作品タイトル不明
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せめて、日高の姿だけでも撮っておかないと。
私が慌てて撮影しようとした瞬間、首筋にチクリと小さな痛みが走った。
虫に刺されたのだろうか。
首元をさすっていると、後ろの二人も同じように首の痛みを訴えた。
いけない、そんなことより画像を撮らないと。
そう思って日高を探すと、ずいぶん遠くに行っていた。
しかも、俳優はどこにもいない。完全に一人の状態だった。
それでも何も撮らないのはまずい。
私は車道へ接近。日高を撮ろうと後を追う。
その際、携帯端末を落としそうになり、咄嗟に両手で持ち替えた。
どうもさっきから、指先が冷えてかじかんだようになり、うまく力が入らないのだ。
携帯端末を落とさずに済んだことに、ほっとしていると背後から強い衝撃を受けた。
誰かが、ぶつかってきたのだ。
接触してきた相手を睨もうとするも、凄まじい勢いで走り去ってしまう。
結局、顔も分からないまま、どこかへ行ってしまった。
「あれ?」
と、ここで手の中に携帯端末がないことに気づく。
手の感覚が薄れているせいで、手放してしまったことに気づかなかったのだ。
一体どこに行ったんだと辺りを見回し、車道に落ちている事に気づく。
ぶつかられた瞬間に飛んでしまったのだ。
すぐに見つかってよかった。そう安堵しつつ携帯端末を取りに行こうとする。
すると私の目の前をバイクが通り過ぎた。
もしかして、携帯端末を轢いたのでは!?
焦った私は道路を見る。すると、携帯端末は無傷。
バイクが通った位置と微妙にズレていたようだ。
私はほっと胸をなでおろし、改めて携帯端末を拾いに行こうとする。
が、次の瞬間、汽笛の様なクラクションが鳴る。
慌てて後退ったのと同時に、車を五台積載したトレーラータイプのキャリアカーが目の前を通過した。
「きゃぁあっ!」
私の胸くらいの高さがあるタイヤが、高速で何個も通り過ぎていく。
そのタイヤと私の携帯端末が交互に見えた。
「ぁぁ……」
キャリアカーが走り去ると、無残な姿となった携帯端末が道路の上に残っていた。
画面は粉々。数秒前より薄くなった気がする。
振ればカラカラと音が鳴った。
結果、その日の計画は全て失敗に終わった。
瀬荷城さんは私の撮影の腕が悪いと執拗になじった。
そして今度は因幡さんに撮影をさせ、もう一度やると言い出した。
しかし、それに対して因幡さんは何とか断ろうと、言い訳を募らせた。
そりゃあそうだ。失敗したら私と同じ目に遭う。そんなのはまっぴら御免なのだろう。
それじゃあ、自分でやると瀬荷城さんは言ったが、盗撮計画は実行に移されなかった。
理由は単純で、短期間に財布を落とす男が二度も現れたら怪しいから。
財布以外の手段でも、こんな短期間に何度も男が近づいてくるのは不自然極まりない。
というわけで、一時的に見送りとなった。
そして、気分屋の瀬荷城さんは、しばらく経つとどうでもよくなったと言い出し、計画の再考を面倒くさがり、中止が決まったのだった。
というわけで、盗撮計画の成果は、私の携帯端末が極薄になって使用不能になったことのみだった。
本当に最悪だ。
幸いだったのは、携帯端末を買ってすぐに今回の事故に遭ったこと。
保証期間中で、保険にも入っていた。
条件はそろっているので、新品に交換してもらえるだろう。
それでも、ショックなことに変わりはない。
引き継いだデータが無事だといいけど……。
◆日高千夏
ある日の下校中。
急に飛び出してきた人が財布を落としたので、拾って渡した。
すると、お礼に食事に誘われた。拾っただけで、そこまでしてもらうのは悪い。
そう思ったので断った。
普段なら、それで終わる話だ。
だけど、その人はしつこかった。何度も食事に誘ってきたのだ。
こうなると警戒心が生まれる。もしかして、わざと財布を落としたのだろうか。
私は今、煌爛学園の制服を着ている。
もしかすると、お金持ちのお嬢様と勘違いして、何か良からぬことを企んでいるのでは……。
そう考えた私は全力で拒否し、その場を立ち去った。
と、その瞬間、強烈な悲鳴が聞こえた。
何事だろうと、声が聞こえた方を見れば、両手を顔に当てて絶望の表情となっている四谷さんがいた。
その視線の先には、ひび割れた液晶画面が痛々しい携帯端末の姿があった。
どうやら、車道に落とした後に車に轢かれたようだ。
あれは、どうしようもない。修理の対象外になるだろう。
そう思って見ていると、四谷さんの後ろから瀬荷城さんと因幡さんが現れ、口論を始めた。
あの三人はいつも一緒にいる。だから、見慣れた光景ともいえる。
だけど、帰り道で見かけるのは初めてだ。
そもそも、彼女たちは車で通学している。用事が無ければ、こんな所にいるわけがないのだ。
そこで私はハッとなった。
もしかして、さっき声をかけてきた男は瀬荷城さんが何かしたのでは……。
彼女は、何かと私にちょっかいをかけてくる。だから、ついそんな発想に至ってしまった。
だけど、そこで考え直す。さすがにそこまでするはずがないか。
そう思って、後ろを向く。
すると、さっきの男が通りの奥から姿を現し、私と同じように四谷さんの方を見ていた。
数秒後、こちらの視線に気づき、驚いた顔をして逃げ出した。
――え、本当にそうなの?
男の挙動不審な動きを見て、一気に信ぴょう性が増してしまう。
もしかすると、私とあの男が話しているところを撮影しようとしていたのかもしれない。
それに失敗して、携帯端末を落とした……。
安直すぎる発想だろうか。少し被害妄想じみている気もする。
やっぱり、単に偶然が重なっただけかもしれない。
と、ここまで考え、今までもこんな感じで不自然に自分に都合が良かったことがあったことを思い出す。
もしかして、物が無くなった時のように誰かが手を回してくれたのかもしれない。
そのお陰で四谷さんは撮影に失敗し、携帯端末を落としてしまったのでは……。
そう思って、周りを見回すも他に人影はない。
やっぱり、私の考え過ぎだろうか。
◆九白真緒
監視を行っていると、狙い通りにイベントが発生した。
まず、日高さんに近づいた俳優には、探査霊体を付けて威嚇。
四谷真理には指弾を見舞って、カメラの照準を逸らす。
更に、霊術で軽く砂を舞い上がらせて視界を塞いだ。
その副産物で目つぶしとしても機能したようだ。
その間に、探査霊体を使って俳優が日高さんの後を追うのを阻止。
それと同時進行で、四谷たちに威力を弱めた麻酔弾を撃ち込んだ。
締めに、日高さんを追いかけた四谷真理の背後から探査霊体に体当たりをさせて、携帯端末を車道に投げ出させることに成功。
最後のとどめはキャリアカーが刺してくれた。
これで、今回は完全妨害に成功した。
勝因は、日高さんに仕掛けたGPSと瀬荷城宝子の監視を強めていたことだ。
その結果、一切の遅れなく動き出すことが出来た。
四谷真理が動画ではなく、画像の撮影を選んでくれたお陰で対応もしやすかった。
これで四谷真理の携帯端末は使い物にならなくなったと思う。
一応、適当なタイミングで盗み出して、データがどうなったか確認しておこう。
クラウドに保存されている可能性を考え、撮影自体を邪魔したが、ここまで徹底すれば大丈夫だろう。
というわけで、イベントの発生阻止に成功した。
瀬荷城宝子たちは、四谷真理が声を上げたことにより、日高さんに存在がバレて撤退。
俳優の男も、そのタイミングで逃げ出してしまった。
しかし、日高さんは瀬荷城宝子たちが立ち去ったのに、周囲を見回している。
というか、瀬荷城宝子たちや俳優を探しているわけではないようだ。
むしろ、私の事に気づいて探しているような?
姿も気配も完全に消しているのだから、気のせいだとは思うけど……。
ひとまず、さっさと撤退しておこう。
――その後、瀬荷城宝子が再び捏造撮影を行うか様子を見たが、そうなることはなかった。
きっと、財布を拾って接触するというシチュエーションが何度も使えないからだろう。