軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

69:公爵は膝を突く

ラトリッジ王城謁見の間には、数多くの貴族達が並んでいた。

両端を彩る廷臣達の列。

その間を、左右を騎士に挟まれて歩くのは、ガザード公爵家と並ぶ王国貴族の最高位――エルドレッド公爵クライドだ。

罪人のような扱いを受けながらも、彼は顔を上げ、毅然と歩を進めた。

居並ぶ貴族達が、密かに囁き声を交わす。

誰にとっても、エルドレッド公爵家の謀反は予想外の出来事だった。

それもそのはず、エルドレッド公爵の妹ケイリーは、王太子の婚約者だ。

何もせずとも王家との繋がりが保証されている家が、なぜ叛意を抱くのか。

その疑問に、誰一人として納得のいく答えを持てなかった。

「叔父上、ご苦労であった」

謁見の間、最奥の椅子に鎮座するローレンスが、クライドの背後に立つアランに声を掛ける。

叔父上と声を掛けながらも、続く言葉は、家臣に対して労を労う物だ。

ローレンスは言葉一つで、二人の立場を明確に知らしめてみせた。

アランも顔色一つ変えず、頭を垂れる。

国内最有力貴族に婿入りした王弟だが、依然王太子の権力は盤石。

居並ぶ貴族達の顔に浮かんだ安堵とも嘲りともつかぬ色が、そのことを物語っていた。

そして、ガザード公爵家と並び立つもう一人の大貴族当主は、こうしてローレンスの前に引き出されている。

もはや、王家に対抗出来る勢力など無い。

この場は、居並ぶ貴族達に王家と公爵家の力関係を見せつける為の舞台でもあった。

「さて、クライドよ」

ローレンスが、重々しく唇を開く。

「我が兄とまで思った其方に裏切られるとは、思わなかったぞ」

クライドは騎士達によって膝を突かされたままで、じっとローレンスの言葉を聞いていた。

憤るでなく、弁解するでなく、あくまで淡々とした態度だ。

「殿下、一つだけお聞かせください」

「なんだ」

クライドの言葉に、ローレンスが余裕たっぷりの笑顔で答える。

「既に玉座に就いたかのような振る舞いですが、陛下はいずこに?」

ローレンスの眉間に、僅かな皺が寄る。

「父上は病で伏せっておられる。既にその旨は、通達済みだ」

「これほど長い間……ですか?」

クライドのヘーゼル色の瞳が、真っ直ぐにローレンスを見上げる。

左右を騎士に挟まれてなお、年若い公爵は毅然と胸を張っていた。

「言いたいことは、それだけか──クライドを引っ立てろ」

ローレンスが大仰に指示を出す。

「仮にも、我が義兄となるはずだった男だ。殺しはしない。だが、その一生を牢獄で終えてもらうことになるだろう」

左右の騎士に腕を引かれ、強引に立ち上がらされたクライドは、そのまま連行されるようにして謁見の間を後にした。

途中、アランとクライドの視線が交差する。

互いに何の表情を浮かべることもなく、すぐに視線は逸れて、それっきり交わることはなかった。

一方、ディアナはガザード邸で客人を出迎えていた。

客人は、物々しい数の王国騎士に囲まれていた。

ピリピリと突き刺すような空気の中、優雅に微笑んでディアナに一礼する。

「ディアナ様、ご懐妊おめでとうございます」

「ありがとうございます」

二人のやりとりを見守る騎士達の表情は、固く険しい。

それもそのはず、ガザード家を訪れたのは、罪人として捕らえられたエルドレッド公爵クライドの妹ケイリーであった。

王太子の婚約者として王城に通うケイリーは、謀反に直接の関わりは見られなかったとして、罪に問われてはいない。

しかし、謀反は大罪だ。

クライドの罪が確定すれば、ケイリーだけでなく、エルドレッド公爵家そのものが連座で罰を受けかねない。

そのような中での、ガザード公爵家訪問。

騎士達が警戒するのも、当然だ。

ケイリーを油断なく監視する一方で、彼女はいまだ王太子の婚約者でもある。

今後クライドが裁かれる中で、婚約は破棄されるだろうと誰もが思いはしても、今はまだ表向きは婚約者のまま。

罪人の家族として扱うべきか、それとも貴人として扱うべきか──騎士達は皆、ケイリーへの態度を図りかねていた。

それは、ディアナも同じだ。

あのローレンスの婚約者であるからには、エルドレッド家は敵なのだろうと考えていた。

しかし、彼等はコーデリアの洗脳を解き、ガザード家に味方してくれた。

それだけではない、明確にローレンスに反旗を翻したのだ。

「今度は、ケイリー様を我が家自慢の温室にご招待いたしましょう」

「まぁ、嬉しい」

ディアナの言葉に、ケイリーが笑みを浮かべる。

公爵家の令嬢が二人、温室で茶を飲み交わすとなれば、騎士達に止める術はない。

せめて誰か傍にと申し出たが、それもガザード家の騎士によって拒まれてしまった。

ケイリー自身、罪人の家族であって、罪人ではない。

ましてや、ディアナは一切関わってはいないのだ。

ディアナに案内された温室で、ケイリーは咲き誇る花に目を細めながら、ティーカップに口を付けた。

その唇が離れた後、彼女の口からもたらされた言葉──。

「今頃、お兄様は無事に地下牢に入れたでしょうか」

微かな笑みさえ含んだ声だった。