軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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――そうだ、マンガだ!

確か、アニメ化もされていたはず。

キッカケを掴むと、後は簡単。元ネタキャラのことも思い出す。

頭の中で、元となったキャラクターと彼女を見比べると、そっくりだ。

実写化したら、こんな感じになるだろうという姿である。

いやあ、本気度が凄いな。

これだけこだわりを持って完全再現しているなら、相当なファンだろうし、話題も盛り上がるはず。

そう考えた私は、早速話しかけた。

「そのコスプレ、気合入ってるね。原作再現バッチリじゃん」

「は? わたくしの外見を揶揄されているのですか」

ブチ切れられた!?

なんで?

わ、話題のチョイスをミスったか……。

落ち着け私。まだ、負けたわけじゃない。打つ手は残されているはずだ。

「え、でも、きら☆スピのコスプレでしょ?」

「きらす……?」

だ、駄目だ。かみ合わない。

もしかして、タイトルを知らずにコスプレしてるの?

「ちょっと待って!」

私は車を端に寄せて停止。

マンガアプリで、きら☆スピを購入。

あ……、焦って全巻購入しちゃった。……まあ、いいか。

私は表紙画像を表示した携帯端末を彼女に見せる。

「ほら、これだよこれ。悪役令嬢をチョイスするなんて渋いよね」

「ふむ。マンガアプリの様ですね。それが何か……」

思ってた反応と違う!

なんで、そんな真顔で疑問顔になるのよ!?

これ、どう見ても貴方がコスプレしているキャラの元ネタでしょうに。

あ、そうか。トップに悪役令嬢が載っていないからか。

主人公が主軸のイラストだから、分からないんだ。

「よ、読んでみてよ! そしたら私が言っていたことが分かるからさ」

「まあ、ホテルに着くまででしたら……」

と、渋々といった感じに私の携帯端末を受け取る女の子。

そこから、彼女はきら☆スピを読み始めた。

って、早いな!?

彼女のページをめくる速度が尋常ではない。

「そんなに面白い?」

「今のところ、特には」

「そ、そう? 凄い早さで読んでたから、面白いのかと思ったよ」

「普通の速さですよ?」

「あ、はい」

私から見ると高速に見えたんだけどな……。

というわけで、無理に話そうとしなくてよくなってしまう。

ふむ、話題がなくて困っていたけど、これはこれでいいか。

と、二人無言のまま、車を走らせることとなる。

しかし、そんな静寂が続いたのは、二〇分程度だった。

いきなり、バキリという何かが押し潰されるような不穏な音が聞こえたのだ。

やばい、車にトラブルか!? レンタカーなのに勘弁してよ。

車を止めて異常を確認するも、問題なし。

それじゃあ、今の音は一体なんだったの?

と、隣を見て理由が判明。

女の子が私の携帯端末を握り潰していたのだ。

「ちょ、何やってるの!?」

そもそも、なんで人間の握力で壊せるわけ?

そんな強度の製品じゃないんですけど。

「ご、ごめんなさい。つい、感情的になってしまって……」

と、申し訳なさそうな顔で、謝罪してくる女の子。

続けて「後で弁償します」と言う。

「いいよ。ちょうど新しいのに買い換えたいと思っていたしね」

こんなことで子供からお金を取るわけにはいかない。

ちょっと痛い出費だけど、仕方ないね。

それより、なんで握りつぶしたりしたのだろう。

気になった私は尋ねた。

「びっくりしちゃうほど、面白かった? 私も好きな作品だけど、そこまでじゃないかな」

「いえ、そうではありません。友人に似たキャラクターが登場していたのですが、その描かれ方が悪意に満ちていたので、つい……」

「へぇ、悪役令嬢より、友達のキャラなんだ」

マンガに友達に似たキャラが出たからといって、そんなに怒ってしまうものだろうか。

まあ、悪役令嬢のコスプレをするくらいだから、普通の人とは趣向が違うのかもしれない。

「ええ。自分の事が悪しざまに描かれるのは、まだいいのです。ですが、親友まで貶されるのは許せません!」

と、怒りをあらわにする。

それと同時に、彼女が握っていた携帯端末が、もう一段階小さくなった。

人力プレス機状態だ。

さらば、私の携帯端末。安らかに眠れ。

「そ、そうなんだ。で、友達にそっくりって、どのキャラクターのことを言ってるの?」

「それはもちろん! この……、あれ……」

途中まで勢いが良かったが、段々言葉尻が怪しくなり、最後は沈黙してしまう。

「どうしたの?」

「どのキャラクターか分からなくなってしまいました。……あれだけ、苛立ちを覚えたのに、どうして……」

「まあまあ……、落ち着いて。その友達も、それだけ怒ってくれたら感極まってるよ。はぁ……、私もそんな風に怒ってくれる友達が欲しかったなぁ」

私には、自分の事のように怒ってくれる友達なんていない。

それは結局、自分の人間関係が希薄だっただけ。

ないものねだりでしかない。

でも、彼女が本気で怒る姿を見ていると、その友人が羨ましく思えてしまった。

「そうでしょうか……」

とうの彼女は、自分の状態が理解できないのか、呆然となっている。

これは、精神的にかなり不安定なようだ。

早くホテルへ行って、休ませてあげた方が良いかもしれない。

その後の道中は順調そのもの、無事にホテルへ到着した。

フロントへ着くや否や、彼女が得意げな顔で財布を取り出した。

「先ほどは申し訳ありませんでした。お詫びと言っては何ですが、こちらの料金は、わたくしに支払わせてください」

そう言って、真っ黒なカードを取り出す。

あ……、あれは、ごく一部の富裕層しか持つことが許されないカード。

まさか、こんなところで初めてお目にかかることになるとは……。

と、驚愕している間に、彼女が予約時間から色々突き止め、勝手にチェックインを済ませて、カードで支払いを行おうとする。

おわ、油断も隙もない。あの子、やたら動きが素早いんだよね……。

私は慌てて、止めに入ろうとした。

が、フロントでは係の人が困惑顔。

どうやら、カードが使えなかったようだ。

「トラブルですか……。仕方ありませんわね。それでは現金で」

と、彼女が財布から紙幣を取り出す。

しかし、それは見たこともないデザインのお札だった。

書かれている文字は日本語なので、別の国の紙幣という可能性はゼロ。

精巧な作りだが、おもちゃの紙幣ということになる。

うーん、コスプレに命かけてるなぁ……。

でも、受付でのロールプレイは、完璧なマナー違反。

素人さんを巻き込んで、シチュエーションプレイに興じるなど、御法度中の御法度だ。

コスプレには、様々なマナーやルールが存在する。

そういう意味でいうと、彼女はかなり濃いめのグレー。

見る人が見れば、厳重注意対象である。

基本、イベント主催者が著作権者に許諾を得たイベント会場内だけがコスプレOKの範囲内。

私的利用が適用される範囲は非常に狭い。

主催者側がアニメ、マンガに無関心な場合は、コスプレOKと言っても、吸血鬼やミイラみたいなハロウィンイベントのようなコスプレがOKという意味に留まる場合すらある。

今の彼女は、完全にそういったラインに抵触している。

定められた場所以外で、コスプレしているわけだしね。

だけど、そういうラインに接触しても、ギリギリ許されている人たちもいる。

いわゆる、モノマネ芸人だ。

衣装や顔もキッチリ合わせて、営業をしてお金を稼いでいる。

有名になってから許可を得ている場合もあるだろうけど、事前にそういった交渉をしてからデビューする人は稀だろう。

そういう人と比較すれば、彼女はマイルド。

別にお金を取っているわけではないし、SNSに投稿しているわけでもない。

キャラクターを通して、全く無関係な自分の主義主張を拡散しているわけでもない。

それ以前に、彼女はきら☆スピを知らなかった。

そうなってくると、オリジナルキャラのコスプレということになるのかも……。

いや、日常生活まで落とし込んでいるし、コスプレという概念とは違うかもしれない。

むしろ、成りきり?

アイドルの設定で宇宙人や、おとぎの国出身みたいな想像上のキャラクターを演出しているタイプの方が近い気がしないでもない。

いや、でもやっぱり、コスプレだよなぁ。

正直、設定部分で甘いところがあるし、原作とは真逆の性格。

客観的事実を並べると、解釈不一致で原作ファンのヘイトを買うような要素が複数ある。

……だけど、この子を見た原作ファンは絶対、その完成度に感嘆すると思うんだよなぁ。

綺麗な雲上院礼香とか言って、喜びそうな気がする。

醸し出す雰囲気がやけにリアルなんだよねぇ……。

私は、そんなことに頭を悩ませながら、フロントに謝罪しつつ手続きを引き継ぐ。

そして、宿泊人数を二人に変更。部屋もツインにチェンジした。

料金を支払い、食事をとって、部屋へ向かった。

そこで彼女が、外線を使いたいと言うので承諾する。

が、受話器を持ったまま、ボタンを押そうとしない。

聞けば、番号を思い出せないと言う。

まあ、家出ならそうなるよね。

実際は覚えているのだろうけど、ためらって電話を掛けられないのだ。

「色々あって混乱してるから、度忘れしたんだと思うよ。その内思い出すだろうから、焦らなくても大丈夫だよ」

と、言っておく。

こういうのは時間だ。時間を掛けて気持ちが落ち着けば、相談しようと考えている相手にも素直に話せるはず。

だけど、女の子は納得できない様子で、落ち着きがない。

「明日も手伝うからさ。今日はもう休もう」

「いえ、明日は一人でやります。これ以上、貴方の手を煩わせるわけにはいきません」

「そんなこと気にしなくていいよ。もともと、思い付きの無計画旅行だったから、大した目的もなかったんだよね。だから、納得するまで手伝うよ」

仕事をしていれば、そんな言葉が出てくることもなかっただろう。

だけど、こちとら入院を控えて、絶賛暇だらけの身。

多少の無理は利くのだ。

そんな感じで会話が一区切りついたところで、お互いベッドに入る。

女の子の要望で、室内の照明は付けっぱなし。

いつもなら何ともないが、今日はその方が眠れそうだと言う。

こんなことは小さい頃以来だと、納得いかない様子でブツブツ呟いている。

そんな一幕を挟んで、就寝。

だけど寝付けないのか、女の子が話しかけてきた。

「なぜ、見ず知らずのわたくしに、そこまでして下さるのですか?」