軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【別視点】パナメラの騎士団と一緒に

「隊列乱すな!」

「はっ!」

「そこ! 半歩遅れてるぞ!」

「申し訳ありません!」

怒号のような声が飛び交い、最後尾をバリスタやカタパルトとともに行軍するボーラ達は、引き攣った顔で必死に歩いていた。

ヴァンが行軍指示をする場合、交代で馬車に乗って休憩したり、一時間歩いたら小休止、三時間歩いたら大休止と、かなりの頻度で休憩していたのだ。

だが、パナメラの騎士団は一時間歩いて五分休憩を一日繰り返し、朝と晩だけ食事が与えられるというものだった。

スクーデリア王国の騎士団としては一般的だが、ヴァンの結成した騎士団としては中々過酷なものである。

実は、連射式機械弓部隊以外の剣や槍で戦う部隊はそれなりの特訓を行なっていた。騎士団や傭兵、冒険者の経験を持つ者が多く、それ以外も体格的に恵まれていたり、体力に自信のある者達を集めているからだ。

だが、連射式機械弓部隊は違う。そういった本来求められる兵士としての資質を無視して集められた者達である。

普段のディーの特訓も、セアト村を防衛するための射撃訓練にウェイトが寄っていた。

「た、隊長。そろそろ、大休止を……」

「な、無いってば……私だって足が棒になってるよ」

「その棒もへし折れそうです……」

と、弱音を漏らしながら行軍を続け、五日間歩き続けた。

その日の野営では、先んじてスクデットの状況を偵察に行っていた先行部隊が戻っており、各部隊長を集めた会議となった。

パナメラの騎士団は少数精鋭だが、それでも部隊長だけで十人以上いる。皆が歴戦の猛者であり、戦いを前にして殺気立っている者もいた。

そんな中に、ボーラは参加させられている。

「大事な援軍の隊長であり、今回の戦いの要だ。さぁ、真ん中へ」

「は、はい……! し、失礼します!」

鎧を着込んだ大柄な男どもに囲まれて、ボーラはガチガチになりながらも椅子に座り、顔を上げた。

簡素なテーブル一つを真ん中に置いた状態で、輪になるように皆が椅子に座って背筋を伸ばす。皆の視線を受けて、パナメラが目を鋭く細めた。

「まず、情報の共有を行う。スクデットは城壁や門の補強を行いつつ、物資の支援を受け入れている最中のようだ。前回のスクデット退却戦では、国境騎士団とフェルティオ侯爵家騎士団がワイバーンや激しい炎を発する玉などの特異な攻撃を受け、敗走した。だが、その際に途中参戦したヴァン男爵の騎士団により、ワイバーン数体を討伐したという話もあった」

そこで話を区切ると、パナメラは皆を軽く見回す。

「つまり、奴らはイェリネッタ王国からワイバーンなどの戦力が補充されるまで、スクデットから出ない可能性が高い」

パナメラの言葉に、皆が浅く頷く。ボーラもそれに倣い、遅れながらも頷いてみせた。

それを確認しつつ、パナメラはさらに続ける。

「スクデットの位置を考えると、我々にイェリネッタ王国からの補給を断つ手段は無い。ならば、補給が完全にされる前に叩くのが最も効率が良いだろう」

そう言ったパナメラに、一人の騎士が口を開いた。

「よろしいでしょうか」

「なんだ」

パナメラの許可を得て、騎士はボーラを横目に見る。

「先程の話にあったヴァン男爵によるワイバーン討伐ですが、こちらのボーラ隊長率いる弓兵部隊が同様の技術と武器を有していると聞いております。それならば、たとえワイバーンが増えたとしても対処可能なのではありませんか?」

尋ねられ、パナメラは片方の眉をあげた。

「ふむ……ワイバーンさえ倒せるならば、イェリネッタよりも戦力を集中させやすい我が国の方が有利になる、か」

そう呟き、肩を竦める。

「私は、フェルティオ侯爵が敗走したことにより、これまでの戦い方は通じなくなったと思っている」

前置きして、パナメラは剣を抜いた。

「はっきり言って、我が騎士団はフェルティオ侯爵の騎士団よりも弱い。それは練度や質ではなく、単純に数の力だ。魔術師の数もそうだが、局所的な部分よりもやはり兵力の差が大きいだろう」

そう言って、剣を地面に突き刺す。皆の視線がその剣に向いた。

「鉄壁の城塞都市で国境騎士団が防衛戦を行い、更に援護としてフェルティオ侯爵が直属の騎士団を引き連れて参戦した。これだけの状況下にありながら、イェリネッタはあっさりとスクデットを奪い取ってしまった」

そう告げると、皆が険しい顔で押し黙る。

それを確認して、パナメラは剣を抜いた。

「四元素魔術師の力で正面突破する時代は十年前に終わりを告げた。そして、今主流となっている魔術師を多方向から断続的に導入する戦術も、今や終わりを告げたと言える」

そのパナメラの言葉に、一人の騎士が思わずといった顔で口を開く。

「では、今や最も強大な力を有しているのは、イェリネッタ王国だと……」

不服そうに呟かれたその言葉に、パナメラは不敵に笑い、剣を鞘に戻した。

「もしくは、ヴァン男爵の長距離攻撃を可能とするバリスタ及びカタパルト、か……まぁ、私は後者だと思っているが」

愉快そうにそう言うと、皆が再びボーラを見た。その視線を受けてボーラは一瞬狼狽えたが、すぐに意を決したように背筋を伸ばし、口を開く。

「……私も、ヴァン様の武器が最強であると信じて疑っていません。それをこれから証明してみせます」

はっきりとそう断言したボーラに、その場にいた皆の目が僅かに見開かれた。

そして、パナメラは面白そうにボーラの顔を眺めながら呟く。

「頼りないと思っていたが、意外に芯は強そうだな」

それから五日後、パナメラ達はスクデットの前に辿り着いた。僅かに遅れて国王直属の騎士団、フェルティオ侯爵家騎士団、ベンチュリー伯爵家騎士団、フェルディナット伯爵家騎士団が揃い踏みし、作戦通りに動き出す。

「隊列は崩すな。ワイバーンの動きを誘導する。注意して進め」

どの騎士団も同様の指示を出して動き出したが、パナメラの騎士団だけは違った。

「攻撃は一切するな。我らの役割はただ一つ、弓兵部隊を守ることだ」

「はっ!」

パナメラの指示に、騎士達が抜き身の剣を顔の前で掲げて返事をした。

そして、パナメラはボーラ達を見る。僅か十日前後で見違えるような整った隊列を見せるボーラ達をゆっくり眺めてから、口を開く。

「分かっているだろうが、君達はこの戦いの要となる。我々は命をかけてワイバーンを誘導し、君達を守る。だからこそ、君達にはワイバーンを討伐することに全力を尽くしてもらいたい」

言われて、ボーラ達は緊張感に満ちた表情で深く頷いた。

「任せてください」

代表してそう答えたボーラに笑みを返し、パナメラはボーラの後ろに並ぶ面々を見る。

「……ヴァン男爵は領地の防衛に弓兵の半数を割いているだろう。つまり、ここに派遣された君達は弓兵部隊の中でもイェリネッタ王国との戦いにおいて、必ず生き残れると男爵が信頼した精鋭である。その男爵の信頼を裏切らないように、勝って帰るとしようか」

その言葉に、ボーラ達は目つきを変えて頷いたのだった。