作品タイトル不明
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◆とある俳優
俺は映画出演を目指す新人俳優。
中々オーディションに受からず、苦しい生活を強いられている。
そんな中、金持ちのお嬢さんから依頼を受けた。
依頼内容は対象の人物を食事に誘って、一緒に飯を食って欲しいらしい。
そんなことで金が貰えるなんて、金持ちのすることは分からない。
しかし、こちらとしてはありがたい。
そんな簡単な仕事で金が貰えるうえに、一食分浮くのだ。依頼を断る理由がなかった。
お嬢さんの家の車に乗せられ、車内で説明を受ける。
なんでも、クラスメイトのお坊ちゃんに金目的ですり寄る女子を遠ざけたいらしい。
なるほど、俺と食事している画像を見せて、彼氏がいるって思わせたいわけね。
本当かどうかは分からないが、俺との画像を見せられた位で関係が終わるなら、元々その程度だったってだけだ。
これなら大した罪悪感も覚えない。気楽にやれそうだ。
ナンパ男役の練習にもなるし、俺にとっては美味しい仕事だ。
俺は、お嬢さんに画像を見せてもらい、ターゲットである女子の顔を確認する。
一見すると普通の女の子だ。こいつが金持ちの坊ちゃんに色仕掛けをしていたのか。
人は見かけによらないものだな。
画像を確認し、手順の説明を聞き終わった頃、丁度ポイントに到着する。
ここで待ち伏せし、近所のファミレスに誘えばいいらしい。
俺は曲がり角に隠れて女子が現れるのを待つ。すると、数分と経たないうちに現れた。
よし、後はぶつかるだけだ。
歩数をカウントしながら待っていると、案外緊張してくる。
そんな事を考えているうちに、女子が近づく。
俺はタイミングを見計らって飛び出した。
女子に軽くぶつかって謝り、財布を落とす。
すると女子が財布に気づいて拾ってくれた。よし、完璧だ。
後は適当に話して、食事へ連れて行くだけだ。
俺は、財布の中にクレカと祖母の形見が入っていたことを告げ、大げさに礼を言った。
次いで、お礼に食事をご馳走したいと強引に持ちかける。
ここからは相手の返事を無視して、ひたすら押し切れば行けるだろう。
そう思っていたのだが、何となく女子の後方を見た瞬間、異常なものが視界に入った。
なんと、女子の数歩後ろに、ガスマスクを付けた男がいたのだ。
そいつが腕組みした状態で、こちらをじっと見ている。
もしかして、と俺は背後を見た。しかし、誰もいない。
つまり、あの男は俺を見ていることになる。
なんなんだ、あいつは……。すげえガタイしてるし、怖いんだけど。
そう思って振り向くと、ガスマスクの男が二人に増えていた。
は?
見間違いか、と思って目をこすって再度見る。
すると四人に増えていた……。
意味が分からん。どういうことだ。ポケットの中のビスケットじゃないんだぞ。
どんだけ早足で集合しやがったんだ。
ガスマスクの男たちは立ち去る気配がない。微動だにせず、こちらを見ている。
もしかして、この女子の知り合いなのか?
そう思って、後ろの人はあんたの知人なのかと女子に尋ねた。
その言葉を受け、首を傾げた女子が後ろを見る。
すると男たちは、女子が完全に後ろを向く前に、砂の様になって跡形もなく消えてしまった。
俺は声を上げるのも忘れて、恐怖していた。
ゆ、幽霊だ……。あの見た目だ、絶対に悪霊だ!
軍人だ! 軍人の地縛霊に違いない! くそっ、ここは有名な心霊スポットだったってわけか……。
俺の予想は的中し、女子がこちらに向き直った瞬間、男たちが人の形へと戻っていく。
数秒後には元のガスマスク姿となって、同じ場所に現れた。
……しかも、八人になって。
地縛霊は腕組みした状態で、じいぃっと、こちらを見てくる。
そして全員が同時に半歩ズレた。途端、十六人に増えやがった……。
と思ったら十六人の背後から新手が現れ、三十二人になった。
そいつらが縦三列に並んで一人ずつタイミングをずらして体を回し始めた。
い、威嚇行動だ……。う、腕までグルグル回してやがる。
俺が幽霊に気を取られている間に、女子は食事の誘いを断って立ち去り始めた。
まずい、これでは金が貰えない。
慌てた俺は女子の後を追い、もう一度食事に誘おうとした。
しかし、そこで腕を掴まれた。
……まさか、と思いつつ、掴んできた相手を見る。
それは紛れもなく、地縛霊だった。
ガスマスクを付けた軍人の怨霊たちが一斉に俺の体を引き寄せてくる。
体が硬直した俺は、あまりの力に抵抗できず、なすがままになってしまう。
怨霊軍団は俺を引きよせ、胴上げでもするかのように担ぎ上げた。
そして、そのまま人気がない方へと移動していく。
俺は恐怖のあまり呼吸が乱れ、蚊の鳴くような小さな悲鳴を上げるのがやっとだった。
と、その時、俺以外の甲高い悲鳴が聞こえた。
何事だと、そちらに視線を送った瞬間、浮遊感を味わい、尻もちをつく。
気が付けば、ガスマスクの怨霊軍団は消えてなくなっていた。
また現れるのではと、焦った俺は慌てて周囲を見回す。
しかし、それ以降、怨霊が現れることはなかった。
どうやら行ってしまったようだ。
俺は、帰りに塩を買うことを心に固く誓った。
◆四谷真理
私は四谷真理。煌爛学園高等部の生徒だ。
今日は、学校で行動を共にさせていただいている瀬荷城宝子さんの指示で待ち伏せを行っていた。
今回の私は撮影係。
先日、最新機種を購入したと話したせいで、そんな役に抜擢されてしまった。
何をするかと言えば、瀬荷城さんが雇った俳優を日高千夏にけしかけるので、それを盗撮する係だ。
日高は車道を挟んだ向かい側の道路を通る。そこに俳優がぶつかって、きっかけをつくり、近くのファミレスへ誘うということになっていた。
私たちは物陰に隠れ、その時を待つ。
すると、日高がやってきた。
それを確認し、角に隠れていた俳優が最接近した瞬間を見計らって、ぶつかりにいく。
よし、ここから撮影だ。
私は携帯端末を構え、路上で談笑する男女に見えるタイミングを狙って撮影を試みる。
「あ」
しかし、カメラ機能をオンにした瞬間、どこからともなく小石が飛んできて携帯端末に当たった。
結果、まったく違う方向を撮影してしまう。
それと同時に、「いたっ」と声が聞こえた。
声の方を振り向けば、瀬荷城さんが額に手を当てていた。
小石が跳ねて、彼女に当たったようだ。
怒った瀬荷城さんが私を責めてくる。いや、私は関係ないんだけど……。
と言ったとしても彼女には通用しない。私は瀬荷城さんが納得するまで謝った。
その後、携帯端末を構え直し、改めて二人を撮ろうとする。
すると今度は強風が吹いた。物凄い突風だ。
周囲の砂を巻きあげ、前が見えなくなる。
「う、砂が……」
私の目にも砂が入り、思わずまぶたを閉じる。
それは、私だけではなかった。後方にいた二人も目を開けられないと言っている。
数秒後、なんとか痛みが治まり、目を開ける。
その時には日高が一人でその場から離れだしていた。
どうやら、俳優の誘いを断ったようだ。
これはもう駄目だ。
今の状態を撮影しても、一人で歩いている姿が撮れるだけ。
でも、何もしないと瀬荷城さんから叱責を受けてしまう。
せめて、日高の姿だけでも撮っておかないと。