軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

敵を知る

朝日が昇り、海が光を細かく切り分けるように反射させている。穏やかな海は平和そのものに見えるが、人魚達の表情は険しい。

「あの水棲の魔獣より凶悪な存在がおるということですな」

ディーが腕を組んで呟く。その言葉に曖昧に頷き、リルダの横顔を見た。今日は昨日と違い、人魚たちも十人ほどしか見当たらない。いや、恐らくもっと来ている筈だが、どこかに待機しているのかもしれない。

「うん……人魚の人たちからの情報で、僕たちもまだ実際に見てはいないけどね」

そう言いつつ、実際には相当警戒していた。なにせ、あの化け物鯨が生息する海で暮らしてきたリルダ達が明確に脅威だと認識しているのだ。恐ろしい存在であることは間違いない。

「海か。厄介なのは地竜種よりも硬いと言われるザラタンとかいう魔獣か。剣も魔術も効果が無いと聞く」

パナメラがそう口にすると、アーブとロウが眉根を寄せて嫌な顔をした。

「……それ、勝てないよな?」

「いや、撃退だから……ディー様だけは討伐する気だけど」

二人も不安そうである。未知の敵とは恐ろしいのだ。しかし、そんな魔獣への恐怖心よりも強い気持ちで僕の前に立つ者がいた。まだ何も見えていないのに剣を握り締めたカムシンが、目を血走らせて海を警戒している。

「……ヴァン様の敵は殺す、ヴァン様の敵は殺す、ヴァン様の敵は殺す……」

小さく呪詛のような言葉を紡ぎ続けるカムシン。流石に怖過ぎる。

「カムシンは気合いが入ってますねぇ」

「……ちょ、ちょっと入り過ぎているような……」

カムシンの元気いっぱいの姿を見て、僕の後ろからティルとアルテのそんな会話も聞こえてくる。そこに、色々と準備をお願いしていたオルト達も帰ってくる。

「ヴァン様ー!」

「色々見つかりましたぜ!」

オルト達はご機嫌な様子で手を振りながら戻ってきた。山の探索をお願いしていたのだが、どうやら良い素材か鉱石が見つかったらしい。

「何がありました?」

尋ねると、オルト達は両手に毛皮やら肉やらを持って笑みを浮かべた。クサラがそれを地面に並べながら説明してくれる。

「大きな二足歩行の魔獣っすね。かなり耐久力があるやつで、打撃系は全然効かなかったんでさぁ! そいつの皮と肉、骨とかも切り分けやしたぜ!」

クサラがそんな説明をすると、プルリエルが毛皮を指差して口を開いた。

「とても弾力がある素材なので、ヴァン様なら色々活用できるかと思って」

「うわぁ、ありがとう!」

オルト達にお礼を言って、素材を受け取る。珍しい素材なので高く売れるだろうに、有難い話である。騎士団の皆が素材を砦に運んでいるのを横目に、海へと振り返った。

「静かなもんですねぇ」

「嵐の前の静けさってやつですかい?」

「海の中だと戦うのが難しいわね」

オルト達が揃って砦の壁に寄り掛かり、休憩しながら会話をしている声がする。未知の大型魔獣だというのに、流石に落ち着いているなと感心した。ディーとパナメラもそうだが、戦闘経験が豊富な者はいざという時も落ち着いているように思える。

そんなことを考えながら皆の顔を見ていると、人魚たちの方が少し騒がしくなった。

「ヴァンクンよ! 現れたぞ!」

ラルグスが少し緊張した様子で振り向き、そう言った。その言葉に頷いてディーに声を掛ける。

「それじゃあ、やろうか」

「はっ! 皆の者、配置につけ!」

合図を送るとディーが即座に指示を飛ばす。それぞれが防衛の為に動く中、リルダ達にも声を掛けた。

「それじゃあ、作戦通りに!」

「は、はい……!」

「承知した」

声を掛けると、リルダとラルグスが返事をして海に潜る。人魚たちの姿が消え、作戦は動き出す。

「……ふむ。海は静かなままだが、海底には何かがいるということか」

パナメラは一歩前に出て目を細めてそう口にした。それに頷き、アルテにも声を掛ける。

「アルテ」

「は、はい! 準備はできています!」

名前を呼ぶと、すぐにアルテは背筋を伸ばして返事をした。そして、海の家の前に待機する二体の人形を見る。

「ウッドブロック製だから、水中では戦えないからね?」

「は、はい!」

緊張している様子なので、もう一度だけ注意をしておく。それにもビシッと返事をするアルテ。緊張し過ぎている気がするが、それも仕方がないことだろう。リラックスしてと言ったところで、そんな簡単に肩の力が抜けたら苦労しない。

とはいえ、本当に危険なのは人魚たちである。今回の作戦では僕たちが海に入ることはない。対して、人魚たちは常に危険に晒されながら戦うこととなる。

いくらラルグスから言い出した作戦とはいえ、少し心配だ。

「……ヴァン様! 動きがありましたぞ!」

その時、ディーが大きな声を出して沖の方を指差した。その声に顔を上げて遠くを見ると、海が大きく盛り上がり、巨大な何かが姿を見せた。

大きな口と無数に生えた牙。その大きな頭を支える首は長く、五本並んでいた。

「……五本?」

そう呟き、目を凝らしてみると、水柱の中には十の目が光を放っていた。予想外のその姿に、思わず絶句してしまう。

「……五首の竜って、嘘でしょ? 五個の頭、それぞれに脳があるのかな……」

現実感の無い光景に、思わずそんなことを呟いてしまうのだった。