軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【別視点】戦争2 イェリネッタ側の動き

ドラゴンの登場により、敵軍は瞬く間に陣形を変えて対処している。

だが、対処といっても闇雲にドラゴンから距離を取っているだけとしか思えない動きだ。強力な魔術師を敢えて囮に使い、兵達は形だけの包囲の姿勢をみせている。

「まぁ、あれが相手では仕方があるまい」

私はそう口にすると、眼下に広がる景色を前に笑みを深める。

あのドラゴンは黒色玉を多量に用いて動きを鈍らせ、四肢を大鎖で拘束してようやく傀儡の魔術が効果を発したのだ。

尋常ではない資金と人的被害、そして多大な時間を掛けている。これで使えなかったら大変な損害だ。

しかし、今の戦場を見る限りは絶大な効果を挙げている。あの馬を操る魔術師の一団は間違いなくベンチュリー騎士団の者だ。城門を瞬く間に破壊した強力な魔術を惜しみ無くドラゴンに放っているが、ドラゴンは殆どダメージを受けていない。

それどころか、追い詰められて他の魔術師に援護される始末である。

「本当ならば、ここでワイバーンを投入して一気に決着をつけたいところだが……油断はできん」

敵が過去のままだったなら、新たな戦力を手にした我が軍の圧勝で終わった筈だ。

だが、先の戦いでは予想外の事態となった。結果として予定通り要所となるスクデットの制圧を完遂したが、失った戦力は予想を遥かに超えてしまった。

そのため、順次受け入れる筈の援軍に向けて早馬を出し、戦力の補充を頼み込む形となったのだ。

兄率いる王都侵攻のための主力はさておき、他の二軍がもし無傷で目標を制圧してしまったなら、私の評価は大きく落ち込むことだろう。

「それもこれも、全てあの謎の一団のせいだ……忌々しい!」

怒鳴り、振り返る。

後ろにいた副司令官のフレイトライナが硬い表情でこちらを見ていた。

我が弟ながら、気の弱い男である。すでに何度も戦争に出ているというのに、未だに私や他の弟の補佐ばかりだ。剣もそうだが、魔術師としても能力は低いのだから無理もないことかもしれない。

「……フレイトライナ。今より兵を分けて動く。貴様は歩兵を用いて右手側から攻めよ。黒色玉を使って牽制し、ドラゴンに向かうように誘導すれば良い。私は左手側から騎兵により誘導する」

そう指示をすると、フレイトライナは曖昧な笑みを浮かべて何度か頭を下げた。

「さ、流石はバシーズ兄様。中央にはドラゴン、左右からは黒色玉の爆発ってことだね? 最後は、ワイバーンで?」

と、媚びへつらうような顔と声でそんな返答をする。

その王族としての誇りも覚悟も感じられない腑抜けた顔に苛立ちながら、私は舌打ちをした。

「馬鹿め。先の戦いをもう忘れたか。あの時、ワイバーンは城壁の上に待機していたものも、空に飛んでいたものも、区別なく殺された。地上にいたものは首を切られ、空を飛ぶものは胴体を槍のようなもので射ち抜かれて殺されたのだ」

「じゃ、じゃあ、使わないってこと? 折角補充されたのに……」

「ドラゴン、ワイバーンは貴重なのだぞ。これ以上失えば大きな失態になる。使い所は王都を落とす時に限る。その最終決戦まで戦力は温存し、最後の王都侵略時に圧倒的戦力で焼き尽くすのだ」

我が作戦の一端を話すとフレイトライナは目を瞬かせた後、ようやく意味を理解して拍手を送ってきた。

「なるほど。流石はバシーズ兄様。じゃあ、この局面は撃退で十分ってことかな」

「馬鹿を言え。奴らの陣形はドラゴンを恐れてあんなに拡がっているんだぞ。包囲しながら薄い箇所を食い荒らしていけば、簡単に完勝できる。最低でもフェルティオ侯爵の首は獲るぞ。さらにその後の追撃で半数以上は叩き潰す」

「な、なるほど」

フレイトライナは意味が分かっていないのか、パッとしない声で生返事をする。

それに鼻を鳴らし、踵を返した。

「もう良い! 貴様は私の言う通りに動けば良いんだ! 分かったら今すぐ兵を率いて走れ!」

怒鳴ると、フレイトライナは慌てて走り出したのだった。

一方、フレイトライナは騎兵を率いて動き出すバシーズを冷めた目で眺め、自らの指揮する兵達を見た。

「……さぁ、こちらも動くよ。黒色玉は危ない時は自分の判断で使うように……出陣!」

声を張り上げると、兵達は興奮した面持ちで雄叫びをあげて歩き出した。

意気揚々と行進する味方の兵達を眺めて、フレイトライナはそっと溜め息を吐く。

「新しい玩具に皆はしゃぎ過ぎだね。馬鹿ばかりだ」

うんざりした様子でそう呟くと、フレイトライナは肩を竦めて馬の背に乗った。

フレイトライナがスクデットから出て戦場に目を向けると、中央に居座るドラゴンをスクーデリア軍は必死に牽制し、魔術を惜しみ無く放っているところだった。

「確かに、今までの戦いなら絶好の機会なんだろうけど……この状態でも一切動かない奥の本陣が不気味だね。敵方の新兵器は、どちらも対象を絞って破壊力を上げた兵器だった。ばらけた方が良いかもしれないな」

口の中でぶつぶつ呟き、フレイトライナは士官達を横目で見る。

「黒色玉を使うなら、密集した陣形に意味はない。十人長を中心に細かく分かれて敵を追い込む。ただし、あまり無理に追い立てないように。反対側は何も考えずに全力で追い立てる筈だ。そうすれば、敵の反撃はこちらに来ないからね。最初は様子見しておこう」

そう告げると、士官達は不服そうに顔を見合わせる。

「今こそ敵に大打撃を与える好機と判断しますが……」

代表するように中年の騎士がそう口にすると、フレイトライナは苦笑しつつ頷いた。

「そう判断する気持ちは分かるよ。ただ、前回の戦いで敵が新兵器を持ち出したこと。それと、これまでだったら戦略の要だった四元素魔術師をあれだけ投入していること。その二点を考えると、このままこちらが圧倒して終わるとは思えないよね?」

簡単に自身の考えを説明するフレイトライナに、中年の騎士は難しい顔で唸る。

「ふむ……それは確かですが、今回はまた状況が違う気もしますな。なにしろ、あのドラゴンを前にすればいかに敵の新兵器といえど……」

「それは希望的観測だよ。もし、新兵器がドラゴンに一切効果が無いとしたなら、どうする? 私が同じ立場なら、ドラゴンを封殺できる地形で戦える場所まで撤退する。なにせ、ドラゴン相手に魔術師を全て投入してしまえば戦争に負けることは分かりきっているからね。その後はただ追撃を受けながらの逃走劇だ。そんな馬鹿な戦い方はしないだろう?」

「むむ……それも、確かに納得のいく考えですな」

悩む騎士だったが、数秒考えた後、すぐに結論を下す。後ろに振り向き、大きな声で怒鳴った。

「フレイトライナ様のご命令である! 十人長を中心に隊を細かく分け、敵軍を包囲せよ! ただし、突出し過ぎず、ゆっくり慎重に追い立てるのだ!」

「はっ!」

その指示に、熟練の騎士達は即座に動き出す。その様子を見てホッと息を吐き、フレイトライナは馬を操って戦場から離れるように動いた。

「後は押し時と引き時だけだね。さぁ、どうなるか……」

フレイトライナが目を細めてそう呟く。

すると、それを合図にしたかのように戦場に変化が起きた。

スクーデリア軍を挟み込むようにして包囲し、それを狭めていくイェリネッタ軍。

ドラゴンに寄せられるように追い込まれていくスクーデリア軍は、素早くスクデットから離れるように動き出した。

釣られて、ドラゴンの頭もスクデットの反対側、スクーデリアの本陣へと向く。

次の瞬間、戦場を切り裂くように激しい絶叫が鳴り響いた。発生元はドラゴンである。

両眼から血を噴き出し、痛みから顔を上げて吼えるドラゴンに、更なる追撃が行われる。

首や胸、腹から僅かな出血が見られ、ドラゴンは横向きに倒れて地面の上で暴れた。

そして、口元に赤い炎が漏れ出る。向く先は、スクデットの方向だ。

「伏せろ!」

誰かの怒鳴り声が鳴り響き、フレイトライナはすぐに馬から降りて地面にしゃがみ込んだ。

直後、ドラゴンの口からマグマのように赤い炎が噴き出て、スクデットの城壁の二割を吹き飛ばした。直線上にいた不運な兵士たちが焼け焦げて死ぬ様を見て、フレイトライナは舌打ちをする。

「負け! 逃げるよ!」

あっさりと、フレイトライナは決断して暴れる馬を押さえに掛かった。