軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百七十話 爆誕『ブラウ兄ちゃん』

徐々に白み始めた空の下。

晴翔達が駅に着くと、そこにはすでに咲と雫が待っていた。

「あ、やっほー」

雫と話をしていた咲は、晴翔達の姿を見て軽く手を上げる。

「涼太もちゃんと起きれたんだね。凄いね」

「咲おねぇちゃんおはよう! あのね僕ね、おねえちゃんよりも早く起きたよ! だから僕がおねぇちゃんを起こしてあげたんだよ!」

「そうだったの? 涼太に起こされるなんて、綾香は気合いが足りないぞ?」

「涼太だって晴翔に起こされたくせに」

ドヤ顔を見せている弟に綾香は軽く反撃する。

「なら、おねぇちゃんも一緒におにいちゃんと寝たらよかったのに」

「それは……まだ……」

涼太の言葉に綾香はモジモジと恥ずかしそうにする。そんな彼女の様子に、眠気からか半眼の無表情になっている雫が呆れた声で言う。

「まったく、朝から桃色世界をおっ広げないでください。むっつりアヤ先輩」

「む、むっつりじゃないから!」

「自覚なしのむっつりとはタチが悪い」

「違うから!」

いつものように仲良く言い争いを始める綾香と雫を横目に、晴翔がリュックを軽く背負い直しながら咲に言う。

「藍沢さん、実は今日お弁当を作って持って来たから、開園待ちしてる時間にみんなで食べよう」

「まじ? コンビニで買う手間が省けて助かるー。ありがとう大槻君」

「咲おねぇちゃん! そのお弁当は僕もお手伝いしたよ!」

「お、偉いぞ涼太! 褒め讃えてあげよう!」

咲はしゃがんで涼太の頭をワシャワシャ両手で撫でる。涼太はくすぐったそうに目を閉じながらも、嬉しそうに笑う。

そうしているうちに、石蔵が駅へとやって来た。

「うす、おはよう」

「おはようございますカズ先輩」

片手を挙げて挨拶する石蔵に、晴翔も笑みを浮かべながら返事をする。

石蔵は咲に頭を撫でられていた涼太に目を向けると、少し腰を屈めてニコッと笑う。

「涼太君、おはよう。今日は一日よろしくね」

「っ!? は、はい……よろしくお願いします」

涼太は一瞬ピクッと肩を振るわせると、のそのそと晴翔の足元に撤退する。

その様子を見ていた雫が、綾香とのじゃれあいを止めて石蔵を見る。

「カズ先輩、幼児誘拐ですか? 人目の少ない早朝を狙っての犯行ですか?」

「違うわっ! 人聞きの悪いことを言うんじゃねぇ!」

石蔵はクワッと雫の方を向いて反論する。

「風貌は完全に凶悪犯ですが?」

「うるせ!」

石蔵は雫の言葉を一蹴すると、晴翔の足元にいる涼太との距離を指差して言う。

「初めて会った時は玄関からリビングまで逃げられたが、今は晴翔の足元までしか逃げられていない。つまり、俺は涼太君と確実に距離を縮められている」

自信満々に言う石蔵に、晴翔は内心「どっちも逃げられてますけど……」と苦笑を浮かべる。

石蔵の言葉を聞いた雫は「ふむ」と一度頷くと、涼太の近くでしゃがみ、石蔵を指差す。

「涼太君、このおっかないお兄ちゃんの名前はわかる?」

「え? えと……美味しいお菓子を作ってくれたお兄ちゃんで……名前は……」

石蔵の名前を聞かれた涼太は言葉を詰まらせる。

雫や友哉の名前は一発で覚えられた涼太。しかし、石蔵の名前は彼の放つ威圧感のショックによって覚えられなかったようだ。

必死に名前を思い出そうとうんうん唸る涼太の頭を雫は優しく撫で、そのまま石蔵を見上げる。

「涼太君、このおっかないお兄ちゃんは、美味しいブラウニーを作ってくれるお兄ちゃん。人呼んで“ブラウ兄ちゃん”です」

「ブラウ兄ちゃん?」

「そうです。ほら涼太君、一緒に呼んでみましょう。せーの……ブラウ兄ちゃーん」

「やめろ! 変な名前を涼太君に吹き込むんじゃねぇ!」

石蔵は自分に変なあだ名が付くのを防ごうと雫に抗議する。

二人のやり取りを聞いていた咲は、雫のネーミングに「ブラウに……ふふ」と小さく笑いをこぼす。その隣の綾香も手で口元を隠していた。

雫はもう一度涼太と目を合わせて『ブラウ兄ちゃん』の名を彼に刷り込もうとする。

「ブラウ兄ちゃんはキャッチーかつトレンディーで、オシャンティでありナウでヤングなネーミングです。ブラウ兄ちゃんは全然変じゃありません。さぁ涼太君、リピートアフターミーです。“ブラウ兄ちゃん”エディバディセイッ」

「エディバディセイッじゃねぇよ! ゴリ押しやめろ!」

必死な石蔵と楽しそうな雫。そんな二人を涼太は見比べると、トコトコとゆっくり晴翔の足元から離れて、少しだけ石蔵に近づく。そして、上目遣いに彼を見上げた。

「……ブラウ兄ちゃん」

「ッ!?」

涼太のつぶらな瞳に射抜かれた石蔵は、先程の雫への抗議など彼方へと吹き飛ばし、ニッコリと笑みを浮かべた。

「はーい、涼太君。ブラウ兄ちゃんだよ」

涼太にデレデレになっている石蔵をみて、雫は「チョロいです」と鼻を鳴らした。

「あの……ブラウ兄ちゃんは、今日雫おねえちゃんとデートなんですよね?」

「うん、そうだよ」

涼太から話し掛けてくれていることに、石蔵は上機嫌で「うんうん」と頷く。それに対して、雫はいつもの無表情が少し崩れて、なんとも言えない顔をしていた。

涼太は次に、咲の方に顔を向けた。

「咲おねえちゃんは、友哉おにいちゃんとデートなんでしょ?」

「え!? あ、あぁ……まぁ……友達としてね?」

咲は涼太の言葉にビックリしたあと、視線を泳がせながら曖昧な返事をする。

それを肯定と捉える涼太は、石蔵と雫、咲を順番に見てから言う。

「僕、みんながおねえちゃんとおにいちゃんみたいに、らぶらぶの恋人になれるように応援してますッ!」

純粋なエールを送ってくる涼太に、咲と雫が揃って顔を引き攣らせる。

しかし、生粋の子供好きである石蔵は、涼太の応援にとても嬉しそうな満面の笑顔を見せた。

「ありがとう涼太君! 涼太君の応援に応えられるようにブラウ兄ちゃん頑張るよ!」

強面の顔が輝きを放ちそうなくらい、眩しい笑顔をしている石蔵。晴翔は笑いを堪えながら隣の綾香に小さく漏らす。

「カズ先輩、もう自分からブラウ兄ちゃんって言ってるんだけど……」

「ふふ、涼太の中で和明先輩はもうブラウ兄ちゃんが確定しちゃったね」

「だね」

そう言って二人で笑いを溢していると、雫がグイッと石蔵に近付く。

「カズ先輩!」

「ん? なんだ?」

「涼太君を利用して私を攻略しようとしても無駄ですよ!」

「いや、別に涼太君を利用しようなんて考えてねぇよ。俺は純粋にお前のことが好きだから、今日のデートは嬉しいってだけだ」

「ッ!? そんなことを言われても私はビクともしません! 私はもう今までの私ではないのです! 今の私は雫ちゃんMk2なんですっ!」

「は? なんだそれ?」

胸を張って声高らかに宣言する雫に、石蔵はポカンとした顔をする。

咲と綾香も「?」と疑問符を頭の上に浮かべる。晴翔だけは「その設定、まだ続いてたんだな」と苦笑していた。

「雫ちゃんMk2は最強の雫ちゃんです。今までの雫ちゃんとは段違いに最強です!」

「……まぁ、よくわからんけど。雫ちゃんMk2だろうがMk3だろうが、俺はお前に振り向いてもらえるように、全力でお前が好きだと伝えるだけだ」

「ふんッ! 雫ちゃんMk2に隙はありません! 今のカズ先輩の言葉も完全スルーです!」

「いや、スルーはしないでくれるか?」

「うっさいです! さぁ! 大魔神カズ先輩! 生まれ変わった雫ちゃんMk2の凄さを見せつけてやります! どこからでも掛かってきやがれです!!」

謎に石蔵を挑発し出した雫は、突然「はぁ~」と気合いを入れるように呼吸を整えはじめた。と思った瞬間、彼女は物凄い速さで連続正拳突きを繰り出した。

「アタタタタタタタタタタタッ! アッタッタタタタタタタタタタ! ウアチャーーー!!」

まるで世紀末の覇者のような雄叫びを上げる雫。

彼女自身が空手の達人であることから、その高速正拳突きは残像が見えそうな程に動きにキレがあった。

「ちょ、おまっ! 早朝の駅で変な奇声をあげるんじゃねぇ!」

謎の奇行に走る雫に、さすがの石蔵も後ずさる。

それでも、無駄にキレのある高速連続突きを披露し続ける雫に、涼太が晴翔を見上げて尋ねてきた。

「ねぇおにいちゃん。雫おねえちゃんはなにをやってるの?」

「あぁ……あれはきっと、必死に戦っているんだよ」

「なにと?」

「……自分自身と、かな?」

「ふ~ん、すごいね!」

涼太はいまいちピンと来ていないようだったが、それでも雫の高速突きの凄さのインパクトが強くワクワクと目を輝かせて雫を見ている。

「ホワチャ! アチャチャチャチャ! チャッチャッチャッチャッチャ!」

「わかった! わかったから! 落ち着け!」

「アタタタタッ! なら簡単に好きだとか言うなですッ! タタタタタタタッ!!」

「言わないから! もう簡単には言わねぇって!」

石蔵は、雫の奇行を止めようと必死になる。そんな彼の言葉を聞いて、やっと雫は正拳突きを止めた。

「ふっ、カズ先輩敗れたり」

雫はスッと背筋を伸ばして、ゆっくりと石蔵を指差した。

「カズ先輩、お前はもうしん――」

「よっすー! ありゃ? みんなもう来てたのか」

雫の決め台詞を遮るように友哉が姿を現した。

彼は陽気に片手を上げながら、集合している皆を見渡した。

「なんかこっちから奇声みたいなのが聞こえてたんだけど、なんかあったのか?」

「Mk2の暴走だよ」

晴翔は短く友哉にそう言うと、涼太の手を繋いで全員に声を掛けた。

「さ、皆揃ったし改札を通ろうか」

遊園地に辿り着く前から、とても賑やかな晴翔達一行であった。