軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

72:双子の姉は情勢を動かす

ディアナが屋敷へ戻って間もなく、アランも公爵邸へ帰ってきた。

外套を脱ぐなり、真っ直ぐ愛する妻の元へ向かう。

「おかえりなさい」

アランの帰りを聞きつけ、出迎えたディアナが腕の中に飛び込む。

その仕草に頬を緩めながら、アランがディアナの顔を覗き込んだ。

「体調はどうだ?」

「大丈夫ですって。アラン様もお父様も、心配しすぎです」

アランの言葉に、ディアナが頬を膨らませる。

ディアナがこのような幼い素振りを見せるのは、アランの前だけだ。

それを分かっているからこそ、アランも苦笑交じりにディアナの身体を抱きしめた。

「心配にもなる。もう一人の身体ではないのだからな」

家族の愛を知らずに育ったアランにとって、ディアナが与えてくれるものは、計り知れない。

同時に、それを失うかもしれないという不安が、アランの心を深く蝕んでいた。

「王城の様子は、如何でしたか?」

地下牢に収監されたエルドレッド公爵クライドの様子を見る為に、アランは度々王城に足を運んでいる。

元は王弟であり、王国騎士団にも属していたアランだが、今やローレンスも貴族達も、彼が王城へ足を運ぶことを酷く警戒していた。

「面会の時は、まるで捕り物に向かうかのような大所帯だ」

「まぁ」

アランが罪人に何か指示を出してはいないか。

逃亡の手助けをするのではないか。

そんな疑念が拭えないのだろう。

アランが地下牢に向かう度に、大勢の騎士達が後を付いて回る。

そもそも、クライドは自ら望んで地下牢に入ったのだ。

事情を知るだけに、その大袈裟な警戒ぶりには苦笑するしかない。

騎士達に「ご苦労」と声を掛けただけで、懐柔のつもりかと睨まれる始末だった。

「騎士達の中には、随分とこちらに親身になってくれる者も増えてきている」

「そうですか、では……」

クライドの能力は、地下牢の中で遺憾無く発揮されているということなのだろうか。

ディアナがホッと胸を撫で下ろしたのも束の間、アランの眉間に深い皺が刻まれた。

「ただ、一つ問題があるとすれば……牢の環境があまり良くない分、体力の消耗がかなり激しいようだ」

アランの言葉に、ディアナが唇を噛む。

地下牢など、元々快適な訳がない。

公爵家の嫡男として不自由のない生活を送ってきたクライドにとっては、長い時間を過ごすことは、苦痛でしかないはずだ。

「それは、ケイリーには……?」

「様子は伝えてある」

兄の身が保たないとなれば、エルドレッド家は、当主の奪還に動くことになるだろう。

それ即ち──ラトリッジ王国が内戦に突入するということだ。

「王家も、不穏な気配を嗅ぎ取っているのだろうな。騎士団の空気は、まるで開戦前のようだ」

アランがため息交じりに呟く。

王家とエルドレッド家の正面衝突──この期に及んでは、どうあっても犠牲は免れない。

苦しげに目を閉じるディアナの頬を、アランの大きな掌が撫でる。

「大丈夫です、もう覚悟は出来ていますから……」

一度死んで、目を覚ましたあの時から──平凡な道を歩むことなど、とうに諦めていた。

茨の道であろうとも、血の川を泳ごうとも、自分と大事な人を守る為に精一杯足掻こうと決めていた。

今更、迷いはしない。

たとえ多くの犠牲を払うことになろうとも、前へ進むしかないのだ。

深夜、ディアナは自室で筆を取った。

送り先は、フィーラン王国の海軍提督カーティス・マクブライド。

文に 認(したた) めたのは、たった一言──、

『貴方は、どちらに味方しますか?』

返事は言葉ではなく、情勢の変化として返ってきた。

翌月、国境付近で紛争が勃発したのだ。

兵達が戦地に向かう準備が、着々と整えられる。

隣国エルウッド王国は、フィーラン王国の支援を受ける国。

情勢は、静かに動き始めていた。