易度を上げていけばいいのだ。

そうすればいつかは飲めるようになる……、かもしれない。

「でも……」

父の説得を聞いても、まだ迷いを見せるレイちゃん。

「ちなみに、一日に飲む霊薬の量は缶ジュース一本分です。それを欠かさず、半年間毎日続けます。一度でも飲むのを止めると、失敗。二度と挑戦できなくなります」

ついでに一本三万円だしね。ハードル高いんだよなぁ。

「挑戦してはいけないとは言わない。だけど、失敗が許されないなら、ちゃんと準備はした方がいいと思わないかい?」

昭一郎さんがレイちゃんに優しく問いかける。

「それに、無事飲みきったとしても、授かる属性は高確率で二属性です。あまりお勧めできませんね」

ほぼ確定で二属性。激レアで三属性。超レアで一属性。

そして私は、超レアで大ハズレの一属性を引き当てた、という……。

まあ私にとっては、一属性でも霊術は楽しくて面白い。

将来と無関係だから、気楽なものだ。

だけど、ハズレと聞くと、ちょっと悔しいんだよね〜。

「……それでも。それでもマオちゃんは飲みきりました! それも四歳の時に! それなら私にだってできます! やってみせます!」

こちらの説明を聞いても、レイちゃんは引き下がらなかった。

そして――

「だから、この霊薬もどきも………………! 飲めるのですわ!」

レイちゃんはそう言うや否や、手にしたショットグラスを大きく傾け、霊薬もどきを一気に飲み干して見せた。

全身ブルブル震え、目には大粒の涙が溜まっている。

だけど飲み干した。飲み干しちゃったんだよなぁ……。

「礼香、お前はなんて凄いんだ!」

レイちゃんの行動を見た昭一郎さんは感極まった様子で、涙腺が崩壊してしまう。

「お父様、わたくし、やりましたわ!」

「ああ! 私は見届けたぞ! 霊薬も挑戦してみるといい! そもそも、雲上院家としては霊術が使えるかどうかは問題ではない。失敗してもいいんだ。礼香、思う存分やってみなさい!」

「お父様!」

見つめ合って涙し、抱き合う二人。

んー、そうなっちゃうかぁ。これは割り込めないし、止められない流れ。

飲んでいくことに決まってしまったようだ。

偽物を飲んで諦めさせる作戦だったが、失敗である。

それにしても……。

「あの霊薬もどきを飲みきるなんて、凄いよ。私、びっくりしちゃった」

ピーマンも苦手と言っていたレイちゃんが、霊薬もどきを飲み干してみせた。

正直言って舐めていた。

お嬢様だし、さすがにこういう系統は無理だろうと。

いくらマンガのキャラクターと違うとはいえ、舌の肥えた生粋のお嬢様には難しいだろうと。

そう思っていた。だけど、レイちゃんは違った。

雲上院家の一人娘としてのプライドがそうさせるのだろうか。

いつも挑戦的で、前に進んで行く。

あれを飲みきれるなら、いけるかもしれない……。

しょうがない、こうなったら全力で応援するかぁ。

「私もレイちゃんが成功できるよう、応援するよ。半年間、一緒に頑張ろう!」

「マオちゃん……」

「うん!」

私はレイちゃんと、がっちりと握手を交わす。

この日を境に私たちの霊薬挑戦の日々が始まった。