軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【別視点】戦争1

隊列を整えている間にスクデットからは笛と銅鑼の音が鳴り響いていたが、外からは何も変化は見当たらない。

しかし、確かに緊張感が高まっていく空気は伝わっていた。

「隊長、準備は完璧です!」

「うん、分かった。いつでも動けるようにね」

そう答えると、皆は持ち場に戻る。バリスタには二人ずつ、カタパルトには五人ずつが周りに立ち、いつでも動けるようにしていた。

この十日間、通常の騎士団の規律の厳しさを教えられ、騎士としての誇りを少し知ることが出来た。

これまではヴァン様に与えられた使命を果たすという一つの気持ちだけだったが、今は違う。

私たちの行動や働きが、ヴァン様の評価になると気付いたのだ。

「負けられないよ、皆。死んだらダメだけど、死んでも勝つ気持ちでいくからね」

「はい!」

私の言葉に、皆が大きな声で返事をする。その声を背に、私は戦場に向き直った。

「行くぞ!」

最前列の騎兵隊の中心で、ベンチュリー伯爵が怒声のような大声を上げた。

そうして、先発隊としてベンチュリー伯爵は馬を走らせ、スクデットの城門へと向かった。

すると、城壁の上に次々と兵の姿が現れ、中には杖を持つ者もいるようだった。その姿に、パナメラ子爵の騎士団が一気にピリつく。

新しい戦い方が出てきても、やはり四元素魔術師の脅威は変わらない。

使い方次第では数千の兵士に匹敵するのだから当然だろう。

「風穴を開けてやろう! 水流弾(アクアパイル) !」

馬を反転させながらベンチュリー伯爵が杖を手に叫んだ。

すると、杖の先に無数の雫のようなものが発生していき、やがてそれは流れを作り出して渦になった。

そして、水の渦はベンチュリー伯爵の杖の先から解き放たれる。最初は小さな渦だった水の魔術は離れていくほどに大きくなっていった。

最後には地面を削りとりながらスクデットの城門へと衝突する。

城壁が揺れるような激しい音と衝撃に、城壁の上にいた兵達が慌ててその場にしゃがみこんでいた。

「追従せよ! 我らの役割はここだ!」

「はっ!」

ベンチュリー伯爵の指示に合わせ、騎兵達は一斉に杖を手にする。

数秒後、炎や水、風、土の魔術が乱れ飛ぶ。その全ては城門へと集中した。

常識外の魔術の使い方だったが、お陰で頑強な筈の城門が見事に崩壊した。周囲の城壁まで一部が崩れてしまっている。

「お、おぉ、流石は名を馳せるベンチュリー伯爵の魔導騎兵部隊! 一流の魔術師をあれだけ揃えるとは……!」

感動する何処ぞの兵の声を聞きつつ、私はバリスタ班を見た。

「バリスタは十分攻撃出来る距離だけど、先走らないようにね。私達の目標はワイバーンだけだよ」

そう確認すると、皆が無言で頷く。

他の騎士団がどう動くのかはパナメラ子爵から聞いていないので分からないが、既にフェルティオ侯爵もフェルディナット伯爵も動き出している。

まるで羽を広げるように左右に展開していく二つの騎士団の動きは、戦場の光景ながら統制が取れていて綺麗だった。誰もが無駄な動き無く、一個の生命体のように滑らかに形を変えていく。

そこへ、イェリネッタ王国側も動きを見せた。

城壁の上から無数の兵が顔を覗かせ、弓矢を構える。そして、崩れた城壁の向こうからは、巨大な影が現れた。

どよめきは瞬く間に戦場の隅々にまで伝播していく。これだけ離れていても恐怖心に身が竦むような心地になるのだ。前線の兵達の感情など想像するに難くない。

暗い赤褐色の岩のような鱗と大木の幹のような四本の足。大型の馬車ですらゆったり通れる門を窮屈そうに潜り抜ける巨躯。

そして、獰猛さを体現したかのような鋭く光る双眸と牙。

紛れも無い、 成竜(ドラゴン) の登場である。

「な、何だと……!?」

「離れろ! 攻撃は魔術か弓矢のみでしか行うな!」

「接近したら踏み潰されるぞ!」

方々から必死に指示を出す声が聞こえ、城塞都市を包み込むように動いていた隊列が大きく歪んだ。

波打つようにぐにゃりと形を変えたまま、兵たちは一斉にドラゴンから距離を取る。

それもその筈だ。

ドラゴンなどと戦う想定はしていない。装備もそうだが、何より覚悟が違う。ドラゴンの亜種であるワイバーンと大型のドラゴンとでは比較にならないと言えるだろう。

「羽は無い! 赤銅地竜(アースドラゴン) だ! 正面には決して立つな! 息吹(ブレス) が来るぞ!」

ベンチュリー伯爵の指示が戦場に響き渡る。その指示のお陰で何とか隊列がバラバラになることは防がれたが、それでもギリギリの状態だ。

「……まずいな。今、左右から襲われたら間違いなく壊滅するぞ。皆がドラゴンに意識を持っていかれている」

パナメラ子爵が苛立ちを見せつつそう口にした直後、今度は前線の左右から怒鳴り声が上がった。

フェルティオ侯爵とフェルディナット伯爵の騎士団だ。

「敵はドラゴンばかりではないぞ! ドラゴンの足止めは魔術師のみで行う! 城壁からの矢と回り込む敵兵に注意せよ!」

「守りを固めながら移動する! 本隊にドラゴンの正面が向かぬよう誘導せよ!」

左右が独立して動き始め、それぞれが急変した現場に対応しようとしている。その流れに合わせて、ベンチュリー伯爵も自らの騎士団を動かし始めた。

「もしワイバーンが現れたら我らが誘導する! イェリネッタ王国軍が現れたら真っ向からは交戦するな! いつでも動けるように距離を取って応戦するぞ!」

全員が歴戦の猛者であるが故に、予定外の事態であってもまるで決められた通りに動いているかのような見事な動きを見せる。

気がつけば、ドラゴンの左右を挟むように包囲網は敷かれ、スクデットの城壁の上にいる兵士たちにも牽制を行なっている。

「……ふむ、中々良い動きだ。あれならばすぐさま撤退するような事態にはならないだろう。それで……」

パナメラ子爵は自らに語りかけるように呟いた後、私に顔を向けて近づいてきた。

「アースドラゴンは大海に棲むという 大陸亀(ザラタン) に次ぐ頑強さであると聞く。刃は一切通らず、討伐には百人以上の一流の魔術師が必須である……というのが一般的な常識だ。その異常に硬いドラゴンの鱗を、バリスタで貫けるか?」

「……やったことはありませんが、私はヴァン様を信じています」

そう告げると、パナメラ子爵は頷いてバリスタを見た。

「あまり楽観的な性格ではない筈だがな」

そう前置きしてから、私に目を向け直す。

「私もそう思う」

パナメラ子爵は、そう口にして楽しそうに笑った。