軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百六十九話 いざ夢の国へ!

遊園地へと遊びに行く日の早朝。

まだ窓の外は暗い時間帯に晴翔は目を覚ます。

綾香や友哉達と予定を話し合った結果、夢の国へは始発の電車で向かう事になった。

晴翔はベッドから上体を起こすと、隣に視線を向ける。そこには手足を目一杯に広げて大の字で寝ている涼太がいる。

「相変わらず豪快な寝相だ」

晴翔は涼太の寝相に微笑みを浮かべる。

昨日の夜、遊園地が楽しみでハイテンションになっていた涼太は、晴翔と一緒に寝ると言い出した。そのことに綾香が少し羨ましそうな微妙な顔をしていたが、始発で朝が早いことや、同じベッドで寝ていた方が起こしやすいと、晴翔も涼太と一緒に寝ることを快く了承した。

晴翔は、気持ち良さそうに寝ている涼太の寝顔を見て、起こすことに軽い罪悪感を感じつつ、彼の肩をゆすって声を掛ける。

「涼太君、起きて」

「……ぅん……すぅー……すぅー……」

「涼太君」

「ぅにゃ? ……おに、いちゃん?」

「起きた?」

「……ふぇ? まだ夜だよ?」

涼太は眠そうに目を擦って窓の方に顔を向ける。そして、外がまだ暗いことを確認すると、何やらモニャモニャと呟きながら目を閉じてしまった。

そんな涼太の様子に、晴翔は苦笑しながら彼の耳元でそっと呟いた。

「涼太君、遊園地に行くよ」

「っ!?」

晴翔の言葉は効果絶大で、涼太の目が一瞬でカッと見開かれた。

「遊園地ッ!!」

「うん、準備しようか」

「するっ!」

眠気はすでにどこかに吹き飛んだらしく、涼太はガバッとベッドから起き上がると、昨日寝る前に準備してベッド脇に置いていた服に着替え始める。

晴翔もベッドから出て、涼太と並んで着替える。

「今日はみんなで夢の国に行くんだよね!」

「そうだよ。楽しみだね」

「うん! おねぇちゃんは起きてるかな? 僕起こしてくる!」

着替え終わった涼太は勢いよく部屋から出ると、すぐ隣の姉の部屋に突撃した。

その後ろを晴翔は微笑みながら付いて行く。

「おねぇちゃん!! 起きてっ! 遊園地に行くよ!」

「んぅ……うぅ……」

「おねぇちゃん! 起きて!」

「ぅん……んん……」

声をかけてもかすかな唸り声しか返してこない綾香。そんな姉の反応に痺れを切らした涼太は、綾香の掛け布団に手を伸ばす。

そして「起きて!」の言葉と共に、一気に彼女の掛け布団を吹き飛ばした。

「きゃっ!?」

「おねぇちゃん! 遊園地に行くよ! 夢の国だよ!」

「おはよう綾香」

「りょ、涼太!? 晴翔!?」

突然布団を剥ぎ取られた綾香は、驚きと混乱の入り混じった表情で涼太と晴翔を交互に見つめる。

寝起きの少し乱れた髪や、全体的に無防備でぽやんとした雰囲気を纏っている姿と、ビックリした表情が絶妙にマッチして、晴翔の目には彼女がとても可愛らしく映る。

「おねぇちゃん! 準備しないと! 早く着替えて!」

「着替えって、まだ予定の時間より少し早くない?」

綾香はまだ眠気が残っているような、のそのそとした動きで枕元のスマホを手に取り時刻を確認する。

「ごめん綾香。俺が涼太君を起こすのにもう少し時間がかかるかなって思って、ちょっと早めに起こしちゃった」

そう言いながら、晴翔は一瞬で覚醒してしまった涼太を見る。

彼はワクワク一杯といった様子で、ゆっくりとベッドの上で上体を起こした姉を見る。

「おねぇちゃん着替えは? 昨日の夜に準備しなかったの?」

「着替えはクローゼットの中よ」

「ここ?」

涼太は姉のクローゼットの方に顔を向ける。

「そうよ」

「ちゃんと早く着替えられるように、お布団の隣に準備しておかないとダメだよおねぇちゃん」

涼太は両手を腰に当てて綾香に説教をすると、彼は「仕方ないなぁ」というふうに、クローゼットに手を伸ばした。

それを見て綾香は慌てる。

「待って涼太! 着替えはおねぇちゃんが自分で用意するから!」

「僕もお手伝いしてあげる。その方が早いもん」

「それは大丈夫だから! し、下着とかも着替えないといけないから!」

綾香は急いでベッドから飛び下りると、涼太の前に立ちはだかる。

「下着? あ、ぱんつとぶらじゃーを替えるの?」

「そ、そうよ!」

綾香は晴翔がいるためか、少し顔を赤くしながら弟に頷く。

「おねぇちゃんの下着はどこ? ここ?」

「大丈夫だから! お姉ちゃん一人で着替えするから!」

横をすり抜けようとする涼太を綾香は脇を固めて阻止する。

早く遊園地に行きたい一心で暴走する涼太と、晴翔に下着を見られまいと顔を赤くしながら、弟を阻止する綾香。

朝から賑やかな攻防を繰り広げる東條姉弟。

晴翔は笑いを堪えながら、姉の防御を突破しようと試みている涼太の横にしゃがんで目線を合わせる。

「涼太君、お姉ちゃんの着替えはすぐに終わると思うから、その間に一緒に顔を洗いに行こうか」

晴翔がそう提案すると、涼太はピタッと動きを止めた。

「おねぇちゃん、すぐに着替え終わる?」

「終わる! 終わるから涼太は晴翔と一緒に洗面台に行って来なさい」

「わかった! おにいちゃんと一緒に顔洗う!」

涼太はクルッと体の向きを変えると、晴翔の手を掴んで綾香の部屋から出て行く。

晴翔は、背後に綾香の安堵の溜息を聞きながら涼太と一緒に一階へと降りて顔を洗って歯を磨く。

そして身支度を済ませてリビングに行くと、すでに清子がキッチンの明かりをつけて料理をしていた。

「あれ? ばあちゃんおはよう」

「おはよう晴翔。涼太君もおはよう」

「おはようおばあちゃん!」

元気な涼太の挨拶に、清子は顔の皺を深める。

「こんなに早く起きてどうしたの?」

晴翔はキッチンに向かいながら、首を傾げる。

「今日は早くに家を出て遊園地に向かうんだろう? だから、お弁当を作ってあげようかと思ってね」

「本当に? ありがとうばあちゃん」

当初の予定では、すぐに家を出て途中のコンビニで朝ごはんを調達する予定だった。

清子の話を聞いた涼太は、瞳を輝かせて彼女を見上げる。

「お祖母ちゃんお弁当作ってくれるの?」

「そうだよ。遊園地が開園するまでの時間に食べてね」

「うん! ありがとうお祖母ちゃん!」

元気良くお礼を言う涼太に、清子も幸せそうな笑みを浮かべる。

「ばあちゃん、俺も手伝うよ」

「もう準備は出来ているのかい?」

「昨日の夜に涼太君と一緒に準備は済ませてるよ」

晴翔はリビングの壁際に置いてあるリュックに視線を向けながら答える。

「なら、その鮭をほぐしてくれるかい?」

「わかった」

清子と並んで晴翔が手伝いを始めると、涼太も普段お皿洗いを手伝う際に使用している踏み台を抱えて持ってきた。

「僕もお手伝いする!」

「あら涼太君、ありがとうね。じゃあ、この握ったおにぎりをこの箱に詰めてくれるかい?」

「うん! まかせて!」

涼太も加えて三人でお弁当の準備をする晴翔。そこに、身支度を整えた綾香がリビングに入ってきた。

「あれ? 清子さんおはようございます」

「おはようございます綾香さん。いまお弁当を作ってますので」

「え!? ありがとうございます! 今日は日曜日なのにすみません」

清子の家政婦としての勤務日は火曜日から土曜日となっていて、日曜日は休日である。

休みであるにもかかわらず、朝早くに起きて弁当を作ってくれていることに、綾香は申し訳なさそうな表情を清子に向ける。

「いいんですよ。昨日の涼太君の様子を見ていたら、何かしてあげたくなってしまって」

清子は、昨日の遊園地が楽しみではしゃぐ涼太の姿を思い出しているのか、穏やかな笑みを浮かべる。

「本当にありがとうございます。私もお手伝いします」

そう言ってキッチンに駆け寄る綾香に、おにぎりを詰めていた涼太が嬉しそうな顔で姉に手に持っているおにぎりを見せる。

「見ておねえちゃん! 梅おかかのおにぎりだよ! 僕これ大好き!」

「良かったね涼太。ちゃんと清子さんに感謝するのよ?」

「うん! お祖母ちゃんにはいつも感謝してるよ!」

その後も卵焼きを焼いたり、清子特性のお弁当用ミニハンバーグに東條姉弟が歓声を上げたりと、賑やかにお弁当を準備する。

そこに、寝間着姿の修一と郁恵もリビングへとやって来た。

「みんなおはよう。なんか楽しそうだね?」

修一が賑やかなキッチンを見て言う。

「お父さんお母さんおはよう! いまお弁当の準備をしてたんだよ! ついでにお父さんとお母さんの朝ご飯も用意したよ!」

「あら、清子さんお休みの日なのにすみません。ありがとうございます」

涼太の説明を聞いて、郁恵が丁寧に頭を下げる。

「いえいえ、お弁当のおかずをそのまま使ったものですので」

「清子さんのご飯を日曜日にも食べられるとは、幸せな休日です。本当にありがたい限りです」

朝ご飯が用意されているということに、修一が瞳を輝かせた。

その後、完成したお弁当をリュックに詰め、出掛ける準備が整った晴翔達。

小さめのリュックを背負い、帽子もかぶって今すぐにでも外に飛び出したがっている涼太に、郁恵が手招きをした。

「涼太、ちょっとこっちに来て」

「なにお母さん?」

「はいこれ。遊園地で大事に使いなさい」

郁恵は首を傾げる涼太の手に、千円札を一枚握らせる。

涼太は母から貰ったお金に目を見開いた。

「こんな大金を僕にくれるの?」

「そうよ。普段からお手伝いをして、頑張って金を貯めている涼太は、千円を貯めるのがどれくらい大変か分かっているでしょう?」

「うん」

「なら、よーく考えて大切に使いなさいね」

「わかった!」

涼太は母の言葉に大きく頷くと、清子のもとに駆け寄る。

「お祖母ちゃん! 僕、お祖母ちゃんにお土産買ってくるからね! 楽しみに待っててね!」

「あら涼太君、ありがとうね。楽しみに待っているよ」

清子はかがんで涼太と目線を合わせると、相好を崩しながら彼の頭を撫でる。

そんなやり取りに、晴翔は微笑みを浮かべつつ涼太を呼ぶ。

「じゃあ涼太君、遊園地に向かおうか」

「うんっ!! みんな行ってきますっ!!」

元気一杯に手を振る涼太に続いて、晴翔と綾香も修一達に言う。

「行ってきます」

「行ってくるね」

そして、晴翔は涼太と手を繋いで東條家を出発した。